失敗しない合同会社の定款作成術|必須の記載事項と注意点をプロが解説

合同会社の設立にあたり、会社の憲法ともいえる「定款」の作成は避けて通れない重要なステップです。

何を書けばいいのか、どう作ればいいのか、初めての方には難しく感じられるかもしれません。

本記事では、合同会社の定款作成で失敗しないための全知識を、専門家が徹底解説します。

法的に必須で、一つでも欠けると無効になる「絶対的記載事項」はもちろん、経営の自由度を左右する「相対的記載事項」、将来のトラブルを防ぐためのポイントまで、具体例を挙げて分かりやすく説明します。

さらに、設立費用である収入印紙代4万円を節約できる「電子定款」の作成手順や、定款変更の方法、専門家への依頼についても網羅。

合同会社の定款は公証人の認証が不要なため作成は比較的容易ですが、その分、事業目的や社員間のルールを明確に定めることが事業成功の鍵となります。

この記事を最後まで読めば、誰でもスムーズに、かつ法的に有効な定款を作成できるようになります。

合同会社の設立を決意した方が、まず最初に取り組むべき最重要書類が「定款(ていかん)」です。

定款は、会社の組織や運営に関する基本的なルールを定めたもので、「会社の憲法」とも呼ばれるほど重要な役割を担います。

この章では、合同会社の定款を作成する上で、前提として知っておくべき基礎知識を分かりやすく解説します。

株式会社の設立では必須となる手続きが、合同会社では不要になるなど、特有のルールが存在します。
これらの知識を正しく理解することが、スムーズで失敗のない会社設立の第一歩となります。

合同会社の定款はなぜ公証人の認証が不要なのか

合同会社の定款作成における最大の特徴の一つが、株式会社と異なり「公証人による認証が不要」である点です。
これにより、設立にかかる費用と時間を大幅に削減できます。

では、なぜ合同会社では公証人の認証が免除されているのでしょうか。
その理由は、会社の性質の違いにあります。

株式会社は、出資者である「株主」と、経営を行う「取締役」が分離(所有と経営の分離)していることが原則です。

株主は不特定多数に及ぶ可能性があり、会社の基本的なルールである定款が正しく作成されたことを第三者機関である公証人が証明することで、株主や債権者を保護する必要があるのです。

一方、合同会社は、出資者である「社員」自らが会社の経営を行う「人的会社」です。

社員は、原則としてお互いの顔が見える信頼関係に基づいた少人数の構成員で成り立つことが想定されています。
そのため、社員全員の合意によって作成された定款について、外部の公証人によるお墨付き(認証)を得る必要性がないと法律で定められています。

この違いは、設立時のコストと手続きに大きな差を生み出します。

比較項目合同会社株式会社
公証人による認証不要必須
認証手数料0円3万円~5万円
収入印紙代(紙の定款の場合)4万円4万円
設立費用の目安(合計)約6万円~(登録免許税のみ)約20万円~(登録免許税、認証手数料など)

このように、公証人認証が不要であることは、迅速かつ低コストで事業を開始したい創業者にとって、合同会社が持つ大きなメリットの一つと言えるでしょう。

定款が持つ法的な効力と重要性

公証人の認証が不要だからといって、定款の重要性が低いわけでは決してありません。

定款は、作成した社員全員の合意によって成立し、会社法に基づいて法的な効力を持ちます。
その効力は、会社の内部だけでなく、外部に対しても及びます。

定款の対内的効力と対外的効力

定款の法的な効力は、主に「対内的効力」と「対外的効力」の2つに分けられます。

  • 対内的効力:会社と社員、および社員間でのルールとしての効力です。定款に記載された事業目的、利益の配分方法、社員の退社手続きなどの規定は、すべての社員を拘束します。万が一、社員間で意見が対立した場合、定款の規定が判断の拠り所となり、紛争解決の指針となります。
  • 対外的効力:会社と取引先や金融機関といった第三者との関係における効力です。定款に記載された商号(会社名)、本店所在地、事業目的などは法務局で登記され、会社の公式な情報として社会に公示されます。これにより、会社の存在や事業内容を第三者に対して証明し、円滑な取引や融資審査を可能にします。

