合同会社の業務執行社員と代表社員の違いは?選任方法と責任範囲をわかりやすく解説

合同会社の「業務執行社員」と「代表社員」、その違いを明確に説明できますか?

この記事では、両者の役割や権限、責任範囲の違いを分かりやすく比較解説します。

業務執行社員は会社の業務執行を担う社員のことで、必ずしも登記は必要ありません。

なぜ業務執行社員を置くのか、そのメリットから具体的な選任手続き、定款の定め方まで網羅。

あなたの会社の機関設計に関する疑問を解消します。

合同会社を設立・運営する上で、「業務執行社員」という役職は非常に重要な役割を担います。
しかし、株式会社の「取締役」とは異なる点も多く、その役割や権限について正確に理解している方は少ないかもしれません。

この章では、合同会社の根幹をなす「業務執行社員」とは一体何なのか、その基本的な役割と権限について、前提となる知識から丁寧に解説します。

まず理解すべき合同会社の「社員」の意味

「業務執行社員」を理解する前に、まず合同会社における「社員」という言葉の特別な意味を知る必要があります。

一般的に「社員」と聞くと、会社に雇用されている従業員をイメージする方が多いでしょう。
しかし、合同会社における「社員」は、会社の出資者であり、同時に会社の経営者でもある人物を指します。

これは、株式会社における「株主(出資者)」と「取締役(経営者)」の役割を兼ね備えた存在と考えると分かりやすいでしょう。

合同会社では、このように会社の所有と経営が原則として一致しているのが大きな特徴です。
この「社員」の中から、会社の業務を実際に執行する権限を持つ者が「業務執行社員」として選ばれます。

役割合同会社株式会社
出資者社員株主
経営者社員(業務執行社員)取締役
従業員従業員従業員

上記の表の通り、合同会社の「社員」と「従業員」は全く異なる立場ですので、混同しないように注意が必要です。

業務執行社員の役割と業務執行権

業務執行社員とは、その名の通り「合同会社の業務を執行する権限(業務執行権)を持つ社員」のことです。

具体的には、日々の営業活動、契約の締結、財産の管理、従業員の雇用といった会社運営に関するさまざまな意思決定と実行を担当します。

会社法では、合同会社の業務執行について次のように定められています。

【原則】
定款で特に定めを置かない限り、社員の全員が業務執行社員となり、それぞれが業務執行権を持ちます(会社法第590条第1項)。つまり、出資者である社員全員が、会社の経営を行う権限を持っている状態です。
【例外】
定款で一部の社員のみを「業務執行社員」として定めることができます(会社法第590条第1項)。この場合、定款で定められた業務執行社員だけが業務執行権を持ち、それ以外の社員は会社の経営には直接関与せず、出資者としての立場に専念することになります。

業務執行権を持つということは、会社の代表として以下のような行為を行う権限を持つことを意味します。

  • 金融機関との融資契約の締結
  • 取引先との売買契約や業務委託契約の締結
  • オフィスの賃貸借契約
  • 従業員の採用や解雇
  • その他、会社の事業運営に関する日常的な判断と実行

業務執行社員を定める理由 なぜ必要なのか

「原則として全社員が業務執行権を持つなら、わざわざ業務執行社員を定める必要はないのでは?」と疑問に思うかもしれません。
しかし、社員の人数が増えたり、社員の役割を明確に分けたい場合には、業務執行社員を定めることに大きなメリットがあります。

もし、社員全員が業務執行権を持つ状態のままだと、次のような問題が発生する可能性があります。

  • 社員の数が増えるほど、重要な意思決定に時間がかかり、経営のスピードが落ちる。
  • 各社員が個別の判断で契約などを進めてしまい、経営方針に一貫性がなくなる。
  • 「出資はしたいが、経営の責任は負いたくない」という人が社員になりにくい。

