「そろそろ法人化を考えているけど、年収の目安はどれくらいだろう?」
そんな疑問をお持ちの個人事業主やフリーランスの方も多いのではないでしょうか。
法人化には、税金面での優遇や社会的な信用力アップなど、多くのメリットがあります。
一方で、設立や運営に伴う費用や手続きなど、デメリットも存在します。
このページでは、法人化のメリット・デメリットをわかりやすく解説し、気になる年収の目安について詳しくご紹介します。
さらに、法人化の手続きについても簡単にまとめました。
このページを読めば、法人化すべきかどうかの判断材料と、具体的な行動プロセスを理解することができます。
法人化のメリット
個人事業主として事業を行うよりも、法人化した方が有利になるケースは多くあります。
法人化の主なメリットは以下の点が挙げられます。
節税になる
法人化の大きなメリットの一つに節税効果があります。
法人化すると、個人事業主の場合と比べて、税金の計算方法や控除の内容が変わるため、納税額を減らせる可能性があります。
主な節税効果としては、以下の点が挙げられます。
- 法人税率が個人所得税率よりも低い
- 役員報酬の損金算入
- 様々な経費計上
法人税率が個人所得税率よりも低い
個人の所得税率は、所得が増えるほど税率も段階的に高くなる累進課税制度が採用されています。
一方、法人の場合は、一定の金額までは均一の税率が適用されます。
そのため、ある程度の所得がある場合は、法人化した方が税負担が軽くなる傾向があります。
所得区分 | 個人事業主(所得税率) | 法人(法人税率) |
---|---|---|
~100万円 | 5% | 15%(所得800万円以下) |
100万円超~195万円 | 10% | |
195万円超~330万円 | 20% | |
330万円超~695万円 | 30% |
上記はあくまで一例であり、控除や税額軽減措置などを加味すると、実際の税負担額は異なる場合があります。
また、法人税率は、資本金の額や所得の額によって異なる場合があります。
役員報酬の損金算入
法人の利益は、売上などの収入から、経費を差し引いて計算されます。
この経費には、役員に支払う給与である役員報酬も含まれます。
そのため、役員報酬の額を調整することで、法人の利益を圧縮し、法人税の負担を軽減することができます。
様々な経費計上
法人化すると、個人事業主では認められない様々な費用を経費として計上できるようになります。
例えば、次のような費用が挙げられます。
- 生命保険料
- 退職金の積み立て
- 福利厚生費
これらの費用を経費計上することで、法人の利益を圧縮し、法人税の負担を軽減することができます。
社会的な信用度が上がる
個人事業主の場合と比べて、法人の方が社会的な信用度が高いと見なされる傾向があります。
法人化すると、取引先や顧客から、事業に対する経営の継続性や信頼性があると判断されやすくなるため、新規取引や契約の締結、資金調達などがスムーズに進む可能性があります。
また、従業員の採用活動においても、法人の場合の方が、雇用の安定性や将来性をアピールできるため、優秀な人材を確保しやすくなるというメリットもあります。
事業資金の調達がしやすい
法人化すると、個人事業主の場合よりも、銀行融資を受けやすくなったり、ベンチャーキャピタルから出資を受けやすくなるなど、事業資金の調達がしやすいというメリットがあります。
金融機関は、法人の場合、決算書などの財務情報に基づいて、事業の収益性や安定性を客観的に評価することができます。
そのため、個人事業主よりも、融資や出資のリスクが低いと判断されやすく、資金調達が容易になる傾向があります。
責任が限定される
株式会社などの法人格を持つ会社を設立した場合、万が一、事業が失敗して多額の借金を抱えてしまった場合でも、株主は、出資した金額の範囲内でのみ責任を負えばよく、個人の財産をすべて失ってしまうリスクを回避できます。
これは「有限責任」と呼ばれ、法人化の大きなメリットの一つです。
一方、個人事業主の場合、事業と個人の財産が区別されない「無限責任」となるため、事業の失敗により、私財をすべて失ってしまう可能性があります。
法人化のデメリット
法人化には、メリットだけでなく、以下のようなデメリットも存在します。
法人化を検討する際には、これらのデメリットも理解した上で、慎重に判断する必要があります。
設立費用や維持費用がかかる
個人事業主として事業を行う場合、開業届を提出するだけで事業を開始できますが、法人を設立する場合には、株式会社であれば20万円前後の登録免許税や、合同会社であれば6万円前後の登録免許税などの設立費用がかかります。
また、設立後も、毎年の事業年度終了後には決算報告書の作成や税務申告が必要となり、これらの手続きには、税理士報酬などの費用が発生します。
さらに、法人住民税や事業税などの税金も納付する必要があり、これらの維持費用も考慮する必要があります。
会計処理が複雑になる
個人事業主の場合、青色申告であっても、比較的簡易な会計処理で済むことが多いですが、法人の場合は、複式簿記による会計処理が義務付けられています。
そのため、仕訳や勘定科目など、会計に関する専門知識が必要となり、会計ソフトの導入や税理士への依頼が必要となるケースも増えます。
また、決算処理も複雑になるため、専門家のサポートが必要となる場合もあります。
プライバシーの保護が難しくなる
法人を設立すると、登記情報が公開されるため、誰でも会社の情報を見ることができるようになります。
そのため、住所や役員の名前などの個人情報が公開されてしまう可能性があり、プライバシーの保護が難しくなるという側面もあります。
また、決算書も公開されるため、会社の業績や財務状況なども明らかになり、競合他社に情報を知られてしまう可能性もあります。
項目 | 個人事業主 | 法人 |
---|---|---|
会計処理 | 簡易な処理が可能 | 複式簿記が必須 |
税金 | 所得税など | 法人税、法人住民税、事業税など |
社会保険 | 国民健康保険、国民年金など | 健康保険、厚生年金など |
責任 | 無限責任 | 有限責任 |
上記はあくまで一般的な例であり、業種や事業規模、個々の状況によって異なる場合があります。
法人化を検討する際は、メリット・デメリットを比較し、専門家に相談するなど、慎重に判断することが重要です。
法人化の目安となる年収は?
