賃貸物件での法人登記は、大家さんや管理会社の許可さえ得られれば可能です。
しかし、伝え方や手続きを誤るとトラブルの原因にもなりかねません。
本記事では、法人登記を検討している方に向けて、大家さんへの交渉のコツや使用承諾書の要否、法務局での具体的な申請手順までを網羅的に解説します。
さらに、契約違反のリスクといった注意点や、もし登記を断られた場合のバーチャルオフィスなどの代替案もご紹介。
この記事を読めば、賃貸での法人登記に関するあらゆる不安を解消し、スムーズに手続きを進めるための全知識が手に入ります。
賃貸物件での法人登記は可能?まず知っておくべき基本
これから起業を目指す方や、個人事業主から法人化(法人成り)を検討している方にとって、最初の大きなハードルとなるのが「オフィスの住所」です。
特に、現在お住まいの賃貸マンションやアパートをそのまま本店所在地として登記できるのか、という点は多くの方が抱える疑問でしょう。
結論からお伝えすると、賃貸物件での法人登記は可能ですが、いくつかの重要な注意点とクリアすべき条件があります。
この章では、法人登記の可否を判断するための基本的な知識について、法律上の観点と賃貸契約上の観点の両方から詳しく解説します。
そもそも賃貸での法人登記は法律上問題ない
まず大前提として、日本の法律(会社法)では、法人の本店所在地をどこに置くかについて特別な制限は設けられていません。
つまり、自宅として借りている賃貸マンションの一室を本店所在地として登記すること自体は、法律上まったく問題ありません。
法務局での登記手続きにおいて、その住所が賃貸物件であるという理由で申請が却下されることはないのです。
しかし、ここで注意しなければならないのが「法律上の問題」と「賃貸借契約上の問題」は別であるという点です。
ほとんどの居住用賃貸物件は、その名の通り「居住」を目的として貸し出されています。
そのため、賃貸借契約書には「本物件を住居以外の用途で使用してはならない」といった条項が定められているのが一般的です。
法人登記を行い、その場所で事業活動を行うことは、この「住居以外の用途」に該当し、契約違反と見なされる可能性があります。
大家さんや管理会社が事業利用を懸念する主な理由は以下の通りです。
- 不特定多数の人の出入りによる、他の入居者とのトラブルやセキュリティ上の不安
- 郵便物や宅配便の増加による管理の手間
- 事業活動に伴う騒音や振動の問題
- 通常の使用を超える建物の損耗
これらの理由から、法律上は問題なくても、契約上は許可されていないケースが非常に多いのが実情です。
そのため、法人登記を進める前に、必ず契約内容の確認と大家さん・管理会社への相談が必要不可欠となります。
事務所利用が可能な賃貸物件の見分け方
では、どのような賃貸物件であれば法人登記がしやすいのでしょうか。
すでにお住まいの物件、もしくはこれから探す物件について、事務所利用が可能かどうかを見分けるポイントを解説します。
最も確実な方法は、「賃貸借契約書」を隅々まで確認することです。
特に以下の項目に注目してください。
- 用途・使用目的: 「居住専用」「住居に限る」といった記載がある場合、原則として事務所利用や法人登記はできません。
- 禁止事項: 「営業活動の禁止」「事務所としての使用禁止」「法人登記の禁止」といった文言が明記されている場合があります。
これから物件を探す場合は、不動産情報サイトなどで「事務所可」「SOHO可」といった条件で検索するのが効率的です。
これらの物件種別には以下のような違いがあります。
| 物件種別 | 特徴 | 注意点 |
|---|---|---|
| 事務所可物件 | 事業を行うことを前提とした物件。法人登記も原則可能で、看板設置などが認められる場合もある。 | 居住用物件に比べて数が少なく、賃料や保証金が高めに設定されていることが多い。 |
| SOHO可物件 | 「スモールオフィス・ホームオフィス」の略。住居兼事務所としての利用が認められている物件。 | 法人登記の可否は物件ごとに異なるため、必ず確認が必要。不特定多数の来客がある業種は断られる場合がある。 |
