後悔しないために!「一人で会社を作るメリット」と知っておくべき注意点

一人での会社設立を検討中の方へ。
この記事を読めば、株式会社や合同会社といった一人会社の形態、個人事業主との違いが明確になります。

社会的信用の向上や節税効果といった大きなメリットがある一方、設立・維持コストや社会保険加入義務などの注意点も存在します。

メリット・デメリットを正しく理解し、ご自身の状況に合わせた最適な判断ができるよう、法人化の判断ポイントから設立の簡単な流れ、設立後の注意点まで詳しく解説します。

「一人会社」とは、その名の通り発起人(出資者)も設立後の役員(取締役など)も一人だけで設立し、運営する会社のことを指します。

法律上の正式な用語ではありませんが、一般的にこのように呼ばれています。

「一人社長の会社」や「マイクロ法人」といった呼び方をされることもあります。

事業を始める際に個人事業主としてスタートする方も多いですが、事業規模の拡大や節税、社会的信用の向上などを目的に、一人で会社を設立するケースが増えています。

法的には、会社法で定められた手続きを踏むことで、一人でも株式会社や合同会社といった法人格を持つ組織を作ることが可能です。
これにより、個人とは別人格の「法人」として事業活動を行うことができるようになります。

一人で設立できる会社の種類

現在、日本において一人で設立できる主な会社形態は「株式会社」と「合同会社」の2種類です。

それぞれの特徴を理解し、ご自身の事業計画や目的に合った形態を選ぶことが重要です。

株式会社の場合

株式会社は、株式を発行することで資金を調達し、その株式を持つ「株主」から委任された「取締役」が経営を行う会社形態です。
以前は設立に複数の役員や発起人が必要でしたが、2006年の会社法施行により、取締役1名、株主1名(その両方を同一人物が兼ねることも可能)での設立が認められました。
一人で株式会社を設立する場合、設立者自身が唯一の株主となり、同時に会社の代表取締役(社長)に就任するのが一般的です。
この形態は、社会的信用度が比較的高く、将来的に事業を拡大して外部から出資を受け入れたり、株式上場を目指したりする場合にも対応しやすいというメリットがあります。
ただし、後述する合同会社と比較すると、設立時の定款認証手数料や登録免許税などの法定費用が高くなる傾向があります。

合同会社の場合

合同会社は、出資者(「社員」と呼ばれます)全員が会社の業務執行権を持つ、比較的新しい会社形態です。
アメリカのLLC(Limited Liability Company)制度をモデルとして、株式会社と同様に2006年の会社法施行に伴い導入されました。
合同会社も、社員1名だけで設立することが可能です。

一人で合同会社を設立する場合、設立者自身が唯一の社員となり、会社の代表者(代表社員)となります。

合同会社の大きなメリットは、設立手続きが株式会社に比べて簡便で、法定費用も安く抑えられる点です。
具体的には、株式会社で必要な定款の認証が不要であり、設立登記の際の登録免許税も株式会社より低額です。
一方で、株式会社に比べるとまだ歴史が浅いため、知名度や社会的信用度の面で若干劣ると見られる可能性も考慮する必要があります。

個人事業主との主な違い

一人で事業を行うという点では「個人事業主」も同じですが、法人格を持つ「一人会社」とは、法律上の扱いや責任、税制面などで多くの違いがあります。

どちらの形態が適しているかは、事業の状況や将来の展望によって異なります。

主な違いを以下の表にまとめました。

項目一人会社(株式会社・合同会社)個人事業主
法人格あり(個人とは別人格)なし(個人と一体)
事業上の責任有限責任(原則として出資額の範囲内)無限責任(事業上の負債は個人の全財産で負う)
税金法人税、法人住民税、法人事業税など所得税、住民税、個人事業税など
設立手続き法務局への登記が必要(定款作成、費用発生)税務署への開業届提出(手続き簡単、費用なし)
社会的信用度一般的に高い会社形態に比べると低い傾向
経理・事務複雑(複式簿記、法人決算、社会保険手続きなど)比較的簡単(青色申告・白色申告)
赤字の繰越期間10年間(欠損金の繰越控除)3年間(青色申告の場合)

