株式会社設立の資本金をいくらにすべきか、多くの起業家が悩むポイントです。
この記事では、資本金の平均相場から、運転資金や会社の信用度、融資、税金面などを考慮した最適な金額の決め方を6つのポイントで徹底解説します。
結論、資本金は運転資金の3〜6ヶ月分が1つの目安です。
払い込み手続きから注意点まで網羅し、あなたの資本金に関する疑問をすべて解決します。
株式会社設立における資本金とは?まず基本を理解しよう
株式会社の設立を考えたとき、多くの人が最初に悩むのが「資本金」をいくらに設定するかという問題です。
資本金は、単なる設立手続き上の数字ではありません。
会社の未来を左右する重要な要素であり、その意味や役割を正しく理解することが、成功への第一歩となります。
この章では、資本金の基本的な概念から、現在の法律上のルールまで、起業家が最初に知っておくべき知識をわかりやすく解説します。
まずはここをしっかりと押さえ、適切な資本金額を決定するための土台を築きましょう。
資本金の役割と意味
資本金とは、会社を設立・運営していくための「元手」となる資金のことです。
具体的には、事業を始めるために発起人(会社を設立する人)や株主が会社に出資したお金を指します。
この資本金は、会社の登記事項証明書(登記簿謄本)にも記載され、誰でも閲覧できる情報となります。
資本金には、主に3つの重要な役割があります。
- 会社の運転資金
設立直後の会社には、まだ売上がありません。しかし、事務所の家賃、備品の購入、従業員の給与、仕入れ費用など、事業を動かすためにはさまざまな経費がかかります。資本金は、売上が安定的に入ってくるまでの期間、会社を支えるための大切な運転資金としての役割を担います。 - 会社の信用力の指標
資本金の額は、外部から見たときの「会社の体力」を示す指標となります。取引先が新しい会社と契約を結ぶ際や、金融機関が融資を審査する際には、資本金の額が判断材料の一つになります。資本金が多いほど「資金力があり、体力のある会社」と見なされ、社会的な信用度が高まる傾向があります。 - 株主からの出資の証明
株式会社において、資本金は株主がその会社にどれだけ出資したかを示す金額でもあります。会社の財産と個人の財産を明確に区別し、会社の財産的基礎を確保する意味合いも持っています。会計上では、貸借対照表の「純資産の部」に計上されます。
ここで、混同されがちな「資本金」と「運転資金」の違いを整理しておきましょう。
用語 | 意味 |
---|---|
資本金 | 会社設立時に株主が出資した、事業の元手となるお金。登記され、会社の信用度を示す指標にもなる。 |
運転資金 | 日々の事業活動を継続するために必要なお金全般(仕入費用、人件費、家賃など)。資本金は運転資金の一部として使われる。 |
会社法改正で最低資本金制度は撤廃 1円での設立も可能に
「会社の設立には、まとまったお金が必要」というイメージをお持ちの方も多いかもしれません。
しかし、2006年5月1日に施行された新会社法により、最低資本金制度は撤廃されました。
これにより、以前よりもずっと少ない資金で株式会社を設立できるようになりました。
法改正以前は、株式会社を設立するためには最低でも1,000万円、有限会社(現在は新規設立不可)でも300万円の資本金が必要でした。
これが起業の大きなハードルとなっていましたが、現在はその規制がありません。
会社形態 | 改正前の最低資本金 | 改正後の最低資本金(現在) |
---|---|---|
株式会社 | 1,000万円 | 1円以上 |
有限会社 | 300万円 | (新規設立不可) |
この改正により、理論上は資本金1円からでも株式会社を設立することが可能となり、誰でも起業にチャレンジしやすい環境が整いました。
いわゆる「1円起業」が可能になったのです。
ただし、法律上は1円で設立可能であっても、実際に事業を運営していく上では現実的ではありません。
前述の通り、資本金には会社の運転資金や信用力の指標という重要な役割があります。
資本金が1円の場合、設立直後に費用が発生した時点ですぐに資金ショート(債務超過)に陥るリスクがあり、金融機関からの融資や取引先との契約においても信頼を得ることが難しくなります。
したがって、資本金の額は法律上の最低額ではなく、ご自身の事業計画や将来の展望に合わせて慎重に決定する必要があります。
次の章以降で、具体的な資本金の決め方について詳しく見ていきましょう。
株式会社設立の資本金 平均や相場はいくら?