定款が「会社の憲法」である理由

定款が「会社の憲法」と呼ばれるのは、単なる社内ルールに留まらない、以下のような重要な役割を担っているためです。

  1. 会社の根本規則としての役割:会社の組織、運営、意思決定、利益配分など、会社経営の根幹をなすルールを定めます。このルールに基づいて、日々の事業活動が行われます。
  2. 社員間のトラブル防止機能:特に合同会社では、社員間の人間関係が経営に直結します。金銭が絡む利益配分や、社員の追加・退社、持分の譲渡といったデリケートな問題について、あらかじめ定款で明確なルールを定めておくことで、将来起こりうる無用なトラブルを未然に防ぐことができます。
  3. 会社の信用力の証明:金融機関から融資を受ける際や、官公庁の許認可を申請する際、また重要な取引を開始する際には、定款の提出を求められることがよくあります。適切に作成された定款は、会社の健全性や信頼性を外部に示す重要な証明書となります。

合同会社は「定款自治の原則」が広く認められており、会社法などの強行法規に違反しない限り、社員の合意によって会社のルールを自由に設計できます。
この自由度の高さを活かし、自社の実態に合った最適な定款を作成することが、合同会社の成功の鍵を握っているのです。

会社設立の代行費用実質0円、個人事業主とのメリットデメリット流れと手順

合同会社の定款に記載する事項は、その法的効力や重要性から「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」の3つに大きく分類されます。

それぞれの意味を正しく理解し、漏れなく、かつ自社に合った内容を定めることが、円滑な会社設立と将来のトラブル防止の鍵となります。

ここでは、各分類にどのような項目が含まれるのか、そして記載する際の注意点について具体的に解説していきます。

絶対的記載事項 ひとつでも欠けると定款が無効に

絶対的記載事項とは、その名の通り、会社法によって必ず定款に記載しなければならないと定められている項目です。

ひとつでも記載が漏れていたり、内容が不適切だったりすると、作成した定款そのものが無効となり、会社の設立登記ができません。

最も基本かつ重要な項目であり、細心の注意を払って作成する必要があります。

合同会社の絶対的記載事項は、以下の6つです。

項目記載内容と注意点
1. 商号会社の名前のことです。法務局の管轄内で同一商号・同一本店の会社は登記できません。
また、合同会社であることを示すために、商号の中に「合同会社」という文字を必ず入れなければなりません。
2. 目的会社がどのような事業を行うのかを具体的に記載します。将来行う可能性のある事業も記載できますが、あまりにも関連性のない事業を羅列すると融資審査などで不利になる可能性もあります。
許認可が必要な事業は、その要件を満たす文言で記載する必要があります。
3. 本店所在地会社の本拠地となる住所です。
最小行政区画(例:「東京都新宿区」)までの記載で定款を作成することも可能ですが、登記申請時には地番まで含めた詳細な住所が必要になります。
4. 社員の氏名又は名称及び住所会社に出資する全社員の氏名(法人の場合は名称)と住所を記載します。
印鑑証明書に記載されている通り、正確に記入する必要があります。
5. 社員が有限責任社員であること合同会社の社員は、株式会社の株主と同様に、会社の債務に対して出資額の範囲内でのみ責任を負う「有限責任」です。
このことを「社員の全員を有限責任社員とする」といった形で明確に記載します。
6. 社員の出資の目的及びその価額又は評価の標準各社員が何で、いくら出資するのかを記載します。
金銭で出資する場合はその金額を、不動産やパソコンなどの現物で出資する場合はその物の名称と評価額を記載します。

相対的記載事項 経営の自由度を高める重要項目

相対的記載事項とは、定款に記載しなくても定款自体の効力には影響がないものの、記載しなければその事項に関する法的な効力が認められない項目です。

会社法などの法律に原則的な定めがありますが、定款に別途定めることで、その原則とは異なるルールを適用できます。

会社の状況に合わせて経営の自由度を高めるために非常に重要な項目群です。

業務執行権と代表権の定め方

合同会社では、原則として出資者である全社員が「業務執行権(会社の業務を行う権利)」と「代表権(会社を代表して契約などを行う権利)」を持ちます(これを「各自代表」といいます)。
しかし、複数の社員がいる場合、全員が代表権を持つと意思決定が煩雑になったり、対外的な責任の所在が不明確になったりする可能性があります。