このように、一人会社は個人事業主と比較して、設立や維持に手間とコストがかかる反面、社会的信用や税制面、責任範囲などでメリットがあります。

次の章では、これらのメリットについてさらに詳しく解説していきます。

見逃せない 一人で会社を作るメリット

個人事業主として事業を行う選択肢もありますが、あえて一人で会社を設立することには、多くの魅力的なメリットが存在します。

事業の成長や将来設計を見据えたとき、法人化は有力な選択肢となり得ます。

ここでは、一人で会社を作ることによって得られる主なメリットを詳しく解説します。

メリット1 社会的な信用力が高まる

法人格を持つことは、個人事業主と比較して社会的な信用力が格段に向上する大きなメリットです。

会社という組織形態は、法律に基づいて設立・運営されており、登記情報も公開されるため、取引先や金融機関からの信頼を得やすくなります。

取引や契約における有利性

企業によっては、取引相手を法人に限定しているケースや、法人でなければ契約を結べない、あるいは不利な条件になることがあります。
特に、大企業との取引や公的機関の入札などにおいては、法人格が必須条件となることも少なくありません。

会社設立により、こうしたビジネスチャンスを逃すことなく、事業拡大の可能性を広げることができます。

金融機関からの資金調達

事業拡大や設備投資のために資金調達が必要になった際、法人は個人事業主よりも融資を受けやすい傾向にあります。
金融機関は、法人の決算書(貸借対照表や損益計算書など)を通じて経営状況を客観的に把握しやすく、事業の継続性や返済能力を評価しやすいためです。
適切な会計処理と情報開示を行うことで、より有利な条件での資金調達が期待できます。

メリット2 税金対策の選択肢が増える

一人会社を設立すると、個人事業主にはない様々な税金対策が可能になります。

所得が増えるほど、法人化による節税効果は大きくなる可能性があります。

役員報酬による節税効果

経営者自身に支払う給与(役員報酬)は、会社の経費として計上できます。
さらに、役員報酬を受け取る経営者個人にとっては給与所得となり、給与所得控除が適用されるため、所得税・住民税の負担を軽減できる可能性があります。
個人事業主の場合、事業所得から直接税金が計算されるため、この控除は利用できません。
所得を会社と個人に分散させることで、トータルでの税負担を抑える効果が期待できます。

経費計上できる範囲の拡大

法人化すると、個人事業主では経費として認められにくい費用も、会社の経費として計上できる範囲が広がります
例えば、経営者自身の生命保険料の一部(条件あり)、社宅家賃の一部、出張時の日当などを、会社のルールに基づいて経費として処理できる場合があります。
これにより、課税対象となる所得を圧縮し、法人税の負担を軽減することにつながります。

消費税の納税義務免除(条件あり)

新たに設立された会社は、原則として設立から最大2事業年度(※特定期間の課税売上高などの条件あり)は消費税の納税義務が免除されます。
資本金が1,000万円未満であることなどが主な条件です。
個人事業主から法人成りする場合も、この免除措置を受けられる可能性があるため、設立当初の資金繰りに余裕が生まれるというメリットがあります。(ただし、インボイス制度の導入により、免税事業者であっても適格請求書発行事業者として登録する場合は消費税の納税義務が発生します。)

赤字の繰越期間が長い

事業年度で赤字(欠損金)が発生した場合、その赤字を翌年度以降の黒字と相殺して法人税の負担を軽減できる「欠損金の繰越控除」という制度があります。
この繰越期間が、個人事業主の青色申告では3年間であるのに対し、法人は10年間(2018年4月1日以降開始事業年度)と非常に長いのが特徴です。
設立当初に赤字が出やすいスタートアップ企業などにとっては、将来的な税負担を軽減できる大きなメリットとなります。

メリット3 事業承継がスムーズになる

個人事業主の場合、事業主本人が亡くなると事業用の資産は相続財産となり、手続きが完了するまで凍結される可能性があります。

事業の継続が困難になるケースも少なくありません。

一方、会社は経営者個人とは別人格であるため、経営者が変わっても会社自体は存続します
株式の譲渡や相続によって、比較的スムーズに事業を次世代へ引き継ぐことが可能です。

将来的に事業を誰かに譲りたいと考えている場合、法人化は有効な手段となります。

メリット4 決算期を自由に決められる

個人事業主の事業年度は、法律により1月1日から12月31日までと定められています。
そのため、確定申告の時期は必ず2月中旬から3月中旬となり、繁忙期と重なってしまう方もいるでしょう。
しかし、法人は事業年度の最終月(決算期)を自由に設定できます。