2006年の会社法改正により、資本金1円からでも株式会社を設立できるようになりました。
しかし、実際に1円で会社を設立するケースは稀です。では、他の起業家は一体いくらを資本金に設定しているのでしょうか。
ここでは、公的なデータや業種別の傾向から、株式会社設立における資本金の平均額と相場を詳しく解説します。
ご自身の資本金額を決める上での重要な判断材料として、ぜひ参考にしてください。
資本金の全国平均データ
公的な統計データを見ると、資本金の実態がより明確になります。
例えば、総務省・経済産業省が実施した「令和3年経済センサス‐活動調査」によると、全国の株式会社の資本金階級別企業数は以下のようになっています。
資本金階級 | 企業数 | 割合 |
---|---|---|
300万円未満 | 227,126社 | 12.0% |
300万円~500万円未満 | 762,374社 | 40.2% |
500万円~1,000万円未満 | 291,194社 | 15.4% |
1,000万円~3,000万円未満 | 426,381社 | 22.5% |
3,000万円以上 | 188,435社 | 9.9% |
※上記は新設法人だけでなく既存の株式会社も含むデータです。
このデータから、資本金300万円から1,000万円未満の企業が全体の半数以上(55.6%)を占めていることがわかります。
特に「300万円~500万円未満」の割合が最も高くなっています。
また、日本政策金融公庫の「2023年度新規開業実態調査」によると、開業時の資本金の平均額は289万円というデータもあり、やはり300万円前後が一つの目安となっていることがうかがえます。
これらのデータは、多くの起業家が事業の安定性や対外的な信用力を考慮し、ある程度の金額を資本金として準備していることを示しています。
業種別の資本金相場
資本金の額は、事業内容によって必要な初期投資が大きく異なるため、業種によって相場が変わります。
以下に代表的な業種の資本金相場をまとめました。
業種 | 資本金の目安 | 主な特徴 |
---|---|---|
IT・Webサービス業 | 50万円~300万円 | 大規模な設備投資が不要なケースが多く、比較的少額から始めやすい。ただし、人材採用や広告宣伝費を見越して設定する必要がある。 |
コンサルティング業 | 100万円~300万円 | 事務所費用やPCなど、初期投資を抑えられるため少額での設立が可能。社会的信用を示すために100万円以上にするケースが多い。 |
飲食業 | 300万円~1,000万円 | 店舗の保証金、内装工事費、厨房設備の購入など、高額な初期費用がかかる。運転資金を含め、余裕を持った設定が求められる。 |
小売業 | 100万円~500万円 | 店舗型かECサイトかによって大きく異なる。店舗を持つ場合は仕入れ費用や内装費、ECの場合はサイト構築費や広告費が必要となる。 |
建設業 | 500万円以上 | 建設業許可を取得するには、財産的基礎として「500万円以上の自己資本」が要件の一つとなっているため、資本金を500万円以上にするのが一般的。 |
このように、許認可が必要な事業や、店舗・設備などの初期投資が大きい事業ほど、資本金は高額になる傾向があります。
自社の事業計画と照らし合わせ、どの程度の初期費用や運転資金が必要になるかを具体的に算出することが重要です。
許認可の要件については、後の章でさらに詳しく解説します。
100万円から300万円未満で設立するケースが多い理由
統計データや業種別の傾向を見ると、特にスモールスタートの企業において「100万円から300万円未満」という資本金額が一つのボリュームゾーンとなっています。
なぜこの金額帯が多くの起業家に選ばれるのでしょうか。
その理由は主に3つ考えられます。
- 当面の運転資金として現実的な額である会社を設立しても、すぐに売上が立つとは限りません。売上が安定するまでの数ヶ月間、家賃や人件費、仕入れ費、広告費などの経費を支払い続ける必要があります。100万円から300万円という金額は、設立後3ヶ月から半年程度の運転資金をカバーするための、現実的かつ最低限のラインとして設定されることが多いのです。