こうした課題を解決するために、定款で業務執行社員を定めます。
その主な理由は以下の通りです。

  1. 意思決定の迅速化と効率化
    経営の舵取り役を特定の社員に集中させることで、迅速かつ効率的な会社運営が可能になります。重要な判断をスピーディーに行えるため、ビジネスチャンスを逃しにくくなります。
  2. 経営責任の明確化
    誰が業務執行の責任を負うのかが明確になります。これにより、対外的な信用が高まるとともに、社内での責任の所在もはっきりします。
  3. 役割分担の明確化
    経営に積極的に関与する社員と、出資者として利益の分配を受けることに専念する社員を分けることができます。例えば、経営ノウハウを持つ専門家を業務執行社員として迎え入れ、他のメンバーは出資者として事業を支援する、といった柔軟な組織設計が可能になります。これにより、多様な人材や資金を集めやすくなるというメリットがあります。

このように、業務執行社員を定めることは、会社の規模や目的に応じて、よりスムーズで安定した経営体制を築くための重要な手段なのです。

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合同会社の運営において、「業務執行社員」と「代表社員」は中心的な役割を担いますが、その権限や責任には明確な違いがあります。

両者の違いを正しく理解することは、スムーズな会社経営の第一歩です。

ここでは、役割選任方法登記の必要性責任範囲の4つの観点から、両者の違いを徹底的に比較・解説します。

役割と権限範囲の違い

業務執行社員と代表社員は、どちらも会社の業務に関わる重要な立場ですが、その役割と権限のスコープが異なります。

業務執行社員が会社の「内部的な業務執行」を担うのに対し、代表社員は「対外的な会社の顔」としての役割を担います。

具体的には、以下の表のように整理できます。

役職主な役割と権限具体例
業務執行社員会社の内部的な業務を決定し、実行する権限(業務執行権)を持ちます。複数人いる場合は、原則として各業務執行社員が単独で業務執行権を行使できます。事業計画の策定、商品の仕入れ、従業員の採用・管理、オフィスの賃貸借契約の検討など、会社の運営に関する意思決定と実行。
代表社員業務執行権に加え、会社を法的に代表する権限(代表権)を持ちます。会社の代表として、対外的な法律行為(契約など)を行います。取引先との契約書への署名・捺印、金融機関からの融資契約の締結、重要な許認可の申請など、会社を代表して行う法律行為全般。

つまり、代表社員は業務執行社員の中から選ばれるのが一般的であり、「すべての代表社員は業務執行社員である」一方、「業務執行社員がすべて代表社員であるとは限らない」という関係になります。

代表社員は、業務執行社員が持つ権限に加えて、会社を代表する特別な権限を持っていると理解すると分かりやすいでしょう。

選任方法と人数の違い

業務執行社員と代表社員は、その選任プロセスと人数の考え方にも違いがあります。

  • 業務執行社員
    定款で特定の社員を業務執行社員として直接定めるか、定款に定めがない場合は全社員が業務執行社員となります。業務執行社員を一部の社員に限定したい場合は、定款にその旨を明記するか、総社員の同意によって選任する必要があります。人数に制限はなく、複数人を選任することが可能です。
  • 代表社員
    代表社員は、業務執行社員の中から選ばれます。選任方法は、定款で直接指名する方法と、定款の規定に基づいて業務執行社員の互選(互選)で定める方法が一般的です。代表社員も複数人を選任できますが、対外的な窓口を一本化するため、1名または少人数とすることが多いです。

登記の必要性の違い

登記に関する取扱いは、業務執行社員と代表社員の最も明確な違いの一つです。
この違いは、取引の安全性や会社の信用に直結する重要なポイントです。

役職登記の要否登記事項証明書(登記簿謄本)への記載
業務執行社員不要業務執行社員の氏名や住所は登記されません。
代表社員必須代表社員の氏名と住所が登記事項として記載されます。

代表社員の情報が登記されるのは、その人が会社を代表する正当な権限を持っていることを、取引先などの第三者に対して公的に証明するためです。

金融機関での法人口座開設や融資、重要な契約を締結する際には、登記事項証明書と印鑑証明書の提出を求められますが、これは代表社員の権限を確認するためです。
一方、業務執行社員はあくまで社内的な役割であるため、登記は不要とされています。

責任の範囲の違い

業務執行社員と代表社員は、共に会社に対して忠実に職務を行う義務(善管注意義務・忠実義務)を負います。

任務を怠って会社に損害を与えた場合には、損害賠償責任を負う点も共通です。

しかし、代表社員は会社を代表する立場であるため、その責任範囲はより広くなります。
特に、職務を行うにあたって悪意または重大な過失があった場合に、第三者に対して直接損害賠償責任を負う可能性があります(会社法第597条)。
これは、代表社員の行為が会社の行為として外部に表示されるため、取引相手を保護するための規定です。