例えば、自社の繁忙期を避けたり、資金繰りの都合が良い時期に設定したりするなど、柔軟な対応が可能です。
これにより、決算業務や納税の負担を分散させることができます。

メリット5 個人の責任範囲が限定される(有限責任)

個人事業主は、事業上の借入金や損害賠償などの負債に対して、事業用資産だけでなく個人の私有財産も含めてすべて返済する義務を負う「無限責任」です。
これに対し、株式会社や合同会社の出資者(社員)は、原則として自分が出資した金額の範囲内でのみ責任を負う「有限責任」となります。

万が一、事業がうまくいかず多額の負債を抱えてしまった場合でも、個人の財産まで差し押さえられるリスクを限定できます。
ただし、経営者個人が会社の借入に対して連帯保証人になっている場合は、個人も返済義務を負うことになるため注意が必要です。

事前に把握すべき 一人で会社を作る際の注意点

一人で会社を設立することには多くのメリットがありますが、同時に見過ごせない注意点も存在します。

メリットだけに目を向けて安易に法人化すると、「こんなはずではなかった」と後悔する可能性も否定できません。

ここでは、一人会社の設立を検討する上で、事前に必ず把握しておくべき重要な注意点を詳しく解説します。

注意点1 設立費用と維持コストが発生する

個人事業主として開業する場合、特別な手続き費用はほとんどかかりませんが、会社を設立するには初期費用(設立費用)と、事業を継続するための維持コストが必ず発生します。

会社設立時の法定費用と手数料

会社を設立する際には、法律で定められた費用(法定費用)がかかります。
主な法定費用は以下の通りです。

株式会社と合同会社で金額が異なります。

費用項目株式会社(電子定款の場合)株式会社(紙定款の場合)合同会社(電子定款の場合)合同会社(紙定款の場合)
定款用収入印紙代0円40,000円0円40,000円
定款認証手数料(公証役場)約50,000円 + 謄本代約50,000円 + 謄本代不要不要
登録免許税(法務局)資本金額の0.7% (最低150,000円)資本金額の0.7% (最低150,000円)資本金額の0.7% (最低60,000円)資本金額の0.7% (最低60,000円)
合計(最低額)約202,000円~約242,000円~60,000円~100,000円~

※上記はあくまで目安であり、資本金の額や定款のページ数などによって変動します。
また、これらの手続きを司法書士や行政書士などの専門家に依頼する場合は、別途手数料が発生します。
専門家への報酬も含めると、設立費用はさらに数万円から十数万円程度増加することを見込んでおく必要があります。

法人住民税など赤字でもかかる税金

会社を維持していくためには、様々なコストがかかります。
特に注意が必要なのは、たとえ事業が赤字であっても支払わなければならない税金があることです。

その代表例が「法人住民税の均等割」です。
これは、会社の所得(利益)に関わらず、資本金の額や従業員数に応じて課税される税金で、最低でも年間約7万円程度は必ず発生します。
所在地(都道府県・市町村)によって金額は異なります。

その他にも、税理士への顧問料(記帳代行や決算申告を依頼する場合)、社会保険料の会社負担分、オフィスの賃料(自宅兼事務所でない場合)など、様々な維持コストが発生します。
これらのランニングコストを事前に把握し、資金計画に組み込んでおくことが重要です。
個人事業主であれば赤字の場合、所得税や住民税がかからないケースが多いですが、法人は赤字でも負担が生じる点を理解しておきましょう。

注意点2 社会保険への加入が必須になる

個人事業主の場合、国民健康保険と国民年金に加入するのが一般的ですが、会社を設立すると、たとえ社長一人だけの会社であっても、社会保険(厚生年金保険・健康保険)への加入が原則として義務付けられます。

経営者自身も厚生年金 健康保険に加入

法人の場合、役員(社長)も従業員と同様に社会保険の被保険者となります。
これは、役員報酬の金額に関わらず、原則として強制加入です。
国民健康保険や国民年金から切り替える手続きが必要になります。

厚生年金に加入することで、将来受け取れる年金額が国民年金のみの場合よりも手厚くなるというメリットはありますが、保険料の負担は一般的に増加します。

保険料の会社負担分

社会保険料は、会社と被保険者(社長自身)がそれぞれ半分ずつ負担します(労使折半)。
つまり、社長個人の給与から天引きされる保険料と同額を、会社としても費用として支払う必要があるのです。