そこで、定款に定めることで特定の社員のみを業務執行社員や代表社員とすることができます。

  • 業務執行社員:定款で業務執行社員を定めると、その者だけが会社の業務執行を行うことができます。業務執行社員を定めない場合は、全社員が業務執行社員となります。
  • 代表社員:業務執行社員の中から、会社を代表する代表社員を定款で定めることができます。定款で代表社員を定めない場合、業務執行社員の全員が代表権を持つことになります。

これにより、経営の役割分担を明確にし、迅速な意思決定と対外的な信用の向上を図ることができます。

持分の譲渡制限に関する規定

合同会社の「持分」とは、株式会社における「株式」に相当するものです。
会社法では、社員がその持分を第三者に譲渡する場合、原則として他の全社員の同意が必要と定められています。

これは、人的な信頼関係を基礎とする合同会社の性質を守るための規定ですが、社員数が多い場合や将来の事業承継を考える上では、この要件が足かせになることもあります。

そこで、定款に「持分の譲渡には、業務執行社員の過半数の同意を要する」といったように、承認の要件を緩和する規定を設けることができます。
これにより、社員の交代や事業承継をよりスムーズに進めることが可能になります。

任意的記載事項 会社の独自ルールを定める項目

任意的記載事項とは、定款に記載しなくても法的に何ら問題がなく、記載しなくても会社の運営に直接影響しない項目です。
しかし、会社の基本的なルールや運営方針を明確にし、社員間の無用なトラブルを避けるために記載しておくことが推奨されます。

公序良俗に反しない限り、会社独自のルールを自由に定めることができます。

公告の方法

会社が重要な事項(例えば組織変更や合併など)を決定した際に、その旨を利害関係者に知らせる手続きを「公告」といいます。
株式会社とは異なり、合同会社には決算公告の義務はありません。

しかし、公告が必要になった場合、定款で公告方法を定めていないと、国の機関紙である「官報」に掲載することが法律で定められています。
官報への掲載は数万円の費用がかかります。

そこで、定款に「当会社の公告は、電子公告により行う。」と定め、自社のウェブサイトのURLを登記しておくことで、将来的に発生する可能性のある公告費用を大幅に削減できます。
設立時には「当会社の公告は、官報に掲載する方法により行う。」と定めておくのが一般的ですが、電子公告の選択肢も検討する価値は十分にあります。

社員総会の招集通知期間

合同会社の最高意思決定機関は、全社員で構成される「社員総会」です。
しかし、会社法には社員総会の招集手続きについて具体的な規定がありません。

そのため、後々のトラブルを避けるために、定款で「社員総会を招集するには、会日より1週間前までに、各社員に対してその通知を発しなければならない。」といったように、招集通知の時期や方法に関するルールを明確にしておくことが望ましいです。
これにより、全社員が公平に総会に参加する機会を確保し、円滑な議事進行を促すことができます。

その他、任意的記載事項としては以下のようなものが挙げられます。

  • 事業年度(会計期間)
  • 社員総会の議長や決議要件
  • 役員報酬の決定方法
  • 利益の配当に関する規定
会社設立の代行費用実質0円、個人事業主とのメリットデメリット流れと手順

合同会社の設立費用を抑える上で、最も効果的な方法の一つが「電子定款」の作成です。

従来の紙の定款で必要だった収入印紙代4万円が不要になるため、設立時の初期コストを大幅に削減できます。

ここでは、電子定款がコスト削減につながる仕組みから、具体的な作成方法、必要な準備物までを詳しく解説します。

収入印紙代4万円が節約できる仕組み

なぜ電子定款を作成すると4万円もの費用が節約できるのでしょうか。
その理由は、印紙税法という法律にあります。

印紙税法では、契約書や領収書といった「課税文書」を作成した場合、その文書に対して印紙税を納めることが義務付けられています。

合同会社の定款もこの課税文書に該当するため、紙で作成した場合には4万円の収入印紙を貼付しなければなりません。

しかし、印紙税の対象はあくまで「紙の文書」に限られます。

電子データである電子定款は、印紙税法上の課税文書に該当しないため、収入印紙の貼付が不要となるのです。
この法的根拠により、電子定款を選択するだけで、設立費用を確実に4万円節約することが可能になります。