業務執行社員も第三者への責任を負う可能性はありますが、会社を代表する権限を持つ代表社員の方が、その責任を問われる場面は多くなります。

参考 株式会社の取締役や代表取締役との違い

合同会社の仕組みをより深く理解するために、株式会社の役職と比較してみましょう。

合同会社の「社員」は、株式会社における「株主」と「取締役」の両方の性質を併せ持っているのが特徴です(所有と経営の一致)。

以下の表は、それぞれの会社の役職がどのような役割に対応するのかを示したものです。

合同会社株式会社主な役割・特徴
社員(出資者)株主会社への出資者であり、会社の所有者。
業務執行社員取締役会社の業務執行を担当する。株式会社では取締役会で業務執行を決定する。
代表社員代表取締役会社を対外的に代表し、法律行為を行う。取締役の中から選定される。

このように対比させると、合同会社の業務執行社員は株式会社の取締役に、代表社員は代表取締役に相当する役割を担っていることがわかります。
ただし、合同会社は原則として「所有と経営が一致」しており、出資者である社員自らが経営を行う点が、所有と経営が分離している株式会社との根本的な違いです。

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合同会社において、業務執行社員を定めるかどうかは、会社の運営方針や将来の展望に大きく影響する重要な決定事項です。

業務執行社員を置くことには、経営の効率化といったメリットがある一方で、権限の集中などのデメリットも存在します。

ここでは、それぞれの側面を詳しく掘り下げ、どのようなケースで業務執行社員を定めるべきか、その判断材料を提供します。

業務執行社員を定めるメリット

業務執行社員を定款で定めることの最大の利点は、経営の効率性と柔軟性を高められる点にあります。
特に、社員の数が多い場合や、出資のみを目的とする社員がいる場合に、その効果を大きく発揮します。

  • 意思決定の迅速化
    合同会社の原則では、社員全員が業務執行権を持ち、重要な決定は社員全員の過半数(定款で別段の定めがある場合はそれに従う)の同意が必要です。しかし、社員の数が多くなると、意見の集約に時間がかかり、ビジネスチャンスを逃してしまう可能性があります。業務執行社員を定めることで、経営に関する意思決定を特定のメンバーに集約できるため、スピーディーな経営判断が可能になります。
  • 経営と出資の分離
    「経営には直接関与したくないが、事業の将来性に期待して出資はしたい」という投資家のような立場の社員がいる場合に、業務執行社員の制度は非常に有効です。業務執行権を持たない社員は、出資者としての役割に専念でき、経営は専門知識や意欲のある業務執行社員に任せることができます。これにより、多様な人材や資金を会社に集めやすくなるというメリットが生まれます。
  • 責任と権限の明確化
    誰が会社の経営を担い、その責任を負うのかが明確になります。社員全員が業務執行権を持つ状態では、問題が発生した際に責任の所在が曖昧になりがちです。業務執行社員を定めることで、経営責任が特定の社員に集中し、ガバナンス(企業統治)が強化されます。これは、金融機関からの融資や重要な取引先との契約において、対外的な信頼性を高める効果も期待できます。

業務執行社員を定めるデメリットと注意点

メリットがある一方で、業務執行社員を定めることにはいくつかのデメリットや注意すべき点も存在します。
特に、社員間のコミュニケーションや権限のバランスには十分な配慮が必要です。