例えば、役員報酬に応じた社会保険料の総額が月額10万円だった場合、社長個人の負担が5万円、会社の負担が5万円となります。
この会社負担分は、法人にとって固定的なコスト増となるため、資金繰りに影響を与える可能性があります。
特に設立当初や売上が不安定な時期には、この負担が重くのしかかるケースも少なくありません。

注意点3 事務的な負担が増加する

会社を設立すると、個人事業主と比較して、経理や税務、法務に関する事務手続きが格段に複雑化し、その負担が増加します。
これらの事務作業を怠ると、ペナルティが課される可能性もあります。

法人登記や税務申告の複雑さ

会社設立時の登記申請だけでなく、設立後も様々な手続きが必要になります。

  • 役員変更登記: 株式会社の場合、役員には任期があり、任期満了ごとに改選手続きと変更登記が必要です(最長10年)。たとえ同じ人が再任する場合でも登記は必要で、怠ると過料の対象となります。
  • 決算申告: 毎事業年度終了後、2ヶ月以内に法人税、法人住民税、法人事業税などの税務申告と納税を行う必要があります。個人事業主の確定申告よりも複雑な計算や書類作成が求められます。
  • 年末調整: 役員報酬を支払っている場合、年末調整を行う義務があります。
  • 法定調書の作成・提出: 報酬の支払いなどに関して、法定調書合計表などの書類を作成し、税務署へ提出する必要があります。

これらの手続きは期限が厳格に定められており、専門的な知識が要求される場面も多くあります。

会計帳簿の作成義務

法人は、個人事業主以上に厳格な会計基準に基づいた帳簿作成(複式簿記)が義務付けられています。
日々の取引を正確に記帳し、貸借対照表や損益計算書といった決算書を作成する必要があります。

これらの会計帳簿や決算書は、税務申告の基礎となるだけでなく、融資を受ける際の審査資料や経営状況の把握にも不可欠です。
正確な帳簿を作成・保存していないと、税務調査で指摘を受けたり、青色申告の承認が取り消されたりするリスクがあります。
会計ソフトの導入や、税理士への依頼を検討する必要が出てくるでしょう。

注意点4 会社のお金を自由に使えない

個人事業主の場合、事業で得た利益は基本的に事業主個人のものとして比較的自由に使うことができますが、法人化すると、会社のお金と個人のお金は明確に区別され、社長であっても会社の資金を自由には使えなくなります。

役員報酬としての支給が必要

社長が会社から生活費などを受け取る場合は、「役員報酬」という形で、事前に定めた金額を定期的に受け取る必要があります。
個人事業主のように、必要な時に事業用の口座から自由に引き出す、ということは原則としてできません。

役員報酬の金額は、定款または株主総会(一人会社の場合は実質的に自分で決定)で決定し、議事録を作成しておく必要があります。
また、役員報酬の金額を事業年度の途中で自由に変更することは、原則として認められていません(損金算入が否認されるリスクがあります)。

個人への貸付等の制限

会社のお金を社長個人に貸し付けること(役員貸付金)は可能ですが、無利息や低利息での貸付は税務上問題となる可能性があります。
適正な利率を設定し、金銭消費貸借契約書を作成し、返済計画を立てる必要があります。

また、使途不明な支出や個人的な支出を会社の経費として計上することは、税務調査で厳しくチェックされ、追徴課税の対象となる可能性があります。
公私混同を避け、会社の資金管理を適切に行うことが強く求められます。

会社設立の代行費用実質0円、個人事業主とのメリットデメリット流れと手順

一人で会社を作るかどうかの判断ポイント

一人で会社を作る(法人化する)ことには、多くのメリットがある一方で、見過ごせない注意点も存在します。

勢いで法人化して後悔しないためには、ご自身の状況や将来の展望を踏まえ、慎重に判断することが重要です。

ここでは、法人化すべきかどうかの判断に役立つ具体的なポイントを解説します。

売上や所得の規模で考える

法人化を検討する最も一般的なきっかけの一つが、売上や所得の増加です。個人事業主の所得税は累進課税であり、所得が増えるほど税率が高くなります。

一方、法人税は一定の税率(資本金や所得に応じて段階的に設定)であるため、ある程度の所得を超えると、法人の方が税負担を抑えられる可能性があります。

具体的な目安として、課税所得が800万円から1,000万円程度を超えてくると、法人化による節税効果が期待できると言われています。
ただし、これは役員報酬の設定額や各種控除、経費の状況によって大きく変動するため、あくまで一般的な目安として捉えてください。