| 居住用物件 | 住むことを目的とした物件。原則として事務所利用や法人登記は不可。 | 大家さんや管理会社の許可が得られれば登記できる可能性もあるが、交渉が必要。 |
これらの表記がない一般的な居住用物件であっても、大家さんの方針によっては許可が出るケースもあります。
例えば、Webライターやプログラマーのように、来客がなく、騒音なども発生しない静かな業種であれば、法人登記を認めてもらいやすい傾向にあります。
まずは契約書を確認し、その上で不動産会社や管理会社に相談してみることが、法人登記への第一歩となります。
ステップ1 大家さんや管理会社への確認と許可の取り付け

賃貸物件での法人登記を成功させるための最初の、そして最も重要なステップが「大家さん(貸主)や管理会社への確認と許可の取り付け」です。
法律上は問題なくても、賃貸借契約はあくまで個人間の約束事。
無断で登記を進めると、契約違反としてトラブルに発展し、最悪の場合、退去を求められる可能性もあります。
円滑に手続きを進めるため、誠実な対応を心がけましょう。
法人登記したい旨を伝える最適なタイミング
大家さんや管理会社に法人登記の相談をするタイミングは、主に2つ考えられます。
結論から言うと、賃貸借契約を結ぶ前に確認するのが最も安全で確実な方法です。
| タイミング | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 契約前 | 許可が得られなかった場合、別の物件を探せばよく、トラブルのリスクがゼロ。 | 「法人登記可」の物件は限られるため、物件探しの選択肢が狭まる可能性がある。 |
| 契約後(入居中) | すでに住んでいる物件で登記できれば、移転の手間や費用がかからない。 | 断られた場合、登記のためにバーチャルオフィスを契約したり、引っ越しを検討したりする必要がある。無断登記のリスクも伴う。 |
すでに入居中の物件で登記を考えている場合でも、決して無断で行ってはいけません。
後から発覚した場合、信頼関係が損なわれ、深刻なトラブルにつながる可能性があります。
正直に事情を説明し、相談することが不可欠です。
大家さんへの伝え方と交渉のポイント
大家さんが最も懸念するのは、「物件の利用方法が変わり、住環境が悪化すること」です。
例えば、「不特定多数の人の出入りが増えるのではないか」「騒音や匂いの問題は発生しないか」「看板を設置されて物件の外観が損なわれないか」といった不安を抱いています。
交渉を成功させるには、これらの懸念を先回りして払拭し、安心してもらうことが重要です。
以下のポイントを押さえて伝えましょう。
| 伝えるべきポイント | 具体的な伝え方の例 |
|---|---|
| 事業内容 | 「事業内容はWebデザインで、主に自宅のPCで作業します。商品の在庫を抱えたり、機材を搬入したりすることはありません。」 |
| 来客の有無と頻度 | 「お客様との打ち合わせは基本的にオンラインか先方へ伺う形で行うため、事務所への来客はほとんどありません。」 |
| 看板や表札の設置 | 「建物の外観を損なうような看板は設置いたしません。郵便受けに小さな社名プレートを貼る許可だけいただけますでしょうか。」 |
| 郵便物の量 | 「法人登記に伴い多少郵便物は増えますが、一般的な家庭の範囲を超える量ではありませんのでご安心ください。」 |
| 登記の必要性 | 「事業の性質上、許認可の申請や融資の申し込みに法人の住所が必要なため、登記にご協力いただけないでしょうか。」 |
大切なのは、あくまで「住居としての利用がメインであり、事業活動による迷惑はかけない」という姿勢を明確に示すことです。
誠実な態度で丁寧に説明すれば、理解を得られる可能性は高まります。
使用承諾書が必要になるケース
交渉の際、「使用承諾書(本店所在地使用承諾書)」への署名・捺印をお願いすることがあります。