  • 業務執行社員以外の社員の不満
    業務執行権を持たない社員は、会社の経営方針の決定に関与できなくなります。これにより、「自分の意見が経営に反映されない」といった不満や、経営陣と出資者間での対立が生じるリスクがあります。経営状況の透明性を確保し、業務執行社員以外の社員に対しても定期的に情報共有を行うなど、円滑なコミュニケーションを保つ工夫が不可欠です。
  • 権限の集中による独断経営のリスク
    業務執行社員に権限が集中することで、その人物の判断が会社の方向性を大きく左右することになります。万が一、業務執行社員が独断的な経営を行ったり、判断を誤ったりした場合、他の社員がそれを止めることが難しくなる可能性があります。業務執行社員を複数名置く、あるいは社員総会での監督機能を強化するなど、チェック機能が働く仕組みを定款で定めておくことが重要です。
  • 業務執行社員への過度な負担
    会社の経営責任と業務がすべて業務執行社員の肩にかかってくるため、その負担は非常に大きくなります。特に、事業が拡大していくフェーズでは、業務執行社員が一人だけの場合、心身ともに大きなプレッシャーを感じることになりかねません。会社の規模や事業内容に応じて、業務執行社員の人数やサポート体制を検討する必要があります。

メリットとデメリットを比較検討しやすいように、以下の表にまとめました。

項目メリットデメリット・注意点
意思決定経営判断が迅速になる業務執行社員以外の意見が反映されにくくなる
役割分担「経営」と「出資」を明確に分離できる経営に関与できない社員の不満や疎外感を生む可能性がある
責任と権限経営責任の所在が明確になり、対外的な信頼性が向上する権限が集中し、独断的な経営に陥るリスクがある
負担経営に集中できる環境が作れる業務執行社員への責任と業務の負担が過度に集中する

このように、業務執行社員を定めることは、会社の組織設計における重要な選択です。

自社の状況、社員の構成、将来のビジョンなどを総合的に考慮し、最適な形を選択することが求められます。

会社設立の代行費用実質0円、個人事業主とのメリットデメリット流れと手順

合同会社において業務執行社員を定めることは、会社の運営をスムーズにするための重要なステップです。
しかし、具体的にどのような手続きを踏めばよいのでしょうか。

ここでは、業務執行社員を選任するための具体的な方法と、定款への記載例、必要な書類について、順を追って詳しく解説します。

定款による業務執行社員の定め方と記載例

合同会社の業務執行社員は、原則として定款に定めることで選任します

会社法第591条第1項により、定款に別段の定めがない限り、社員全員が業務執行権を持つとされています。
そのため、特定の社員のみを業務執行社員としたい場合は、その旨を会社の基本ルールである定款に明記する必要があります。

定款への定め方には、主に次のような方法があります。

  • 特定の社員を指名する方法:最もシンプルで明確な方法です。設立時や社員の構成が固定的な場合に適しています。
  • 社員の互選によって定める方法:社員同士の話し合いで業務執行社員を決定する方法です。柔軟な対応が可能になります。
  • 総社員の過半数の一致で定める方法:社員総会のような形で、多数決によって業務執行社員を決定する方法です。

以下に、それぞれのケースにおける定款の記載例を示します。

【定款記載例1:特定の社員を指名する場合】
(業務執行社員)
第〇条 当会社の業務執行社員は、次の者とする。
東京都千代田区丸の内1-1-1
社員 合同 太郎

【定款記載例2:社員の互選によって定める場合】
(業務執行社員)
第〇条 当会社の業務執行社員は、社員の互選により定める。

会社設立後に業務執行社員を新たに定めたり変更したりする場合は、定款変更の手続きが必要です。

定款変更には、原則として総社員の同意が必要となりますので注意しましょう。

業務執行社員の選任手続きと就任承諾書

定款に業務執行社員の定めを置いた後、具体的な選任手続きを進めます。

定款の定め方によって、必要な手続きや書類が異なります。

  1. 定款の作成または変更:まず、前述の通り定款に業務執行社員に関する規定を設けます。会社設立後であれば、総社員の同意を得て定款変更を行います。
  2. 業務執行社員の選任:定款の規定に従い、業務執行社員を選任します。
    • 互選の場合:社員間で話し合いを行い、業務執行社員を選定します。その結果を証明するために「互選書」を作成します。
    • 総社員の過半数の一致の場合:社員総会などを開催し、決議を行います。その証明として「同意書」や「議事録」を作成します。
  3. 就任承諾書の取得:選任された者から「就任承諾書」を取得します。これは、本人が業務執行社員に就任することを承諾したことを証明する重要な書類です。後々のトラブルを避けるためにも、必ず書面で保管しておきましょう。