また、消費税の観点も重要です。個人事業主で課税売上高が1,000万円を超えると、原則としてその2年後から消費税の納税義務が発生します。
しかし、新たに会社を設立した場合、資本金1,000万円未満などの要件を満たせば、設立後最大2年間は消費税の納税が免除される可能性があります(特定期間の課税売上高など、他の要件も確認が必要です)。

以下の表は、所得規模に応じた税負担の一般的なイメージです(実際の税率は個別の状況や税制改正により異なります)。

課税所得の規模個人事業主 (所得税+住民税+事業税)法人 (法人税等+役員報酬への所得税等)判断のヒント
低い (例: ~500万円)比較的低い個人より高くなる可能性あり個人事業主のままが有利な場合が多い
中程度 (例: 500万円~800万円)中程度~やや高い個人と同程度か、やや有利になる可能性法人化を検討し始めるライン
高い (例: 800万円~)高い (累進課税の影響大)個人より有利になる可能性が高い法人化のメリットが大きい場合が多い

ただし、目先の税負担だけでなく、将来的な事業の成長性や利益の見込みも考慮して、中長期的な視点で判断することが肝心です。

今後の事業展開や目標で考える

現在の売上や所得だけでなく、将来どのような事業展開を目指しているかも、法人化を判断する上で重要な要素です。

  • 事業規模の拡大を目指す場合: 従業員を雇用したり、複数の拠点を展開したりするなど、事業規模の拡大を計画している場合、法人格を持つことで社会的信用力が高まり、取引先との契約や金融機関からの融資が有利に進む可能性があります。
  • 新規事業や許認可が必要な事業: 新しい分野への進出や、特定の許認可(建設業、人材派遣業、古物商など)が必要な事業を行う場合、法人格が必須条件であったり、取得が有利になったりするケースがあります。
  • 人材採用を強化したい場合: 法人化することで、社会保険への加入が義務付けられるなど、福利厚生面での整備が進み、求職者からの信頼を得やすくなります。優秀な人材を確保しやすくなる点は、事業成長において大きなメリットです。
  • 事業承継を考えている場合: 将来的に事業を後継者に引き継ぐことを視野に入れている場合、個人事業よりも株式譲渡等でスムーズに進められる法人の方が有利な場合があります。

このように、事業の将来像や目標達成のために法人格が必要か、あるいは有利に働くかという視点で検討することが大切です。

個人事業主と比較した場合の損得勘定

最終的な判断は、これまで見てきたメリットとデメリットを総合的に比較し、ご自身の状況にとってどちらがより合理的かを判断することになります。

単純な税金の比較だけでなく、以下の点を天秤にかける必要があります。

  • メリット: 社会的信用力の向上、税金対策の選択肢増加、有限責任、事業承継の円滑化、決算期の自由設定など。
  • デメリット: 設立費用・維持コストの発生(赤字でも法人住民税均等割などがかかる)、社会保険加入義務(保険料の会社負担分含む)、事務負担の増加(登記、複雑な経理・税務申告)、会社のお金を自由に使えない(役員報酬として受け取る)など。

以下の表で、個人事業主と一人会社(法人)の主な違いを整理してみましょう。

比較項目個人事業主一人会社 (法人)
税金所得税 (累進課税)、住民税、事業税、消費税 (条件により)法人税、法人住民税、法人事業税、消費税 (条件により)
+役員報酬に対する所得税・住民税
責任の範囲無限責任 (事業上の負債は個人の全財産で負う)有限責任 (原則として出資額の範囲内)
社会的信用力法人に比べて低い傾向個人事業主より高い傾向
設立・維持コスト比較的低い (開業届提出など)設立費用 (定款認証、登録免許税など) が必要
維持コスト (法人住民税均等割など) もかかる
事務負担比較的少ない (確定申告など)多い (法人登記、複雑な会計処理、法人税申告など)
社会保険国民健康保険、国民年金 (従業員5人未満の場合など)厚生年金、健康保険への加入義務あり (経営者自身も)
決算期原則1月1日~12月31日自由に設定可能

これらの違いを理解した上で、コストや手間、将来性をトータルで考え、どちらがご自身の事業スタイルや目標に適しているかを判断しましょう。

判断に迷う場合は、税理士などの専門家に相談し、具体的なシミュレーションを行ってみることを強くお勧めします。

会社設立の代行費用実質0円、個人事業主とのメリットデメリット流れと手順

一人で会社を作るための簡単な流れ

一人で会社を設立すると決めたら、次は何をすべきでしょうか?