これは、物件の所有者が、その場所を本店所在地として使用することを承諾したことを証明する書類です。
法人登記の申請自体には、必須ではないケースも増えていますが、以下のような場面で提出を求められることがあります。
- 管轄の法務局が提出を求めている場合
- 法人名義の銀行口座を開設する際に金融機関から求められる場合
- 融資(特に日本政策金融公庫など)を申し込む際に求められる場合
使用承諾書は、大家さんにとっては「事業利用を公式に認める」という意思表示になるため、署名に抵抗を感じる方も少なくありません。
事前に書式のひな形を準備し、「あくまで登記と口座開設に必要なだけで、事務所として大々的に使うわけではない」ことを丁寧に説明しましょう。
使用承諾書なしで進める方法
大家さんから使用承諾書への署名を断られてしまった場合でも、諦める必要はありません。
以下の書類を揃えることで、法人登記が認められるケースがあります。
- 賃貸借契約書のコピー
- 本店所在地の決定を証する書面(取締役会議事録など)
- 登記申請者(代表取締役など)がその物件の契約者本人であることを証明する書類(住民票など)
この方法が使えるのは、賃貸借契約書に「住居専用」といった禁止条項がなく、「SOHO利用可」「事務所利用可」などの記載がある場合に限られることがほとんどです。
ただし、最終的な判断は管轄の法務局に委ねられます。
使用承諾書なしで手続きを進めたい場合は、必ず事前に管轄の法務局に電話などで問い合わせ、必要な書類を確認してください。
もし法人登記を断られた場合の対処法
丁寧に交渉しても、大家さんや管理会社から法人登記を断られてしまうこともあります。
その場合は、感情的にならず、冷静に次の手を考えましょう。
まず、なぜ断られたのか理由を具体的に聞いてみましょう。
「人の出入りが不安」という理由であれば、「来客は一切ない」ことを再度約束したり、「看板設置がダメ」なのであれば「看板は設置しない」ことを念書として提出したりすることで、許可が得られるかもしれません。
それでも許可が得られない場合は、その物件での登記は諦めるしかありません。
無断で登記を強行するのは絶対にやめましょう。
後々のトラブルを避けるためにも、本記事の後半で解説する「バーチャルオフィス」などの代替案を検討することをおすすめします。
この記事では、バーチャルオフィスとは何かという基本的な仕組みから、レンタルオフィスやシェアオフィスとの明確な違い、具体的…
ステップ2 法人登記の具体的な手続きと流れ

大家さんや管理会社から法人登記の許可を得られたら、次はいよいよ法務局での手続きに進みます。
法人登記は会社の誕生を法的に認めてもらうための重要なプロセスです。
手続きは複雑に思えるかもしれませんが、必要な書類と手順を一つずつ確認しながら進めれば、決して難しいものではありません。
この章では、法人登記の具体的な手続きと流れを、必要書類から費用の内訳まで詳しく解説します。
法人登記に必要な書類一覧
法人登記(ここでは一般的な株式会社の設立を例にします)には、さまざまな書類が必要です。
不備があると手続きが滞ってしまうため、漏れなく準備しましょう。
多くの書類はご自身で作成可能ですが、法務局のウェブサイトにあるテンプレートや市販のソフトウェアを活用するとスムーズです。
| 書類名 | 主な作成者・入手先 | 備考 |
|---|---|---|
| 登記申請書 | 発起人・代表取締役 | 法務局のウェブサイトで様式を入手できます。 |
| 定款 | 発起人 | 会社の基本ルールを定めたもの。株式会社の場合は公証役場での認証が必要です。 |
| 発起人の決定書(発起人会議事録) | 発起人 | 本店所在地や役員などを決定したことを証明する書類です。 |
| 取締役の就任承諾書 | 各取締役 | 取締役に就任することを承諾した旨を記載します。 |
| 代表取締役の就任承諾書 | 代表取締役 | 登記申請書に代表取締役の実印を押印する場合は不要なケースもあります。 |
