合同会社と株式会社の設立を検討する際、毎年のランニングコストにどのくらい差があるのか疑問に思う方は多いでしょう。
この記事では、両者の年間維持費の内訳を徹底比較し、税理士顧問料や社会保険料、法人住民税などの固定費から、維持費を最小限に抑える具体的なコツまでわかりやすく解説します。
結論として、合同会社は決算公告の掲載義務や役員の任期に伴う変更登記費用が発生しないため、株式会社よりも維持費を安く抑えられます。
この記事を読めば、自社に最適な法人格の選択肢と、設立後のコスト削減対策が明確に分かります。
1. 合同会社と株式会社の年間維持費(ランニングコスト)におけるみんなの疑問とは
起業を検討する際、多くの起業家や個人事業主が頭を悩ませるのが、会社を維持するために毎年発生する「年間維持費(ランニングコスト)」です。
設立時の費用(イニシャルコスト)だけでなく、会社を存続させるために毎年払い続けなければならないコストを正確に把握しておくことは、健全な事業計画を立てる上で極めて重要です。
ネット上やSNSでは、「合同会社は株式会社よりも維持費が安い」という情報を目にするものの、「具体的に何がどう違うのか」「赤字でも発生する費用はあるのか」といった疑問や不安の声が数多く見られます。
本章では、法人の維持費の全体像と、合同会社と株式会社で維持費に差が生まれる根本的な理由について分かりやすく解説します。
1.1 そもそも維持費とは何が含まれるのか
法人の維持費(ランニングコスト)とは、事業活動を行っているかどうかにかかわらず、会社という組織を維持・存続させるために最低限必要となる費用全般を指します。
これには、税金や法律で定められた手続き費用のほか、外部の専門家へ支払う報酬などが含まれます。
法人の維持費に含まれる主な項目は、大きく分けて以下の4つのカテゴリーに分類されます。
| 費用の分類 | 具体的な費用項目 | 特徴・発生の有無 |
|---|---|---|
| 税金(固定費) | 法人住民税(均等割) | 赤字であっても、会社が存在する限り毎年最低約7万円が必ず発生します。 |
| 法定手続き費用 | 決算公告費用、役員変更登記費用 | 会社法などの法律に基づき、定期的に支払いや登記が必要となる費用です。 |
| 外部委託費用 | 税理士顧問料、決算申告報酬 | 税務申告を正しく行うために、税理士などの専門家に支払う報酬です。 |
| 社会保険料 | 健康保険・厚生年金保険の会社負担分 | 役員報酬や従業員の給与を支払う際、会社が義務として負担する保険料です。 |
このように、維持費には法律で一律に決められている「固定費」と、会社の規模や依頼する専門家によって変動する「変動費」があります。
特に、利益がゼロの赤字決算であっても毎年必ず支払わなければならない税金や手数料が存在するという点は、個人事業主から法人化(法人成り)を検討する上で、最初に理解しておくべき重要なポイントです。
1.2 合同会社と株式会社で維持費に違いが出る理由
合同会社(LLC)と株式会社の維持費を比較した際、一般的に「合同会社の方が安く済む」と言われます。
なぜ、同じ法人格であるにもかかわらず、毎年の維持費に違いが生じるのでしょうか。
その理由は、会社法における組織のルールや義務の違いにあります。
株式会社は「所有と経営の分離」を前提とした組織です。
出資者(株主)と経営者(取締役)が異なるため、社会的な信用度を高めるための情報開示や、組織の透明性を担保するための厳格なルールが法律で義務付けられています。
そのため、以下のような手続きとそれに伴う費用が定期的に発生します。
- 会社の決算状況を一般に公表する「決算公告」の義務
- 役員の任期満了に伴う「役員変更登記」の義務
これに対して、合同会社は「所有と経営の一致」を特徴とする組織です。
出資者自身が経営を行うため、組織運営に関するルールが非常に柔軟に設計されています。
会社法上、合同会社には決算公告の義務がなく、役員の任期制限も設けられていないため、これらの手続きに伴う費用が一切発生しません。