電子定款の作成に必要な準備物一覧

電子定款を作成するためには、事前にいくつかの機材やソフトウェアを準備する必要があります。

一つずつ確認していきましょう。

準備物概要と注意点
マイナンバーカード定款作成者(社員)の電子署名に使用します。
有効な電子証明書が格納されている必要があります。
事前に市区町村の窓口で電子証明書の有効期限を確認しておきましょう。
ICカードリーダライタマイナンバーカードの情報を読み込むための機器です。
家電量販店やオンラインショップで数千円程度で購入できます。
公的個人認証サービスに対応した製品を選んでください。
パソコンWindows、Macのどちらでも可能ですが、使用するソフトウェアの動作環境を確認しておく必要があります。
PDF作成ソフト作成した定款の文書をPDF形式に変換するためのソフトウェアです。
電子署名を付与する機能が必要なため、一般的には「Adobe Acrobat」などの有料ソフトが推奨されます。
電子署名プラグインソフト法務省の登記・供託オンライン申請システムで使用するための専用ソフトなど、電子署名を付与するために必要なソフトウェアです。
事前にインストールと設定を済ませておきましょう。

これらの準備には多少の手間と初期費用がかかりますが、収入印紙代4万円の節約効果を考えれば、十分にメリットがあると言えるでしょう。

マイナンバーカードとICカードリーダライタ

電子定款に法的な効力を持たせるためには、作成者本人による「電子署名」が不可欠です。
この電子署名を行うために、電子証明書が格納されたマイナンバーカードが必要となります。
もしマイナンバーカードをお持ちでない場合や、電子証明書の有効期限が切れている場合は、お住まいの市区町村役場で手続きを行ってください。

ICカードリーダライタは、そのマイナンバーカードをパソコンに接続し、電子証明書の情報を読み取るための周辺機器です。
製品によってはパソコンとの相性があるため、ご自身のパソコンのOSに対応しているか、またマイナンバーカードの読み取りに対応しているかを必ず確認してから購入しましょう。
最近では、スマートフォンのNFC機能を使って代用できる場合もあります。

PDF作成ソフトと電子署名プラグインソフト

Wordなどで作成した定款の原案は、最終的にPDF形式のファイルに変換します。
PDFは改ざんが難しく、どの環境でも同じレイアウトで表示できるため、公的な文書に適しています。

重要なのは、単にPDF化するだけでなく、そのPDFファイルに電子署名を付与する必要がある点です。
そのため、電子署名機能を持つPDF編集ソフトが必要となります。
最も広く利用されているのは「Adobe Acrobat」です。
無料のPDF閲覧ソフトでは電子署名ができないため注意が必要です。

また、法務省の申請用総合ソフトなどを利用して電子署名を行う場合、専用のプラグインソフトのインストールが求められることがあります。
法務省のウェブサイトで最新の情報を確認し、必要なソフトウェアを事前に準備しておきましょう。

紙の定款で作成する場合の手順と製本方法

電子定款と比較するために、従来の紙の定款を作成する際の手順も理解しておきましょう。

紙で作成する場合は、以下の手順で製本まで行う必要があります。

  • ステップ1:定款の印刷
    作成した定款を、通常3部(法務局提出用、会社保管用、謄本用)印刷します。
  • ステップ2:署名または記名押印
    定款の末尾に、全社員が署名、または記名の上で実印を押印します。
  • ステップ3:収入印紙の貼付
    法務局へ提出する1部に、4万円分の収入印紙を貼付し、消印(割印)を押します。消印は全社員の実印で行うのが一般的です。
  • ステップ4:製本(袋とじ)
    印刷した定款を順番に重ね、ホチキスで綴じます。その後、ホチキスの針が見えないように背表紙をテープや紙で覆い、袋とじにします。
  • ステップ5:契印
    ページの差し替えなどを防ぐため、全ページの見開き部分に、全社員が実印で契印(割印)を押します。袋とじにした場合は、裏表紙と製本テープの境目に契印を押します。