| 監査役の就任承諾書 | 監査役 | 監査役を設置する場合に必要です。 |
| 印鑑証明書 | 各取締役(役所) | 就任承諾書に押印した実印の印鑑証明書です。市区町村役場で取得します。 |
| 資本金の払込証明書 | 発起人・代表取締役 | 発起人個人の銀行口座に資本金を振り込み、その通帳のコピー等で作成します。 |
| 印鑑届書 | 代表取締役 | 会社の実印(代表者印)を法務局に登録するための書類です。 |
| 登録免許税納付用台紙 | 発起人・代表取締役 | 登録免許税分の収入印紙を貼り付けて提出します。 |
本店所在地を証明する書類の準備
法人登記の手続きにおいて、「本店所在地である賃貸物件の住所を証明する専用の公的書類」は、原則として法務局から求められません。
登記申請書や定款に記載された住所が、そのまま本店所在地として登記されます。
しかし、これは手続き上の話です。
賃貸物件で法人登記を行う場合、その前提として大家さんや管理会社からの許可が不可欠です。
その許可の証として、前のステップで解説した「使用承諾書」を取得しておくことが極めて重要になります。
万が一、法務局から本店所在地の使用権限について確認を求められた際に、この使用承諾書が有効な証明となります。
また、使用承諾書がない場合でも、賃貸借契約書に「事業利用可」「SOHO可」といった記載があれば、それが許可の証明として認められるケースもあります。
契約書のコピーは念のため準備しておくと安心です。
ただし、法務局の判断はケースバイケースなため、不安な場合は事前に管轄の法務局へ相談することをおすすめします。
法務局での申請手続き完全ガイド
必要書類がすべて揃ったら、管轄の法務局へ登記申請を行います。
申請から登記完了までの大まかな流れは以下の通りです。
- 会社実印の作成: 登記申請前に、会社の実印(代表者印)を作成しておく必要があります。
- 定款の認証: 株式会社の場合、作成した定款を公証役場に持参し、認証を受けます。
- 資本金の払込み: 発起人の個人口座に、定められた資本金を振り込みます。
- 登記申請書類の提出: すべての書類を揃え、本店所在地を管轄する法務局に提出します。申請方法には以下の3つがあります。
- 窓口申請: 法務局の窓口へ直接持参する方法。不明点をその場で質問できるメリットがあります。
- 郵送申請: 書類一式を管轄法務局へ郵送する方法。遠方の場合に便利です。
- オンライン申請: 「登記・供託オンライン申請システム」を利用する方法。G-Biz IDを取得すれば、自宅やオフィスから24時間申請が可能で、近年利用者が増えています。
- 登記完了: 申請後、書類に不備がなければ1週間から10日ほどで登記が完了します。法務局で登記完了日を確認できます。
- 証明書等の取得: 登記完了後、法務局で「登記事項証明書(登記簿謄本)」と「印鑑カード」を取得します。これらは銀行口座の開設や各種契約手続きに必要となります。
賃貸の法人登記にかかる費用
法人登記には、必ず発生する「法定費用」と、状況に応じて発生する「その他の費用」があります。
賃貸物件だからといって登記費用が特別に変わることはありません。
費用は主に設立する会社の種類(株式会社か合同会社かなど)によって決まります。
| 費用の種類 | 金額の目安(株式会社の場合) | 備考 |
|---|---|---|
| 【法定費用】登録免許税 | 最低150,000円 | 資本金の額×0.7%。最低額が15万円です。合同会社の場合は最低6万円。 |
| 【法定費用】定款の認証手数料 | 約50,000円 | 公証役場で定款を認証してもらうための手数料です。合同会社の場合は不要。 |
| 【法定費用】定款に貼る収入印紙代 | 40,000円 | 紙の定款で作成した場合に必要です。電子定款で認証を受ければ、この4万円は不要になります。 |
| 【その他】会社実印の作成費用 | 5,000円~30,000円 | 印鑑の素材やデザインによって価格が変動します。 |