ここでは、会社設立の具体的なステップを順を追って解説します。

スムーズな手続きのために、全体像を把握しておきましょう。

設立する会社形態の選択

まず、設立する会社の形態を「株式会社」と「合同会社」のどちらにするか選択します。

一人会社の場合、どちらの形態でも設立可能です。

それぞれの特徴を理解し、ご自身の事業計画や目的に合った方を選びましょう。

一般的に、株式会社は社会的信用度が高いとされる一方、設立費用や運営コストが合同会社より高くなる傾向があります。

合同会社は、設立費用が比較的安く、経営の自由度が高いのが特徴です。

以下の表で主な違いを確認してみましょう。

項目株式会社合同会社
設立時の法定費用(目安)約20万円~(定款認証手数料、登録免許税など)※電子定款の場合約6万円~(登録免許税のみ)
定款認証必要(公証役場)不要
役員の任期原則2年(最長10年まで伸長可能)任期なし(定款で定めることも可能)
社会的信用度高い傾向株式会社に比べるとやや低い傾向(近年向上)
意思決定株主総会原則として社員全員の一致(定款で別段の定めも可能)
利益配分出資比率に応じて配当定款で自由に決定可能

一人会社の場合、意思決定や利益配分に関する違いはあまり問題になりませんが、設立コストや将来的な事業拡大(資金調達や信用度)を考慮して選択することが重要です。

会社設立に必要な手続き概要

会社形態を決めたら、いよいよ設立手続きに入ります。

大まかな流れは以下の通りです。

各ステップで必要な書類や注意点がありますので、事前に確認しておきましょう。

  1. 定款の作成(株式会社の場合は認証も)
  2. 資本金の準備と払込
  3. 法務局への設立登記申請
  4. 税務署など関係各所への設立後の届出

以下で、それぞれのステップについて詳しく見ていきましょう。

定款作成と認証(株式会社の場合)

定款(ていかん)とは、会社の組織や運営に関する基本的なルールを定めた書類で、「会社の憲法」とも呼ばれます

以下の項目は必ず記載しなければならない「絶対的記載事項」です。

  • 商号(会社名)
  • 目的(事業内容)
  • 本店の所在地
  • 設立に際して出資される財産の価額またはその最低額
  • 発起人の氏名または名称および住所

この他にも、株式に関する事項や役員に関する事項などを定めます。

一人会社の場合でも、将来的な変更の可能性を考慮して作成しましょう。

株式会社を設立する場合、作成した定款は公証役場で認証を受ける必要があります。

認証には手数料(通常5万円)がかかります。
ただし、電子定款を作成し、電子認証を行えば、定款に貼付する収入印紙代(4万円)が不要になります。

一方、合同会社の場合は定款の作成は必要ですが、公証役場での認証は不要です。
この点が、合同会社の設立費用を抑えられる理由の一つです。

資本金の準備と払込

会社法上は、資本金1円から会社を設立できます。
しかし、資本金は会社の体力や信用度を示す指標の一つであり、設立当初の運転資金にもなるため、事業計画に基づいて適切な金額を設定することが推奨されます。
許認可が必要な事業の場合、一定額以上の資本金が要件となっていることもあります。

資本金は、発起人(一人会社の場合は自分自身)の個人名義の銀行口座に振り込みます。
振込が完了したら、通帳の表紙、裏表紙(銀行名、支店名、口座番号、口座名義人がわかるページ)、そして該当の振込が記帳されたページをコピーし、「払込証明書」を作成します。
これが資本金が確かに払い込まれたことの証明となり、設立登記申請時に必要となります。

法務局への設立登記申請

定款の準備(株式会社は認証含む)と資本金の払込が完了したら、本店所在地を管轄する法務局に設立登記の申請を行います。
この登記申請日が、会社の設立日となります。

登記申請には、以下の書類などが必要です(会社形態や定款の内容によって異なります)。

  • 設立登記申請書
  • 登録免許税納付用台紙(収入印紙を貼付)
  • 定款(認証済みのもの)
  • 発起人の決定書(または同意書)
  • 役員(取締役など)の就任承諾書
  • 印鑑証明書(発起人、役員)
  • 資本金の払込証明書
  • 印鑑届書(会社実印の登録)