このように、紙の定款は収入印紙代のコストがかかるだけでなく、印刷、押印、製本といった物理的な手間も発生します。
これらの手間とコストを削減できる点が、電子定款の大きな魅力と言えます。

会社設立の代行費用実質0円、個人事業主とのメリットデメリット流れと手順

合同会社の定款は、一度作成すれば終わりではありません。

会社の憲法として、設立後の経営にも大きな影響を与え続けます。

ここでは、将来のトラブルを未然に防ぎ、スムーズな会社運営を実現するために、定款作成時に特に注意すべき3つの重要なポイントを解説します。
これらのポイントを押さえることで、安定した経営基盤を築くことができるでしょう。

事業目的は許認可の要件を確認して記載する

会社の事業目的は、定款の絶対的記載事項であり、会社の事業範囲を定める重要な項目です。
特に、許認可が必要な事業を行う場合は、その記載方法に細心の注意を払わなければなりません。

例えば、建設業、古物商、飲食店、人材派遣業など、特定の事業を始めるには、国や地方公共団体からの許認可が必要です。
そして、その許認可を申請する際には、定款の事業目的に、行政庁が指定する特定の文言が含まれていることが要件となるケースが少なくありません。

もし必要な文言が記載されていなければ、許認可が下りず、事業を開始することができません。

後から定款変更と登記変更を行うことになれば、登録免許税として3万円の費用と、専門家への報酬、そして多くの手間がかかってしまいます。

このような事態を避けるため、事業を始める前に必ず管轄の行政庁(保健所、都道府県庁、警察署など)のウェブサイトを確認したり、直接問い合わせたりして、許認可の要件を正確に把握しておきましょう。

また、すぐに始める予定はなくても、将来的に展開する可能性のある事業をあらかじめ記載しておくことも有効です。

事業が拡大した際に、改めて定款変更を行う手間とコストを省くことができます。
ただし、関連性のない事業を無秩序に羅列すると、金融機関からの融資審査などで「事業内容が不明確な会社」という印象を与えかねないため、バランスを考慮して記載することが重要です。

社員間のルールは明確に定めてトラブルを防止する

合同会社は、株式会社に比べて内部自治の自由度が高い分、社員間のルールを定款で明確に定めておくことが極めて重要です。
特に金銭や経営権に関わる項目が曖昧だと、社員同士の信頼関係が崩れ、深刻な経営トラブルに発展するリスクがあります。

「親しい友人同士だから大丈夫」と考えていても、事業が拡大するにつれて意見の対立が生じることは珍しくありません。

「言った・言わない」の水掛け論を避け、円滑な会社運営を続けるために、以下の項目については必ず定款で具体的に規定しておきましょう。

規定すべき項目規定内容のポイントと具体例
利益の配分割合合同会社では、出資額の割合に関わらず、利益の配分割合を自由に設定できます。
特定の社員の技術力や営業力といった貢献度を考慮して配分を決められるのが大きなメリットです。
例:「利益の配分は、業務執行社員Aに60%、業務執行社員Bに40%の割合で行う。」
業務執行権と代表権原則として社員全員が業務執行権と代表権を持ちますが、定款で特定の社員のみを業務執行社員や代表社員と定めることができます。
役割分担を明確にし、迅速な意思決定ができる体制を整えるために重要です。
例:「当会社の業務執行社員はAとし、代表社員はBとする。」
意思決定の方法重要な業務執行の決定は、原則として業務執行社員の過半数の同意で決まります。
しかし、より重要な事項(定款変更、事業譲渡など)については、「総社員の3分の2以上の同意」のように、定款で特別の決議要件を定めておくことで、安易な経営方針の変更を防ぐことができます。
社員の退社と持分の払戻し社員が退社する際の手続きや、持分の払戻しに関するルールは、最もトラブルになりやすい項目の一つです。
特に、持分の評価方法(帳簿価額を基準にするのか、時価で評価するのか等)を具体的に定めておくことで、金銭的な紛争を回避できます。
持分の譲渡制限会社の経営権が意図しない第三者に渡ることを防ぐため、持分の譲渡に関するルールを定めます。
原則として他の社員全員の承諾が必要ですが、「業務執行社員の承諾を得れば可能」など、会社の状況に合わせて柔軟な規定を設けることもできます。