| 【その他】司法書士への報酬 | 50,000円~150,000円 | 手続きを専門家に代行依頼する場合の費用です。 |
| 【その他】登記事項証明書・印鑑証明書の取得費用 | 数百円~ | 登記完了後に取得する各種証明書の発行手数料です。 |
このように、株式会社を設立する場合、ご自身で手続きを行っても最低で約20万円(電子定款利用時)の法定費用がかかります。
コストを抑えたい方は、専門家に依頼してでも電子定款を利用した方が、結果的に総費用が安くなるケースも多いため、比較検討してみるのが良いでしょう。
賃貸物件で法人登記するメリットとデメリット

賃貸物件を本店所在地として法人登記することは、特にスタートアップ期の起業家にとって大きな魅力があります。
コストを抑えつつ事業を始められる一方で、見過ごせない注意点やデメリットも存在します。
ここでは、賃貸物件で法人登記を行うことのメリットとデメリットを多角的に比較し、後悔しないための判断材料を詳しく解説します。
賃貸で法人登記する3つのメリット
まずは、賃貸物件で法人登記を行うことで得られる具体的なメリットを3つのポイントに絞って見ていきましょう。
特にコスト面での恩恵は計り知れません。
1. 圧倒的なコスト削減
最大のメリットは、事業運営にかかる固定費を劇的に削減できる点です。
通常、事業を始めるには事務所や店舗を借りる必要がありますが、それには高額な初期費用(保証金、礼金、仲介手数料など)と月々の賃料が発生します。
自宅兼事務所として賃貸物件で法人登記すれば、これらの費用が一切かかりません。
さらに、事業で利用する割合に応じて、家賃や水道光熱費、インターネット通信費などを経費として計上(家事按分)できます。
これにより課税対象となる所得を圧縮でき、法人税や所得税の節税効果が期待できるのです。
創業初期のキャッシュフローが厳しい時期において、このコストメリットは事業の継続性を大きく左右する重要な要素となります。
2. 事業の信用度向上
個人事業主ではなく「法人」として登記することで、社会的信用度が格段に向上します。
法人格を持つことは、取引先や顧客に対して「事業への本気度」や「継続性」を示すことに繋がります。
特に、大手企業との取引や、金融機関からの融資、国や自治体が提供する補助金・助成金の申請において、法人であることが有利に働くケースは少なくありません。
登記された本店所在地が明確であることも、相手に安心感を与える一因となります。
3. 通勤時間ゼロで業務に集中できる
自宅がそのままオフィスになるため、毎日の通勤にかかる時間、費用、そして精神的なストレスから解放されます。
満員電車に揺られることなく、朝起きてすぐに業務を開始できる環境は、非常に高い生産性を生み出します。
削減できた通勤時間を事業計画の策定や実務、自己投資に充てることで、事業の成長を加速させることが可能です。
特に、限られたリソースで最大限の成果を出す必要があるスタートアップにとって、この時間的メリットは金銭的メリットにも匹敵する価値があると言えるでしょう。
知っておきたい賃貸法人登記の注意点とデメリット
多くのメリットがある一方で、賃貸物件での法人登記には事前に把握しておくべき重要な注意点とデメリットが存在します。
これらを軽視すると、後々大きなトラブルに発展する可能性があるため、慎重に検討しましょう。
契約違反になるリスク
最も注意すべき最大のデメリットは、賃貸借契約の契約違反に該当するリスクです。
日本の多くの居住用賃貸物件では、契約書に「本物件を居住の用にのみ使用するものとし、他の用途に使用してはならない」といった条項が盛り込まれています。
つまり、「住むためだけの場所」と定められているのです。
このような物件で大家さんや管理会社に無断で法人登記を行うと、この条項に違反することになります。
もし登記の事実が発覚した場合、契約違反を理由に是正を求められたり、最悪の場合は賃貸借契約を解除され、強制退去を命じられたりする可能性があります。