つまり、税理士費用や社会保険料、法人住民税といった共通の維持費を除くと、法律によって義務付けられている手続きの多さが、そのまま株式会社と合同会社の維持費の差となって現れるのです。
2. 合同会社と株式会社の年間維持費を徹底比較
合同会社と株式会社では、設立時の費用だけでなく、会社を維持していくために毎年発生するランニングコスト(年間維持費)にも大きな違いがあります。
まずは、両者の年間維持費にどのような違いがあるのか、一覧表で全体像を把握しましょう。
| 維持費の項目 | 合同会社 | 株式会社 |
|---|---|---|
| 法人住民税の均等割 | 最低約7万円 / 年(赤字でも発生) | 最低約7万円 / 年(赤字でも発生) |
| 税理士顧問料・決算申告料 | 約20万〜50万円 / 年(規模による) | 約20万〜50万円 / 年(規模による) |
| 社会保険料の事業者負担分 | 役員報酬・従業員給与に応じて発生 | 役員報酬・従業員給与に応じて発生 |
| 決算公告の掲載費用 | 不要(0円) | 毎年約7万4,000円(官報掲載の場合) |
| 役員の変更登記費用 | 原則不要(任期なし) | 最長10年ごとに1万円または3万円(登録免許税) |
このように、共通して発生する固定費がある一方で、株式会社にのみ義務付けられている維持費が存在することがわかります。
それぞれの項目について、詳しく解説していきます。
2.1 どちらにも共通して発生する固定費
合同会社であっても株式会社であっても、法人格を持つ以上は避けて通れない共通の固定費があります。
これらは会社の規模や売上、役員報酬の有無などによって変動しますが、事業を継続する限り毎年必ず発生するコストです。
2.1.1 法人住民税の均等割
法人住民税の「均等割」とは、法人の所得(利益)が赤字であっても、地方自治体内に事務所が存在するだけで毎年必ず支払わなければならない税金です。
資本金1,000万円以下、従業員数50人以下の一般的な中小企業の場合、年間で最低約7万円(都道府県民税2万円+市町村民税5万円)が課税されます。
この金額は合同会社と株式会社で一切変わりません。
2.1.2 税理士への顧問料や決算申告費用
法人は個人事業主よりも会計処理が非常に複雑であり、年に一度の決算申告を自力で行うのは極めて困難です。
そのため、多くの企業が税理士と顧問契約を結ぶか、決算申告のみをスポットで依頼します。
税理士費用の相場は年間約20万〜50万円程度ですが、これは会社の売上規模や取引数、記帳代行を依頼するかどうかによって変動し、組織形態(合同会社か株式会社か)による直接的な違いはありません。
2.1.3 社会保険料の事業者負担分
法人は、代表者1人のみ(役員報酬あり)であっても、健康保険および厚生年金保険(社会保険)への加入が法律で義務付けられています。
社会保険料は労使折半となるため、会社は役員や従業員の給与から天引きする分と同額を「事業者負担分」として支払わなければなりません。
負担額は役員報酬や給与の金額に比例するため、役員報酬を高額に設定するほど、会社の年間維持費としての社会保険料負担は重くなります。
2.2 株式会社だけで発生する年間維持費
株式会社には、合同会社にはない法律上の義務が複数課せられており、それに伴う特有のランニングコストが発生します。
これが「株式会社は合同会社よりも維持費が高い」と言われる最大の理由です。
2.2.1 決算公告の掲載費用
株式会社は、毎事業年度の終了後に決算書(貸借対照表)を一般に開示する「決算公告」を行う義務が会社法で定められています。
最も一般的な掲載方法である政府発行の「官報」を利用する場合、毎年約7万4,000円の掲載費用が定常的に発生します。
なお、合同会社にはこの決算公告の義務がないため、掲載費用は一切かかりません。
2.2.2 役員の任期満了に伴う変更登記費用
株式会社の取締役や監査役には法律上の「任期」があります。
非公開会社(譲渡制限会社)であれば定款で最長10年まで伸長できますが、どれだけ長くても10年に一度は役員の再任(重任)または交代の手続きを行い、法務局で登記を更新しなければなりません。