- 対外的な信用力を最低限確保できる資本金1円では、取引先や金融機関から「事業を継続する体力があるのか」と不安視される可能性があります。資本金が100万円以上あれば、事業に対する本気度や最低限の財務基盤があることを示すことができ、社会的な信用をある程度担保する効果が期待できます。会社の謄本(登記事項証明書)には資本金額が記載されるため、誰でも確認できる情報だからこそ、慎重に考える起業家が多いのです。
- 自己資金で準備しやすい範囲である資本金は、原則として発起人が自己資金で用意する必要があります。起業時に個人で準備できる資金として、100万円から300万円という金額は一つの現実的な目標となります。これ以上の金額になると、融資などを検討する必要が出てきますが、まずは無理のない範囲で、かつ事業の基盤となる金額として、この価格帯が着地点となりやすいのです。
結論として、資本金を100万円から300万円未満で設定するケースが多いのは、事業の継続性を示す「運転資金」と、外部からの「信用力」、そして「現実的な調達可能性」という3つの要素をバランス良く満たした結果と言えるでしょう。
【重要】株式会社の資本金を決めるときの6つのポイント

株式会社設立時の資本金は、会社法改正により1円から設定可能になりました。
しかし、安易に低い金額で設定すると、後々の事業運営に支障をきたす可能性があります。
ここでは、資本金額を決定する上で絶対に押さえておくべき6つの重要なポイントを、具体的な視点から詳しく解説します。
ポイント1 設立後3〜6ヶ月分の運転資金から考える
資本金を決める上で最も基本的かつ重要なのが、会社の運転資金を基準に考えることです。会社を設立しても、すぐに売上が立って利益が出るとは限りません。
むしろ、事業が軌道に乗るまでは赤字が続くケースがほとんどです。
その間の活動資金がなければ、事業を継続できず、いわゆる「資金ショート」に陥ってしまいます。
そのため、売上がなくても事業を継続できる期間の運転資金を資本金の一つの目安とすることが推奨されます。
具体的には、最低でも3ヶ月分、できれば6ヶ月分の運転資金を準備しておくと安心です。
運転資金には、主に以下のような費用が含まれます。
- 人件費(役員報酬、従業員給与)
- オフィスの家賃
- 水道光熱費、通信費
- 仕入れ費用
- 広告宣伝費
- その他諸経費
例えば、1ヶ月の運転資金が50万円かかると試算した場合、3ヶ月分なら150万円、6ヶ月分なら300万円が資本金の一つの目安となります。
まずはご自身の事業計画に基づき、必要な運転資金を正確に算出することから始めましょう。
ポイント2 会社の信用度を考慮する
資本金の額は、会社の「体力」や「規模」を示す指標の一つであり、外部からの信用度に直結します。
資本金は会社の登記事項証明書(登記簿謄本)に記載され、誰でも閲覧できる情報です。
そのため、資本金額が極端に少ないと、次のような場面で不利になる可能性があります。
- 金融機関からの融資: 資本金が少ないと自己資金が乏しいと判断され、融資審査でマイナスの評価を受けることがあります。
- 新規の取引先との契約: 特に大企業との取引では、与信調査の際に資本金額がチェックされることが多く、一定の基準に満たない場合は取引を断られるケースもあります。
- 人材の採用: 求職者が企業の安定性を判断する材料として、資本金額を見ることがあります。資本金が低いと、経営基盤が弱いのではないかという印象を与えかねません。
法的には1円で設立可能ですが、対外的な信用力を確保するという観点からは、少なくとも100万円以上の資本金を設定するのが一般的です。
事業内容や取引先の規模によっては、300万円や500万円といった額を検討することも重要になります。
ポイント3 日本政策金融公庫などの融資制度を視野に入れる
会社設立時に自己資金だけで全ての費用を賄うのが難しい場合、創業融資の活用を検討する方が多いでしょう。