申請方法は、法務局の窓口に直接提出するほか、郵送やオンライン(登記・供託オンライン申請システム)でも可能です。

登記申請時には、登録免許税を納付する必要があります。

税額は資本金の額によって決まりますが、最低額が定められています

会社形態登録免許税額
株式会社資本金の額 × 0.7% (最低15万円)
合同会社資本金の額 × 0.7% (最低6万円)

税務署などへの設立後の届出

法務局での設立登記が完了したら、会社設立の手続きは終わりではありません。
税務署や都道府県税事務所、市町村役場、年金事務所など、関係各所へ必要な届出を行う必要があります。
これらの届出には提出期限が設けられているものが多いので、登記完了後、速やかに行いましょう。

主な届出先と書類は以下の通りです。

届出先主な届出書類提出期限(目安)
税務署法人設立届出書設立の日以後2か月以内
(同上)青色申告の承認申請書設立の日以後3か月を経過した日と設立第1期の事業年度終了の日とのいずれか早い日の前日まで
(同上)給与支払事務所等の開設届出書給与支払事務所設置から1か月以内
(同上)源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書適用を受けたい月の前月末日まで
都道府県税事務所
市町村役場
法人設立届出書(事業開始等申告書)都道府県・市町村により異なる(例: 設立の日から15日以内、1か月以内など)
年金事務所健康保険・厚生年金保険 新規適用届事実発生から5日以内
(同上)健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届事実発生から5日以内
労働基準監督署
(従業員を雇用する場合)
労働保険 保険関係成立届保険関係成立の日の翌日から10日以内
ハローワーク
(従業員を雇用する場合)
雇用保険 適用事業所設置届設置の日の翌日から10日以内
(同上)雇用保険 被保険者資格取得届資格取得の事実があった日の翌月10日まで

一人会社であっても、役員報酬を支払う場合は社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が義務となります。

年金事務所への届出は忘れずに行いましょう。従業員を雇用しない場合は、労働保険(労災保険・雇用保険)に関する手続きは原則不要ですが、社長一人でも労災保険に特別加入することは可能です。

これらの手続きは複雑に感じるかもしれませんが、一つ一つ着実に進めていくことが大切です。

必要に応じて、司法書士や税理士などの専門家に相談することも検討しましょう。

会社設立の代行費用実質0円、個人事業主とのメリットデメリット流れと手順

一人会社設立後に気をつけたいこと

念願の一人会社を設立した後も、事業を軌道に乗せ、継続的に成長させていくためには、いくつかの重要なポイントに注意を払う必要があります。

設立手続きの完了はゴールではなく、新たなスタートです。ここでは、特に注意すべき3つの点について詳しく解説します。

適切な役員報酬額の設定方法

一人会社の経営者にとって、役員報酬の設定は非常に重要な経営判断の一つです。

役員報酬は、会社の利益から経営者個人に支払われる給与であり、その金額は会社の損金(経費)として認められるかどうかに大きく関わってきます。

損金として認められるためには、税法上のルールを守る必要があります。

主なルールは以下の通りです。

種類概要一人会社でのポイント
定期同額給与事業年度を通じて、毎月同じ時期に同じ金額を支払う給与。一人会社では、基本的にこの方法で役員報酬を設定します。事業年度開始(または設立)から3ヶ月以内に金額を決定し、その後は原則として事業年度終了まで変更できません。
事前確定届出給与事前に税務署に届け出た時期・金額に基づいて支払われる給与(賞与など)。利用する場合は、厳格な手続きが必要です。届け出た内容と異なる支給は損金算入が認められません。
業績連動給与会社の業績に応じて支払われる給与。適用要件が厳しく、通常、一人会社(非同族会社を除く)では利用できません。

役員報酬の金額を決める際は、以下の点を考慮しましょう。

  • 会社の利益計画: 無理のない範囲で、利益を圧迫しすぎない金額を設定します。
  • 経営者の生活費: 個人の生活に必要な金額を考慮します。
  • 社会保険料: 役員報酬額に応じて、会社と個人が負担する社会保険料(厚生年金・健康保険)が決まります。報酬が高いほど負担も増えます。
  • 所得税・住民税: 役員報酬は個人の所得となるため、所得税・住民税が課税されます。