この役員変更登記の際には、登録免許税として1万円(資本金1億円超の企業は3万円)がかかるほか、司法書士へ手続きを依頼する場合は数万円の報酬が別途発生します。
2.3 合同会社だけで発生する維持費はあるのか
結論から申し上げますと、合同会社だけで発生する特有の年間維持費(ランニングコスト)は存在しません。
合同会社は、決算公告の義務がなく、役員の任期にも制限がないため、株式会社で発生するような定期的な登記費用や広告費用を完全にゼロに抑えることができます。
したがって、純粋な維持費の安さという観点においては、合同会社が圧倒的に有利であると言えます。
3. 合同会社と株式会社の年間維持費を安く抑えるコツ
合同会社と株式会社のどちらを選んだとしても、会社を維持するためには毎年一定のコストが発生します。
しかし、事前の対策や工夫次第で、年間維持費を大幅に削減することが可能です。
ここでは、具体的な4つの節約テクニックについて詳しく解説します。
3.1 法人住民税の均等割を最小限に抑える方法
会社が赤字であっても毎年必ず支払わなければならない「法人住民税の均等割」は、年間最低でも約7万円(都道府県民税・市町村民税の合計)がかかります。
この均等割の金額を最小限に抑えるポイントは、「資本金の額」と「従業員数」を低く設定することです。
多くの自治体では、資本金が1,000万円以下、かつ従業員数が50人以下であれば、均等割は最低税率(年額約7万円)が適用されます。
起業時に必要以上の資本金を設定したり、不要に多くの従業員を抱えたりすると、均等割の負担が増す可能性があるため注意が必要です。
| 資本金区分 | 従業員数区分 | 均等割のおおよその目安(年額) |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 50人以下 | 約70,000円 |
| 1,000万円以下 | 50人超 | 約120,000円 |
| 1,000万円超〜1億円以下 | 50人以下 | 約180,000円 |
3.2 決算公告の費用を電子公告で節約する
株式会社には、毎事業年度の決算後に「決算公告」を行う義務があります。
この公告方法には「官報への掲載」「日刊新聞紙への掲載」「電子公告(自社ホームページなどへの掲載)」の3種類があります。
合同会社には決算公告の義務がないため、これは株式会社が年間維持費を抑えるために極めて重要なポイントとなります。
官報に掲載する場合は毎年約74,000円の費用がかかりますが、自社のホームページを利用した電子公告(貸借対照表の開示)を選択すれば、掲載費用は実質0円に抑えることができます。
定款で公告方法を「電子公告」と定めておくことで、毎年の固定費を大幅に削減できます。
3.3 役員の任期を最長10年に延ばして登記費用を削る
株式会社の役員(取締役や監査役)には任期があり、任期が満了するたびに、たとえ同じ人が再任(重任)される場合であっても、役員変更登記を行う必要があります。
この登記には、登録免許税(資本金1億円以下の会社は1万円、1億円超は3万円)と、司法書士への報酬などの実費がかかります。
株式会社の原則的な役員任期は2年(監査役は4年)ですが、非公開会社(すべての株式に譲渡制限がある会社)であれば、定款を変更することで役員の任期を最長10年まで伸長することが可能です。
任期を10年に延ばすことで、2年ごとに発生していた登記費用と手間を5分の1に削減できます。
なお、合同会社の業務執行社員には任期の制限がないため、この登記費用は発生しません。
3.4 税理士費用を記帳代行やクラウド会計ソフトで抑える
税理士への顧問料や決算申告費用は、会社の維持費の中でも大きな割合を占めます。
この費用を抑えるためには、自社でできる業務を増やし、税理士の作業負担を減らすことが有効です。
「マネーフォワード クラウド会計」や「freee(フリー)」、「弥生会計 オンライン」などのクラウド会計ソフトを導入し、日々の仕訳や記帳を自社で行う(自計化する)ことで、税理士に支払う記帳代行費用をカットできます。
また、毎月の顧問契約を結ばず、決算申告のみをスポットで依頼する契約形態にすることで、年間の税理士費用を大幅に節約することも可能です。