就任承諾書には、特に決まったフォーマットはありませんが、以下の項目を記載するのが一般的です。

【就任承諾書の記載項目例】
私は、令和〇年〇月〇日付の選任に基づき、貴社の業務執行社員に就任することを承諾します。
令和〇年〇月〇日
(住所)東京都新宿区西新宿2-8-1
(氏名)合同 次郎 ㊞
合同会社〇〇〇〇 御中

これらの手続きに関する書類(定款、互選書、就任承諾書など)は、法務局への提出は不要ですが、会社内部で適切に保管しておく必要があります。

業務執行社員は登記が不要 代表社員は登記が必須

手続きを進める上で最も重要な注意点の一つが、登記の要否です。

結論から言うと、業務執行社員であること自体は、登記事項ではありません
したがって、業務執行社員を選任・変更しても、法務局で変更登記手続きを行う必要はありません。

一方で、会社を代表する権限を持つ「代表社員」は、必ず登記が必要です。
この違いは、取引の安全に関わるかどうかに起因します。

業務執行社員と代表社員の登記に関する違いを、以下の表にまとめました。

項目業務執行社員代表社員
登記の必要性不要必須
登記される情報登記されない氏名および住所
登記が必要な理由内部的な役割分担であり、対外的な代表権を持つわけではないため。会社の代表権を持つ者を公示し、第三者(取引先など)の取引の安全を保護するため
関連する手続き定款変更、就任承諾書の取得など(社内手続きのみ)代表社員の選任後、2週間以内に法務局へ変更登記申請が必要。

一般的に、業務執行社員の中から代表社員を選任するケースが多く見られます。
その場合、選任された人物は「業務執行社員」であり、かつ「代表社員」となります。
このとき、登記事項証明書(登記簿謄本)には「代表社員」としてその氏名と住所が記載されますが、「業務執行社員」という肩書は記載されません。
この点を混同しないよう、正確に理解しておくことが大切です。

会社設立の代行費用実質0円、個人事業主とのメリットデメリット流れと手順

合同会社の業務執行社員に就任するということは、会社の経営を担う重要な役割を託されると同時に、法律に基づいた重い責任を負うことを意味します。
その責任は会社内部だけでなく、取引先などの第三者にも及びます。

ここでは、業務執行社員が具体的にどのような責任を負い、どの範囲の権限を持つのかを詳しく解説します。ご自身の立場とリスクを正確に理解するための重要な知識です。

業務執行社員が会社や第三者に対して負う責任

業務執行社員の責任は、大きく分けて「会社に対する責任」と「第三者に対する責任」の2つに分類されます。
これらの責任の根底には、会社法で定められた2つの重要な義務が存在します。

善管注意義務と忠実義務

業務執行社員は、会社の業務を執行するにあたり、常に以下の2つの義務を念頭に置かなければなりません。
これらの義務に違反した場合、後述する損害賠償責任を問われる可能性があります。

善管注意義務(善良な管理者の注意義務)

善管注意義務とは、「その人の職業や社会的地位などから考えて、一般的に期待される程度の注意を払う義務」のことです。
業務執行社員の場合、会社の経営を担う者として、客観的に見て当然払うべき注意を払って業務を遂行する義務を指します。
例えば、市場調査を全く行わずに多額の仕入れを行って会社に損失を与えたり、契約書の内容を十分に確認せずに不利な契約を結んでしまったりした場合、善管注意義務違反に問われる可能性があります。

忠実義務

忠実義務とは、善管注意義務をさらに一歩進め、常に会社の利益を最優先に考え、自己や第三者の利益のために行動してはならないという義務です。
具体的には、会社の事業と競合する事業を個人的に始めたり(競業避止義務)、会社と個人的な取引を行って不当な利益を得たりする行為(利益相反取引の制限)がこれに該当します。
これらの行為を行う場合は、原則として他の社員の過半数の承認を得る必要があります。

会社に対する損害賠償責任

業務執行社員が、故意または過失(任務懈怠)によって上記の善管注意義務や忠実義務に違反し、その結果として会社に損害を与えた場合、その損害を賠償する責任を負います(会社法第597条)。
例えば、以下のようなケースが考えられます。