個人事業主として事業を行っている方が、事業の成長に伴い法人化を検討するケースは少なくありません。
法人化には、税制上のメリットや対外的な信用力の向上など、多くのメリットがあります。
しかし、法人化には設立費用や維持費用などのコストも発生するため、自身の事業規模や将来展望を踏まえて慎重に判断する必要があります。法人化を検討する際の目安として、年収は重要な要素の一つです。
一般的に、法人化の目安となる年収は、600万円~1,000万円と言われています。
しかし、これはあくまで目安であり、業種や事業内容、家族構成、今後の事業展開計画によって最適なタイミングは異なります。
そのため、年収だけで判断するのではなく、他の要素も考慮することが重要です。
年収別で見る法人化のメリット・デメリット
年収600万円未満の場合
年収600万円未満の場合、法人化によるメリットは少ないと言えるでしょう。
なぜなら、個人事業主の場合、所得税率が低いため、法人税率と比較して大きな差がないためです。
また、法人化には設立費用や維持費用などのコストがかかるため、年収が低い場合は、これらの費用が負担になる可能性があります。
さらに、法人化後は、社会保険への加入が義務付けられるため、社会保険料の負担も増加します。
年収600万円未満の場合は、これらのコストを上回るメリットを見出すことが難しい場合が多いでしょう。
項目 | メリット | デメリット |
---|---|---|
税金 | 法人税率の方が所得税率よりも低い場合がある | 設立費用、維持費用、社会保険料などのコストがかかる |
信用力 | 法人格を取得することで、対外的な信用力が向上する | – |
資金調達 | 金融機関からの融資を受けやすくなる | – |
上記のことから、年収600万円未満で法人化を検討する場合は、税理士や会計士などの専門家に相談し、慎重に判断することをおすすめします。
年収600万円~1,000万円の場合
年収600万円~1,000万円の場合、法人化によるメリットが大きくなり始める段階と言えるでしょう。
なぜなら、所得税率が上昇し始めるため、法人税率との差が大きくなり始めるためです。
また、事業が軌道に乗り、安定した収入が見込めるようになるため、設立費用や維持費用などのコストを回収しやすくなる時期でもあります。
さらに、社会保険への加入が義務付けられることで、従業員と同様の社会保障を受けることができるようになり、万が一の病気や怪我の場合でも安心です。
項目 | メリット | デメリット |
---|---|---|
税金 | 法人税率の方が所得税率よりも低くなるため、節税効果が期待できる | 会計処理が複雑になるため、専門家のサポートが必要になる場合がある |
信用力 | 法人格を取得することで、対外的な信用力が向上し、取引先からの信用も高まる | – |
資金調達 | 金融機関からの融資を受けやすくなるため、事業拡大の資金を調達しやすくなる | – |
社会保障 | 社会保険に加入することで、従業員と同様の社会保障を受けることができる | – |
年収600万円~1,000万円で法人化を検討する場合は、自身の事業計画や将来展望と照らし合わせ、メリットとデメリットを比較検討することが重要です。
年収1,000万円以上の場合
年収1,000万円を超えると、法人化のメリットがさらに大きくなります。
なぜなら、所得税率が高くなるため、法人税率との差がさらに大きくなるためです。
また、事業規模が大きくなり、従業員を雇用している場合は、社会保険料の負担を軽減できるというメリットもあります。
さらに、法人化することで、役員報酬を自由に設定できるようになり、所得を分散させることで、所得税の節税効果も期待できます。
項目 | メリット | デメリット |
---|---|---|
税金 | 所得税率が高いため、法人税率との差が大きくなり、節税効果が期待できる | – |
信用力 | 法人格を取得することで、対外的な信用力が向上し、大企業との取引や海外進出も視野に入る | – |
資金調達 | 金融機関からの融資を受けやすくなるだけでなく、株式発行による資金調達も可能になる | – |
社会保障 | 社会保険料の負担を軽減できる | – |
事業承継 | 株式を譲渡することで、スムーズな事業承継が可能になる | – |
年収1,000万円を超えている場合は、法人化を検討する価値が十分にあると言えるでしょう。
ただし、法人化には、設立費用や維持費用などのコストがかかるため、事前にしっかりと準備しておくことが重要です。
法人化を検討する際の注意点