専門家への相談も検討する

定款は会社法に基づいて作成する必要がある法的な文書です。

インターネット上には多くのテンプレートや雛形が存在しますが、それらが必ずしも自社の実態に合っているとは限りません。

もし、以下のようなケースに当てはまる場合は、専門家への相談を強く推奨します。

  • 複数の社員で設立するため、利害関係の調整が必要な場合
  • 許認可が必要な事業や、将来的に融資を検討している場合
  • 利益配分や意思決定方法など、会社法で定められた原則とは異なる独自のルールを設けたい場合
  • 法的に不備のない、完璧な定款を作成して、設立手続きをスムーズに進めたい場合

定款作成や会社設立手続きの専門家には、司法書士や行政書士がいます。

司法書士は定款作成から法務局への設立登記申請まで一貫して代行でき、行政書士は定款作成や許認可申請の書類作成を得意としています。

専門家への依頼には費用がかかりますが、自社のビジョンや運営方針に最適化された定款を作成できるだけでなく、将来起こりうる法務リスクを回避できるという大きなメリットがあります。

設立時のわずかなコストを惜しんだ結果、後々大きなトラブルに発展するケースは少なくありません。

専門家の知識と経験を活用することは、会社の未来を守るための有効な投資と言えるでしょう。

会社設立の代行費用実質0円、個人事業主とのメリットデメリット流れと手順

合同会社を設立した後も、事業の成長や経営方針の転換に伴い、定款の内容を見直す必要が生じることがあります。

定款に記載された事項を変更するには、法務省令で定められた適切な手続きを踏まなければなりません。
特に、商号や本店所在地といった登記事項に関わる変更の場合は、法務局での変更登記申請が必須となります。

ここでは、定款変更が必要になる具体的なケースから、手続きの流れ、そして発生する費用までを詳しく解説します。

定款変更が必要になる主なケース

会社の根幹を定める定款の変更は、どのようなタイミングで必要になるのでしょうか。

ここでは、定款変更が求められる代表的なケースを2つご紹介します。
これらは会社の登記事項証明書(登記簿謄本)にも記載される重要な情報であり、変更後は速やかな登記申請が不可欠です。

商号や目的の変更

会社の「顔」ともいえる商号(会社名)や、事業内容を定める「目的」は、定款の絶対的記載事項です。
これらを変更する場合は、必ず定款変更の手続きと、法務局への変更登記申請が必要になります。

例えば、ブランドイメージを一新するために商号を変更したり、新規事業へ進出するために事業目的を追加したりする場合が該当します。
特に事業目的を追加する際は、その事業が許認可を必要とするものでないか、事前に十分な確認が必要です。
許認可の要件を満たす文言で目的を記載しないと、後々事業を開始できないという事態に陥る可能性があるため、注意しましょう。

本店所在地の移転

会社の住所である本店所在地を移転する場合、定款変更が必要かどうかは「現在の定款の記載方法」と「移転先の場所」によって異なります。

まず、定款に本店所在地がどのように記載されているかを確認しましょう。
例えば、「当会社は、本店を東京都新宿区に置く。」のように最小行政区画(市町村、東京23区)まで記載しているケースが一般的です。

  • 定款変更が【必要】なケース
    定款で定めた最小行政区画の外へ移転する場合です。例えば、「東京都新宿区」から「東京都渋谷区」へ移転する場合は、定款自体の変更が必要となります。
  • 定款変更が【不要】なケース
    定款で定めた最小行政区画内で移転する場合です。例えば、「東京都新宿区」から同じ新宿区内の別の場所へ移転する場合は、定款を変更する必要はありません。ただし、定款変更が不要な場合でも、登記されている所在地の変更は必要なので、変更登記申請は必須です。