代表的な制度が、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」です。
この新創業融資制度を利用する際、「創業資金総額の10分の1以上の自己資金」が要件とされています。
そして、設立時の資本金は、この「自己資金」として明確に証明できる非常に重要な要素となります。
融資審査では、自己資金をどれだけ準備できたか、つまり事業に対する本気度が厳しく見られます。
例えば、500万円の融資を受けたい場合、自己資金として準備した資本金が多ければ多いほど、審査上有利に働き、希望額の融資を受けられる可能性が高まります。
逆に、資本金が著しく少ないと、計画性が低いと見なされ、融資が否決されたり、減額されたりするリスクがあります。
将来的な融資の活用を少しでも考えているのであれば、それを踏まえた資本金額を設定することが賢明です。
ポイント4 事業に必要な許認可の要件を確認する
特定の事業を行うためには、国や都道府県から「許認可」を得る必要があります。
そして、この許認可の中には、取得の要件として一定額以上の資本金(または純資産額)が定められているものがあります。
許認可が必要な事業を始めるにもかかわらず、資本金要件を満たしていないと、そもそも事業を開始することができません。
会社設立手続きを進める前に、ご自身の事業に許認可が必要かどうか、必要な場合はその要件を必ず確認しましょう。
以下に、資本金要件が定められている許認可の例を挙げます。
業種 | 許認可の種類 | 主な財産的基礎要件 |
---|---|---|
建設業 | 一般建設業許可 | 自己資本の額が500万円以上であること 等 |
建設業 | 特定建設業許可 | 資本金が2,000万円以上、かつ自己資本が4,000万円以上であること 等 |
労働者派遣事業 | 一般労働者派遣事業許可 | 資産総額から負債総額を控除した額(基準資産額)が2,000万円以上、かつ現預金額が1,500万円以上であること 等 |
旅行業 | 第一種旅行業登録 | 基準資産額が3,000万円以上であること |
※上記は要件の一部です。詳細は必ず管轄の行政庁にご確認ください。
ポイント5 消費税の免税事業者になれるかを判断する
税金面、特に消費税との関係も資本金を決める上で非常に重要なポイントです。
原則として、設立1期目と2期目は、資本金が1,000万円未満であれば消費税の納税が免除される「免税事業者」となります。
しかし、資本金を1,000万円以上に設定すると、設立1期目から自動的に「課税事業者」となり、消費税の納税義務が発生します。
設立当初は売上が少ない中で消費税の負担が発生するため、資金繰りを圧迫する要因になり得ます。
この税制上のメリットを活かすため、多くの企業が資本金を1,000万円未満(例えば999万円)に設定しています。
ただし、2023年10月から開始されたインボイス制度により、状況は少し複雑になりました。
免税事業者のままでは適格請求書(インボイス)を発行できず、取引先が仕入税額控除を受けられないため、取引上不利になる可能性があります。
そのため、取引先の状況によっては、あえて設立当初から課税事業者を選択する場合もあります。
ご自身の事業モデルや主要な取引先を考慮し、慎重に判断する必要があります。
ポイント6 法人住民税の均等割を意識する
法人住民税は、「法人税割」と「均等割」の2つから構成されています。
このうち「均等割」は、会社の所得が赤字であっても、資本金等の額と従業員数に応じて課税される税金です。
この均等割の税額は、資本金が1,000万円を超えるかどうかで大きく変わります。
資本金1,000万円以下の場合、法人住民税の均等割は最低額(多くの自治体で年間7万円)で済みます。
しかし、資本金が1,000万円を超えると、税額が跳ね上がります。
以下は、東京都23区内に事務所がある場合の例です。