法人化は、事業の成長や安定化には有効な手段ですが、メリットだけでなく、デメリットも存在します。
法人化を検討する際には、以下の点に注意する必要があります。
- 設立費用や維持費用などのコストがかかること
- 会計処理が複雑になり、専門家のサポートが必要になる場合があること
- プライバシーの保護が難しくなること
法人化は、あくまで事業を成長させるための手段の一つであり、目的ではありません。
法人化することで、どのようなメリットを享受できるのか、どのようなデメリットがあるのかを十分に理解した上で、慎重に判断することが重要です。
法人化を検討する際は、税理士や会計士などの専門家に相談し、アドバイスを受けることをおすすめします。
専門家のサポートを受けることで、スムーズに法人化の手続きを進めることができます。
法人化の手続き
法人化の手続きは、複雑で時間のかかるプロセスです。
大きく分けて以下の10個のステップがあります。
1. 定款の作成・認証
定款とは、会社の目的や組織、運営方法などを定めた会社の根本規則です。
公証役場で公証人の認証を受ける必要があります。
定款に記載する事項
- 会社の目的
- 商号
- 本店所在地
- 資本金の額
- 発行可能株式総数
- 事業年度
- 役員の任期
電子定款認証の場合
法務省が提供する電子認証システムを利用することで、印紙税が4万円軽減されます。
ただし、電子署名を取得する必要があり、事前に準備が必要です。
2. 資本金の払い込み
株式会社を設立する場合、資本金を決め、金融機関に会社名義の口座を開設し、資本金を払い込みます。
この口座は「発起人代表者名義の個人口座」ではなく、「会社設立時の資本金振込口座」として新しく開設する必要があります。
3. 法人設立届出書の作成・提出
公証役場で定款認証後、2週間以内に法務局へ設立登記の申請を行います。
この際、法人設立届出書を作成し、添付書類とともに提出します。
提出先は会社の所在地を管轄する法務局となります。
4. 会社印の作成
法人設立届出書を提出後、会社の実印、銀行印、角印を作成します。
印鑑登録は法務局への登記完了後に行います。
5. 登記の申請
上記の書類が揃ったら、会社の所在地を管轄する法務局へ登記の申請を行います。
申請から登記完了までには1週間から2週間程度かかります。
6. 登記完了
法務局での審査が完了すると、登記簿に会社の情報が記載され、会社が正式に設立されます。
この時点で、会社は法律上の一つの「人」として認められます。
7. 税務署・都税事務所への届出
法人設立後、事業開始日から原則として2ヶ月以内に、税務署や都税事務所へ開業届出書などの必要書類を提出します。
提出先 | 提出書類 | 備考 |
---|---|---|
税務署 | ・法人設立届出書 ・青色申告承認申請書 ・給与支払事務所等の開設届出書 ・源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | ・青色申告を行う場合 ・従業員を雇用する場合 ・源泉所得税の納期の特例を受けたい場合 |
都税事務所 | ・法人設立届出書 |
8. 社会保険・労働保険の加入手続き
従業員を雇用する場合、社会保険や労働保険の加入手続きが必要です。
手続き先は、会社の所在地を管轄する年金事務所や労働基準監督署、公共職業安定所(ハローワーク)となります。
9. 事業年度の決定
会社の決算期となる事業年度を決定します。
法人税や消費税の申告は、この事業年度に基づいて行われます。
事業年度は原則として1年以内と定められており、自由に設定することができます。
10. その他の許認可申請
事業内容によっては、許認可の取得が必要となる場合があります。
許認可の取得には、それぞれの許認可を管轄する官公庁への申請が必要です。
必要な許認可は、事業内容や業種によって異なるため、事前に確認が必要です。
これらの手続きは、専門家である司法書士や税理士に依頼することも可能です。
専門家に依頼することで、手続きの負担を軽減し、スムーズに法人化を進めることができます。
まとめ
ここまで、法人化のメリット・デメリット、目安となる年収、手続きについて解説してきました。
法人化は節税や社会的な信用度アップなど、多くのメリットがある一方で、費用や手続きなどの負担も発生します。
そのため、安易に法人化を考えるのではなく、自身の事業規模や将来的なビジョンなどを踏まえ、慎重に判断することが重要です。
目安として年収〇〇〇万円を超える場合は、法人化によるメリットが大きくなる可能性があります。
しかし、最終的な判断は専門家にも相談しながら、ご自身の状況に合わせて行うようにしましょう。