  • 法令や定款に違反する行為を行い、会社が行政処分を受けた。
  • 適切なリスク管理を怠ったために、重大な取引上の失敗を招いた。
  • 会社の資金を個人的な目的で流用した。

この損害賠償責任は非常に重く、原則として総社員の同意がなければ免除されません。
一部の社員の同意だけでは責任を免れることはできず、人的な信頼関係を基礎とする合同会社ならではの厳しい規定となっています。

第三者に対する損害賠償責任

業務執行社員の責任は、会社内部に留まりません。
その職務を行うにあたって、悪意または重大な過失があったために第三者(取引先、金融機関、顧客など)に損害を与えた場合、会社だけでなく業務執行社員個人もその第三者に対して損害賠償責任を負うことがあります(会社法第598条)。

「重大な過失」とは、通常求められる注意を著しく欠いていた状態を指します。
例えば、会社の財政状態が極めて悪いことを知りながら、それを隠して取引先から商品を仕入れたり、金融機関から融資を受けたりした場合などが該当します。
このようなケースでは、取引先や金融機関は、会社だけでなく、その業務執行を行った社員個人に対しても損害賠償を請求できる可能性があるのです。

業務執行社員が持つ権限の範囲

業務執行社員は重い責任を負う一方で、会社の業務を遂行するための広範な権限を持っています。

原則として、定款に特別な定めがない限り、業務執行社員は会社の業務執行に関する一切の行為を行う権限を有します(会社法第590条1項)。

業務執行社員が複数いる場合は、会社の業務執行に関する意思決定は、原則としてその過半数をもって行います。

ただし、会社の「常務」と呼ばれる日常的な業務については、各業務執行社員が単独で行うことが可能です。

具体的な権限の範囲を以下の表にまとめました。

権限の種類具体的な行為の例意思決定の方法・注意点
常務(日常業務)商品の仕入れ・販売従業員への業務指示小口の経費精算広告宣伝活動原則として各業務執行社員が単独で決定・実行できます。ただし、定款で権限を制限することも可能です。
重要な業務執行多額の借財(資金調達)支店の設置、移転、廃止重要な財産の処分重要な従業員の採用・解雇事業計画の策定業務執行社員が複数いる場合、その過半数の同意が必要です。定款で過半数以上の賛成を必要とするなど、要件を厳しくすることもできます。
定款で制限・委任できる事項特定の業務執行社員に特定の事業を専任させる一定額以上の契約については、必ず全業務執行社員の同意を必要とする定款の定めによって、特定の業務執行社員の権限を広げたり、逆に制限したりすることが可能です。会社の状況に合わせて柔軟な設計ができます。

このように、業務執行社員の権限は非常に広範ですが、その行使には常に責任が伴います。
特に複数の業務執行社員がいる場合は、誰がどの業務の意思決定を行うのか、重要な業務執行の決定プロセスはどうするのかなどを定款や内部規程で明確にしておくことが、後のトラブルを避ける上で極めて重要です。

会社設立の代行費用実質0円、個人事業主とのメリットデメリット流れと手順

ここでは、合同会社の業務執行社員に関して、設立や運営の場面で特に疑問に思われがちな点について、Q&A形式で詳しく解説します。

具体的なケースを想定しながら、手続きや注意点を理解していきましょう。

業務執行社員は複数人を選任できますか

はい、合同会社の業務執行社員は複数人選任することが可能です。
会社法上、業務執行社員の人数に上限や下限の定めはありません。

定款で「業務執行社員は1名とする」と定めない限り、複数の社員を業務執行社員とすることができます。
事業規模が大きい場合や、複数の専門分野にわたる事業を行う場合には、それぞれの分野に精通した社員を業務執行社員とすることで、迅速かつ的確な意思決定が可能になるというメリットがあります。

ただし、複数人の業務執行社員を置く場合は、それぞれの権限の範囲や意思決定のプロセスを明確にしておくことが重要です。
業務執行社員が複数いる場合、原則として各業務執行社員が単独で業務を執行できますが、定款で特定の業務執行社員に権限を集中させたり、重要な業務執行については業務執行社員の過半数の同意を必要とするといった定めを置くことも可能です。
意見の対立による経営の停滞を避けるためにも、あらかじめルールを整備しておくことをお勧めします。