役員報酬を高く設定しすぎると社会保険料や税金の負担が増え、会社のキャッシュフローを悪化させる可能性があります。
逆に低すぎると、個人の生活が成り立たなかったり、モチベーションの低下につながることもあります。

会社の状況や将来の計画を踏まえ、税理士などの専門家とも相談しながら、最適なバランスを見つけることが重要です。

経理や税務の専門家活用

一人会社であっても、法人である以上、個人事業主よりも複雑な経理処理や税務申告が義務付けられます。

帳簿の作成、決算書の作成、法人税申告、消費税申告(課税事業者になった場合)、年末調整など、専門的な知識が必要となる作業が多く発生します。

これらの業務を経営者自身が行うことも可能ですが、多くの時間と労力を要します。
特に設立当初は、本業である事業活動に集中するためにも、経理や税務の専門家である税理士の活用を検討することをおすすめします。

税理士に依頼する主なメリットは以下の通りです。

メリット詳細
正確な経理処理と税務申告複雑な会計基準や税法に基づき、ミスなく処理・申告を行えるため、追徴課税などのリスクを回避できます。
節税に関するアドバイス最新の税制に基づいた適切な節税対策のアドバイスを受けられ、無駄な税金の支払いを防ぐことができます。役員報酬の設定や経費計上に関する相談も可能です。
経営への集中煩雑な事務作業から解放され、経営者は本来注力すべき事業活動に時間とエネルギーを集中できます。
資金調達や経営相談決算書や試算表の作成を通じて会社の財務状況を把握しやすくなり、金融機関からの融資を受ける際にも有利になります。経営に関する相談相手にもなり得ます。
税務調査への対応万が一、税務調査が入った場合でも、専門家として適切な対応をしてもらえます。

税理士への報酬はコストになりますが、それ以上に時間的・精神的な負担軽減や、適切な節税によるメリットを考えると、有効な投資と言えるでしょう。

最近では、クラウド会計ソフトと連携し、比較的リーズナブルな料金でサポートを提供する税理士事務所も増えています。

自社の規模やニーズに合った専門家を探してみましょう。

資金繰りの計画的な管理

会社の「血液」とも言われる現金の流れ、すなわち資金繰りの管理は、一人会社の経営において最も重要な要素の一つです。

たとえ帳簿上は黒字であっても、手元の現金が不足すれば、仕入れ代金や経費の支払いができなくなり、最悪の場合、倒産に至る可能性もあります(黒字倒産)。

一人会社は、経営者個人の資金と会社の資金が混同しやすいため、特に意識的な管理が必要です。

以下の点に注意し、計画的な資金繰りを心がけましょう。

注意点・対策具体的な行動
資金繰り表の作成と活用将来の現金の収入と支出を予測し、一覧にした「資金繰り表」を作成します。最低でも数ヶ月先まで予測し、定期的に実績と比較・見直しを行いましょう。これにより、資金ショートの危険性を早期に察知できます。
売掛金の早期回収と買掛金の支払管理請求書の発行を迅速に行い、入金期日を管理します。回収が遅れそうな場合は早めに督促しましょう。一方で、仕入れ代金などの支払いは、支払いサイト(期限)を把握し、計画的に行います。
経費の見直しとコスト削減固定費(家賃、リース料など)や変動費(仕入れ、外注費など)を定期的に見直し、不要な支出がないか確認します。削減できるコストは積極的に削減しましょう。
余裕を持った資金調達資金が不足しそうになってから慌てて動くのではなく、事前に余裕をもって資金調達の準備を進めておくことが重要です。日本政策金融公庫の創業融資や、地方自治体の制度融資など、有利な条件で利用できる公的な融資制度も積極的に検討しましょう。
適切な利益確保当然ながら、事業で継続的に利益を上げることが、安定した資金繰りの基盤となります。価格設定やサービスの付加価値向上など、利益確保のための戦略も常に考えましょう。

日々の取引からキャッシュフローを意識し、常に会社の資金状況を把握しておくことが、一人会社を安定的に経営していくための鍵となります。

資金繰り表の作成や見方が難しい場合は、会計ソフトの機能を利用したり、税理士に相談したりするのも有効な手段です。

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個人事業主という選択肢と比較し、ご自身の売上規模や所得、将来の事業計画などを総合的に考慮することが、後悔しないための重要な判断ポイントとなります。

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