資本金等の額 | 従業員数 50人以下 | 従業員数 50人超 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 70,000円 | 140,000円 |
1,000万円超 1億円以下 | 180,000円 | 200,000円 |
1億円超 10億円以下 | 290,000円 | 530,000円 |
このように、資本金を1,000万円にするか999万円にするかで、赤字でも毎年支払う税金が10万円以上変わってくる可能性があります。
特別な理由がない限り、資本金を1,000万円以下に抑えることは、ランニングコストを削減する上で有効な選択肢と言えるでしょう。
株式会社設立時の資本金払い込み手続きと流れ

株式会社の設立登記を申請する際、資本金が正しく払い込まれたことを証明する必要があります。
この手続きは、定款の認証後、法務局へ登記申請を行う前に行います。
ここでは、資本金の払い込みに関する具体的な手続きと流れを、順を追って詳しく解説します。
資本金の払い込みタイミング
資本金を払い込むタイミングは、「公証役場で定款の認証を受けた後」から「法務局へ設立登記を申請する前」までの期間です。
この時系列は非常に重要なので、必ず守るようにしてください。
会社設立の全体的な流れにおける位置づけは以下の通りです。
- 定款の作成
- 公証役場での定款認証
- 資本金の払い込み(←ここです)
- 設立登記申請書類の作成
- 法務局への設立登記申請
定款で会社の商号や事業目的、そして資本金の額が正式に確定した後に、その定款の内容に基づいて資本金を払い込みます。
そして、その払い込みを証明する書類(払込証明書)を作成し、他の登記申請書類と一緒に法務局へ提出する、という流れになります。
発起人の個人口座に振り込む
資本金の払い込み先に指定する口座は、発起人の代表者(またはいずれかの発起人)の個人口座です。
この段階ではまだ会社は設立されていないため、法人口座は開設できません。
初めて会社を設立する方が間違いやすいポイントなので注意しましょう。
払い込み手続きの具体的な手順と注意点は以下の通りです。
- 使用する口座: 新しく口座を開設する必要はありません。既存の個人の普通預金口座で問題ありません。ただし、他の取引と混ざって入金が分かりにくくならないよう、一度残高を0円にしてから振り込むなどの工夫をすると、後々の証明がスムーズになります。
- 振込方法: 発起人が複数いる場合は、各発起人が自分の出資額を、それぞれの名義で代表者の口座に振り込みます。誰がいくら払い込んだのかが通帳の記帳で明確にわかるようにするためです。
- 発起人が1人の場合: 発起人が1人で、その人が代表者でもある場合は、自身の口座に自分で出資額を振り込むか、「預け入れ」として入金します。この場合も、通帳には日付、金額、そして入金の事実が明確に記録される必要があります。
- 金額の確認: 定款で定めた資本金の額と、実際に払い込まれた合計金額が完全に一致している必要があります。1円でも違っていると登記申請が受理されないため、正確に振り込んでください。
払込証明書の作成方法
資本金の払い込みが完了したら、その事実を証明するための「払込証明書」という書類を作成します。
この書類は、設立時取締役(発起人が兼ねることが多い)が作成し、会社の代表者印(会社実印)を押印します。
払込証明書は、単体で提出するのではなく、払い込みがあったことを証明する通帳のコピーとセットにして、ホチキスで綴じ、各ページの繋ぎ目に契印(会社実印)を押して提出します。
通帳のコピーで必要なページ
払込証明書に添付する通帳のコピーは、以下の3つの部分が必要です。
これらをA4用紙にコピーしてください。
- 通帳の表紙: 金融機関名、支店名、口座種別、口座番号、口座名義人(カタカナ)が記載されているページです。
- 通帳の1ページ目(表紙の裏): 支店名や口座名義人(漢字)などが記載されているページです。表紙と合わせて、口座情報がすべて確認できるようにします。
- 資本金の振込が記帳されたページ: 各発起人からの振込(または預け入れ)がすべて記録されているページです。取引日、振込人名義、金額が鮮明にわかるようにコピーしてください。