業務執行社員の報酬はどのように決定しますか

合同会社の業務執行社員の報酬は、株式会社の役員報酬のように株主総会の決議を必要とせず、より柔軟な方法で決定できます。
主な決定方法は次の2つです。

  1. 定款で定める方法
    あらかじめ定款に報酬の具体的な金額、算定方法、または上限額などを記載しておく方法です。「業務執行社員〇〇の報酬は月額〇〇円とする」のように個別に定めることも、「業務執行社員の報酬は、総社員の過半数の同意をもって決定する」のように決定プロセスを定めることもできます。
  2. 総社員の同意によって決定する方法
    定款に報酬に関する定めがない場合は、原則として総社員の同意によって決定します。一部の社員だけで決定することはできず、業務を執行しない社員も含めた全社員の同意が必要となる点に注意が必要です。後々のトラブルを避けるためにも、同意を得た証拠として「同意書」や、社員総会を開催した場合は「議事録」を作成し、保管しておくことが賢明です。

なお、業務執行社員への報酬が会社の利益や業務内容に対して不相当に高額である場合、税務調査で「過大役員報酬」とみなされ、法人税の計算上、経費(損金)として認められないリスクがあります。

社会通念や同業他社の水準、会社の業績などを考慮し、客観的に見て妥当な範囲で報酬額を設定することが重要です。

業務執行社員を辞めさせたい場合(解任・退任)の手続きは

業務執行社員がその地位を離れるケースには、会社側の意思で辞めさせる「解任」と、社員本人の意思や法定事由による「退任(退社)」があります。

それぞれ手続きが大きく異なるため、注意が必要です。

解任(会社側の意思で辞めさせる)

業務執行社員を解任するには、会社法で定められた「正当な事由」がなければなりません。
「正当な事由」なく一方的に解任した場合、その社員から損害賠償を請求される可能性があります。
「正当な事由」の例としては、以下のようなケースが挙げられます。

  • 職務に関する不正行為や法令・定款への重大な違反
  • 心身の故障により、職務の執行が困難になった場合
  • 著しい能力不足や経営判断の失敗により、会社に損害を与えた場合

解任手続きは、解任する業務執行社員を除く、他の社員の過半数の一致によって決定します。
定款に別段の定めがある場合は、その定めに従います。

退任・退社(本人の意思やその他の事由で辞める)

業務執行社員自身が辞める場合は「退社」となり、それに伴い業務執行社員の地位も失います。
退社には、本人の意思による「任意退社」と、法律で定められた事由が発生した場合の「法定退社」があります。

任意退社の場合、原則として事業年度の終了時において退社できますが、その6ヶ月前までに会社へ予告する必要があります。
ただし、やむを得ない事由がある場合は、いつでも退社が可能です。

法定退社は、以下のような事由が発生した場合に、本人の意思とは関係なく法律上当然に退社となります。

  • 死亡
  • 破産手続開始の決定
  • 後見開始の審判を受けたこと
  • 除名(他の社員の過半数の決議に基づき、訴えをもって裁判所に請求)

解任と任意退社の違いをまとめると、以下のようになります。

区分解任任意退社
主な事由不正行為、任務懈怠、心身の故障など「正当な事由」本人の意思
意思決定者本人を除く他の社員の過半数本人
手続き他の社員の過半数による決議原則6ヶ月前までの予告
注意点正当な事由がない場合、損害賠償請求のリスクがある。やむを得ない事由がない限り、即時の退社は認められにくい。

いずれの場合も、業務執行社員の地位に変更があった際には、後のトラブルを防ぐためにも、関連する議事録や通知書などの書類を適切に作成・保管しておくことが極めて重要です。

本記事では合同会社の業務執行社員について、代表社員との違いや責任範囲を解説しました。

業務執行社員は会社の業務執行権を持つ社員であり、会社を代表する権限まで持つ代表社員とは異なり、登記は不要です。

業務執行社員を定めることで、出資のみを行う社員と役割を分担し、経営の効率化や迅速な意思決定を図れるというメリットがあります。

選任には定款での定めが必要で、善管注意義務などの責任も伴うため、自社の組織設計に合わせてその役割を正しく理解し、適切に活用することが重要です。

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