自社の経理スキルに合わせて、最適なプランを選択しましょう。
4. 合同会社と株式会社のどちらを選ぶべきか
合同会社と株式会社のどちらを設立すべきかは、単に目先の年間維持費の安さだけで決めるべきではありません。
自社が目指す事業規模、将来的な資金調達の予定、そして取引先から求められる信用度など、ビジネスモデルや成長戦略に合わせて最適な法人格を選択することが重要です。
ここでは、それぞれの法人格がどのような企業に向いているのか、判断基準を明確に解説します。
4.1 維持費の安さを最優先するなら合同会社
スモールビジネスや個人事業主からの法人化(法人成り)で、とにかく設立コストとランニングコストを最小限に抑えたい場合は合同会社が向いています。
合同会社は、株式会社のように決算公告の義務がなく、役員の任期にも制限がありません。
そのため、登録免許税などの設立費用が安いだけでなく、登録免許税の再納付や官報掲載にかかる定期的な維持費を完全にゼロにできるという大きなメリットがあります。
また、出資者全員が業務執行権を持つため、意思決定のスピードが非常に早いことも特徴です。
株主総会の開催手続きなども不要なため、事務的な負担も最小限に抑えられます。
合同会社の設立が向いている主なケースは以下の通りです。
- 個人向けのサービス業(サロン、飲食店、カウンセリングなど)
- BtoBビジネスであっても、特定の少数の取引先としか取引しない場合
- システムエンジニアやライター、デザイナーなどのフリーランスが法人成りする場合
- 家族経営や1人だけで事業を完結させる場合
4.2 信用度や資金調達を重視するなら株式会社
将来的に事業を大きく拡大させたい、あるいは外部からの資金調達や優秀な人材の採用を計画している場合は株式会社を選ぶべきです。
株式会社は日本国内で最も広く知られている法人格であり、取引先や金融機関、一般消費者からの社会的信用度が非常に高いという強みがあります。大手企業の中には、取引条件として「株式会社であること」を明文化しているケースも少なくありません。
また、株式を発行することで、ベンチャーキャピタル(VC)やエンジェル投資家から広く出資を募る(資金調達を行う)ことが可能です。
将来的な上場(IPO)を目指す場合も、株式会社を選択する必要があります。
株式会社の設立が向いている主なケースは以下の通りです。
- 将来的に事業をスケールさせ、上場(IPO)を目指す場合
- ベンチャーキャピタルなどから大規模な資金調達を行う予定がある場合
- 大手企業をターゲットとしたBtoBビジネスを展開する場合
- 優秀な人材を積極的に採用し、組織を拡大していきたい場合
最後に、合同会社と株式会社の主な違いを比較表にまとめました。自社の事業計画と照らし合わせて、どちらが適しているか検討してください。
| 比較項目 | 合同会社 | 株式会社 |
|---|---|---|
| 設立時の法定費用 | 約6万円から(電子定款の場合) | 約20万円から(電子定款の場合) |
| 決算公告の義務 | なし(費用0円) | あり(年間約3万円から) |
| 役員の任期制限 | なし(登記費用0円) | 最長10年(都度、登記費用が必要) |
| 資金調達の手法 | 自己資金、融資、少人数私募債など | 融資に加え、株式発行(VC・エンジェル投資家)が可能 |
| 社会的信用度 | 認知度は向上しているが、株式会社に劣る | 極めて高い(大手取引や採用活動に有利) |
| 意思決定の仕組み | 出資者全員の合意(迅速な決定が可能) | 株主総会および取締役会による決定 |
5. まとめ:維持費と目的を考慮して最適な法人格を選ぼう
合同会社と株式会社の年間維持費を比較すると、決算公告や役員の変更登記費用が発生しない合同会社の方が、ランニングコストを低く抑えられます。
そのため、維持費の安さを最優先するなら合同会社がおすすめです。
一方で、将来的な資金調達や社会的信用度を重視するなら、株式会社を選ぶべきだと言えます。
自社の事業規模や目的に合わせ、クラウド会計ソフトの導入などによる節約のコツも取り入れながら、最適な法人格を選択しましょう。