最近ではネットバンキングを利用する方も増えています。
その場合は、Webサイトから取引履歴のページを印刷したもので代用できます。
その際も、「金融機関名、支店名、口座番号、口座名義人、振込日、振込金額、振込人名義」が1枚の画面に収まるように印刷する必要があります。
払込証明書の書式と記載例
払込証明書には決まった書式はありませんが、以下の項目を記載する必要があります。
A4用紙にパソコンで作成するのが一般的です。
払込証明書 | |
---|---|
払込取扱機関 | ○○銀行 △△支店 |
払込があった金額の総額 | 金3,000,000円 |
払込があった株数 | 普通株式 300株 |
1株の払込金額 | 金10,000円 |
上記の金額が、当社の設立時発行株式の総数について、
令和〇年〇月〇日に確かに払い込まれたことを証明します。
令和〇年〇月〇日
(本店所在地)東京都千代田区丸の内一丁目〇番〇号
(商号)株式会社〇〇
設立時代表取締役 法務 太郎 (ここに会社実印を押印)
【記載のポイント】 ・日付: 払込証明書の日付は、すべての発起人による払い込みが完了した日以降の日付を記載します。 ・本店所在地・商号: 定款に記載したものと一字一句同じものを正確に記載してください。 ・押印: 設立時代表取締役の氏名を記載し、その横に法務局へ届け出る会社実印(代表者印)を押印します。個人の実印ではないので注意してください。 |
この払込証明書と通帳のコピーをセットにしたものが、資本金が正しく準備されたことの公的な証明となり、設立登記の際の重要な添付書類となります。
株式会社設立で資本金を決めるときの注意点

資本金の額を決める際には、単に多ければ良い、少なければ楽というわけではありません。
金額によって税金の扱いや手続きが変わるなど、いくつかの重要な注意点が存在します。
ここでは、後悔しないために知っておくべき4つの注意点を詳しく解説します。
資本金が少なすぎる場合のデメリット
会社法改正により資本金1円での株式会社設立が可能になりましたが、資本金が極端に少ない場合、事業運営において様々なデメリットが生じる可能性があります。
設立手続きの容易さだけで判断せず、以下のリスクを十分に理解しておきましょう。
- 対外的な信用力の低下
資本金の額は、会社の体力や規模を示す指標の一つと見なされます。資本金が1円や数万円といった極端に低い金額だと、金融機関からの融資審査で不利になったり、新規取引先から「経営基盤が弱いのではないか」と懸念され、契約に至らなかったりするケースがあります。特にBtoBのビジネスでは、相手の与信調査で資本金額がチェックされることが一般的です。 - 資金繰りの悪化リスク
設立直後は、売上がすぐに入金されるとは限りません。家賃、光熱費、仕入れ費用、人件費などの運転資金は、売上の有無にかかわらず発生します。資本金が少ないと、これらの初期費用を支払っただけですぐに資金が底をつき、事業が軌道に乗る前に資金ショートに陥る危険性が高まります。 - 許認可が取得できない可能性
特定の業種で事業を行うためには、国や都道府県から許認可を得る必要があります。この許認可の要件として、一定額以上の自己資本(資本金)が定められている場合があります。
例えば、一般建設業許可では500万円以上、人材派遣業許可では2,000万円以上の資産総額が要件とされており、資本金がこの基準を満たすための一つの証明となります。希望する事業に必要な許認可の要件を事前に必ず確認しましょう。
資本金が1000万円以上の場合の税務上の注意点
資本金を潤沢に用意できる場合でも、安易に1000万円以上に設定するのは注意が必要です。
資本金が1000万円以上になると、税務上の負担が大きく変わるため、慎重な判断が求められます。
1. 設立1期目から消費税の課税事業者になる
最も大きな注意点が消費税の扱いです。資本金1000万円未満で設立した法人は、原則として設立から最大2年間、消費税の納税が免除される「免税事業者」となります。