どちらのケースにせよ、本店移転後は登記申請が必要になる点を押さえておきましょう。

総社員の同意と登記申請の流れ

定款変更から登記申請までの手続きは、大きく分けて4つのステップで進めます。

合同会社の定款変更は、原則として「総社員の同意」がなければ効力が生じません。

Step 1: 総社員の同意を得て、証明書面を作成する
まず、変更する定款の内容について、全社員から同意を得る必要があります。株式会社の株主総会決議とは異なり、合同会社では原則として社員全員の一致が求められます(会社法第637条)。同意が得られたら、その事実を証明するために「総社員の同意書」または「社員総会議事録」を作成します。この書面には、変更内容、同意した日付を明記し、社員全員が記名押印します。

Step 2: 変更登記申請書を作成する
次に、法務局へ提出する「合同会社変更登記申請書」を作成します。申請書の様式は法務局のウェブサイトからダウンロードできます。変更する登記事項(商号、目的、本店所在地など)や登録免許税額などを正確に記入しましょう。

Step 3: 必要書類を準備・製本する
申請書と合わせて提出する必要書類を準備します。一般的には以下の書類が必要です。

  • 合同会社変更登記申請書
  • 総社員の同意書(または社員総会議事録)
  • 委任状(場合によって)(代理人に申請を依頼する場合)

これらの書類を順番に重ねて、ホチキスで左側を2箇所留めて製本します。

Step 4: 法務局へ登記申請を行う
準備した書類一式を、本店所在地を管轄する法務局に提出します。登記申請は、変更が生じた日から2週間以内に行わなければなりません。期限を過ぎると過料(罰金)の対象となる可能性があるため、速やかに手続きを進めましょう。申請方法は、法務局の窓口へ持参するほか、郵送やオンライン(登記・供託オンライン申請システム「登記ねっと」)でも可能です。

定款変更に伴う変更登記で発生する主な費用は、登録免許税です。

税額は変更内容によって異なります。

変更登記の種類登録免許税額備考
商号の変更30,000円会社の名称を変更する場合。
目的の変更30,000円事業目的を追加・変更・削除する場合。
本店所在地の移転(管轄内)30,000円同じ法務局の管轄内で移転する場合。
本店所在地の移転(管轄外)60,000円旧所在地と新所在地の法務局、それぞれに3万円ずつ納付。
代表社員の変更(住所変更など)10,000円資本金が1億円を超える場合は30,000円。

これらの費用はあくまで法務局に納める実費です。

手続きを司法書士などの専門家に依頼する場合は、別途報酬が発生します。

会社設立の代行費用実質0円、個人事業主とのメリットデメリット流れと手順

合同会社の定款は、ご自身で作成することも十分可能ですが、法的な正確性を担保し、貴重な時間を節約するために専門家へ依頼するのも有効な選択肢です。
特に、事業内容が複雑な場合や、将来のトラブルを未然に防ぎたい場合には専門家の知識と経験が大きな助けとなります。

ここでは、定款作成を依頼できる主な専門家とその役割、メリットについて詳しく解説します。

司法書士に依頼するメリット

司法書士は、登記手続きの専門家です。

合同会社設立における司法書士の最大の強みは、定款作成から法務局への設立登記申請まで、すべての手続きをワンストップで代行できる点にあります。

具体的には、以下のようなメリットが挙げられます。

  • 設立手続きを一貫して任せられる:定款の作成はもちろん、その後の登記申請に必要な書類(設立登記申請書、代表社員の就任承諾書、本店所在地及び資本金決定書など)の作成から、法務局への申請代理まで、設立に関する一連の法務手続きをすべて依頼できます。これにより、ご自身は事業の準備に集中することができます。
  • 法的に正確で有効な定款を作成できる:会社法をはじめとする関連法規に精通しているため、法律の要件を満たした、法的に瑕疵のない定款を作成してもらえます。社員間の権利関係や利益配分など、複雑な内容を盛り込む場合でも、法的な観点から最適な条文を提案してくれます。
  • 電子定款に標準対応:多くの司法書士事務所では電子定款の作成に対応しています。そのため、ご自身でICカードリーダライタなどの機器を準備しなくても、収入印紙代4万円を節約することが可能です。
  • 設立後の法務サポート:会社設立後も、役員変更や本店移転など、登記事項に変更が生じた際には、継続して相談・依頼することができます。