しかし、資本金を1000万円以上に設定すると、設立1期目から自動的に「課税事業者」となり、消費税を納める義務が発生します。
これにより、設立当初の資金繰りが圧迫される可能性があるため、特別な理由がない限りは1000万円未満に設定するのが一般的です。
2. 法人住民税の均等割が高くなる
法人住民税の「均等割」は、会社の利益が赤字であっても必ず納めなければならない税金です。
この均等割の税額は、資本金の額と従業員数によって区分されています。
資本金が1000万円を超えると、この税額が上がります。
例えば、東京都23区内に事業所があり、従業員数が50人以下の場合の年税額は以下のようになります。
資本金等の額 | 法人都民税(年額) |
---|---|
1000万円以下 | 70,000円 |
1000万円超 1億円以下 | 180,000円 |
このように、資本金が1000万円を超えるだけで、年間の税負担が11万円も増加します。
会社の財務状況を考慮し、最適な資本金額を設定することが重要です。
自己資金以外を資本金にする場合(現物出資)
資本金は現金で払い込むのが一般的ですが、車やパソコン、不動産、有価証券といった金銭以外の財産を出資することも可能です。
これを「現物出資」と呼びます。
手元に十分な現金がない場合でも、事業に必要な資産を活用して資本金を増強できるメリットがありますが、手続きが複雑になる点に注意が必要です。
現物出資を行う場合、その財産の価額を客観的に評価しなければなりません。
原則として、裁判所が選任した検査役による調査が必要となり、時間と費用がかかります。
ただし、以下のケースでは検査役の調査が不要となります。
- 現物出資する財産の総額が500万円以下である場合
- 市場価格のある有価証券で、定款に記載された価額が市場価格を超えない場合
- 弁護士や税理士などの専門家による価額が相当であることの証明を受けた場合
実務上は、手続きを簡略化できる「500万円以下」の範囲で現物出資を行うケースがほとんどです。
現物出資を行う際は、定款への記載や財産引継書などの追加書類が必要になるため、事前に司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
設立後の資本金の変更(増資・減資)について
一度決めた資本金は、会社設立後も変更することが可能です。事業の成長に合わせて資本金を増やすことを「増資」、経営状況に応じて減らすことを「減資」と呼びます。
増資(資本金を増やす)
事業拡大のための資金調達や、会社の信用力をさらに高めたい場合などに行われます。
増資を行うには、株主総会での決議を経て、法務局で変更登記手続きを行う必要があります。
この際、増加した資本金の額の0.7%(最低3万円)の登録免許税がかかります。
減資(資本金を減らす)
累積した赤字を解消する(欠損填補)などの目的で行われます。
減資は、会社の財産が外部に流出する可能性があるため、株主だけでなく債権者にも大きな影響を与えます。
そのため、株主総会の特別決議に加えて、官報での公告や個別の催告といった厳格な「債権者保護手続き」が法律で義務付けられており、増資よりも手続きが複雑で時間もかかります。
登録免許税として3万円が必要です。
このように、資本金の変更はいつでも可能ですが、時間・費用・手間がかかります。
特に減資は手続きが非常に煩雑です。
そのため、会社設立の段階で、将来の事業計画も見据えながら慎重に資本金の額を決定することが極めて重要です。
まとめ
株式会社設立時の資本金は、会社法上1円から設定可能ですが、会社の信用度や事業の継続性を示す重要な指標です。
安易に決めず、設立後3〜6ヶ月分の運転資金を目安に、融資や許認可の要件、消費税の免税といった税務上のメリットも考慮して総合的に判断しましょう。
特に資本金を1000万円未満に設定することで、設立1期目から消費税の納税義務が免除される可能性があります。
自社の事業計画に最適な資本金額を設定することが、円滑な会社経営の第一歩となります。