行政書士に依頼するメリット

行政書士は、官公署に提出する書類作成の専門家です。
特に、事業の開始にあたって許認可が必要な場合に大きな強みを発揮します。

行政書士に依頼する主なメリットは以下の通りです。

  • 許認可申請を見据えた定款作成:建設業、飲食業、古物商、運送業など、特定の事業を行うためには国や都道府県からの許認可が必要です。行政書士は、これらの許認可要件に精通しており、事業目的に関する記載など、許認可申請がスムーズに進むような定款を作成してくれます。定款作成と許認可申請をセットで依頼できるため、二度手間を防げます。
  • 書類作成のプロフェッショナル:定款をはじめ、会社設立に必要な各種議事録や書類の作成を正確に行います。ただし、司法書士とは異なり、法務局への登記申請の代理は業務範囲外となるため、登記申請はご自身で行うか、別途司法書士に依頼する必要があります。
  • 比較的費用を抑えられる場合がある:登記申請を自分で行うことを前提に、定款作成のみを依頼する場合、司法書士に登記まで含めて依頼するよりも費用が安くなる可能性があります。

どちらの専門家に依頼すべきか迷った場合は、以下の比較表を参考にしてください。

専門家主な業務範囲と特徴特に依頼をおすすめするケース
司法書士定款作成から設立登記申請まで、会社設立に関する法務手続きを一括で代行可能
登記の専門家。
設立手続きの手間をすべて省きたい方法的に複雑な定款を作成したい方設立後の法務手続きについても相談したい方
行政書士定款をはじめとする書類作成がメイン。
許認可申請の代行も可能。
登記申請の代理は不可。
建設業、飲食業、古物商など許認可が必要な事業を始める方登記申請は自分で行い、費用を少しでも抑えたい方

なお、会社設立時には税理士や弁護士といった他の専門家が関わることもあります。

税理士は資本金の額や役員報酬の設定など税務面から、弁護士は社員間の特殊な契約や紛争予防の観点からアドバイスを提供します。

ご自身の状況に合わせて、最適な専門家への相談を検討しましょう。

本記事では、合同会社の定款作成について、基礎知識から具体的な記載事項、作成のポイント、変更手続きまでを網羅的に解説しました。

定款は「会社の憲法」とも呼ばれるほど重要な書類であり、その作成は会社設立における根幹をなす作業です。

定款に必ず記載しなければならない「絶対的記載事項」が一つでも欠けていると、定款そのものが無効となるため細心の注意が必要です。
また、経営の自由度を高める「相対的記載事項」や、独自のルールを定める「任意的記載事項」を適切に設定することで、将来の社員間トラブルを未然に防ぐことができます。

設立費用を抑える上で最も効果的な方法は、収入印紙代4万円が節約できる電子定款の作成です。

マイナンバーカードなど必要な準備はありますが、コスト削減のメリットは非常に大きいと言えるでしょう。

定款の作成や変更手続きに不安がある場合や、事業内容が複雑な場合は、司法書士や行政書士といった専門家への相談も有効な選択肢です。

この記事を参考に、自社の実態に即した最適な定款を作成し、スムーズな会社設立と事業運営を実現してください。

会社設立の代行費用実質0円、個人事業主とのメリットデメリット流れと手順
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経営サポートプラスアルファホールディングスは税理士法人や行政書士法人などを含むグループ会社経営によって、従来の会計業界の常識にとらわれることなく、クライアントの成長フェーズに合わせた幅広い事業展開を行っております。
時代の変化に伴いお客様のニーズを拾い上げ付加価値を追求してきた結果として今の体制、サービスがあります。
そしてこれからも起業家のサポーターとして「経営サポートプラスアルファ」という社名の通り、付加価値となるプラスアルファを追求していきます。