登記情報は誰でも閲覧できるため、「バレないだろう」という安易な考えは非常に危険です。
| ケース | 具体的な内容 |
|---|---|
| 登記情報の閲覧 | 取引先や金融機関などが、国税庁の法人番号公表サイトや登記情報提供サービスで本店所在地を確認した際に発覚する。 |
| 法人宛の郵便物 | 会社名義の郵便物が頻繁に届くことで、配達員や管理人が不審に思い、管理会社や大家さんに連絡がいく。 |
| 人の出入り | 従業員や来客の出入りが頻繁にあると、他の居住者から騒音やセキュリティに関するクレームが入り、調査の結果発覚する。 |
郵便物や看板設置の可否
事業を運営する上で、郵便物の受け取りや看板の設置は重要な要素ですが、賃貸物件ではこれらが制限される場合があります。
まず郵便物についてですが、マンションの集合ポストや玄関に法人名や屋号の表示が認められないケースが多くあります。
その結果、法人宛の重要な郵便物(税務署からの通知、取引先からの請求書など)が届かない、あるいは宛先不明で返送されてしまうといった実務上の支障が生じかねません。
また、看板や表札の設置は、建物の外観維持や他の居住者への配慮から、管理規約で明確に禁止されていることがほとんどです。
来客型のビジネス(コンサルティング、サロン、教室など)の場合、看板を設置できないことは集客面で不利になる可能性があります。
不特定多数の人の出入りは、騒音やセキュリティ低下を招くとして、そもそも事業利用の許可自体が下りにくいことも覚えておく必要があります。
法人登記が難しい場合の代替案

「大家さんや管理会社から法人登記の許可が得られなかった」「そもそも今住んでいる物件が住居専用で、事務所利用が認められていない」など、賃貸物件での法人登記を断念せざるを得ないケースは少なくありません。
しかし、だからといって法人設立を諦める必要はありません。
ここでは、賃貸物件の代わりに本店所在地として利用できる、現実的で有効な代替案を2つご紹介します。
バーチャルオフィスの活用法
バーチャルオフィスとは、物理的な執務スペース(部屋)を借りることなく、事業に必要な住所、電話番号などをレンタルできるサービスです。
特に、自宅で作業が完結する業種や、初期費用を極限まで抑えたいスタートアップ企業にとって非常に魅力的な選択肢となります。
バーチャルオフィスの最大のメリットは、その圧倒的なコストパフォーマンスです。
賃貸オフィス契約時に必要な敷金・礼金・保証金といった高額な初期費用は一切かからず、月額数千円からという低価格で法人登記可能な住所を手に入れることができます。
さらに、東京都心の一等地など、ビジネス上の信用力を高める住所を本店所在地として登記できるため、企業のブランドイメージ向上にも繋がります。
自宅の住所を公開する必要がないため、プライバシー保護の観点からも安心して利用できるでしょう。
ただし、利用には注意点もあります。
まず、古物商や建設業、不動産業、人材派遣業など、事業の許認可取得の要件として独立した事務所の設置が義務付けられている業種では、バーチャルオフィスでの開業は認められません。
また、一部の金融機関では、バーチャルオフィスを本店所在地とする法人の口座開設や融資の審査が厳しくなる傾向があります。
契約前には、希望する金融機関がバーチャルオフィスに対応しているかを確認しておくとスムーズです。
多くのバーチャルオフィスでは、郵便物の受け取り・転送サービスや、必要に応じて利用できる貸し会議室などのオプションも提供しているため、事業内容に合わせて活用することをおすすめします。
この記事では、バーチャルオフィスとは何かという基本的な仕組みから、レンタルオフィスやシェアオフィスとの明確な違い、具体的…
レンタルオフィスやコワーキングスペースという選択肢
レンタルオフィスやコワーキングスペースも、法人登記の代替案として非常に有効です。
これらのサービスは、最初から事業利用を前提としているため、大家さんとの交渉といった手間なく法人登記が可能です。
レンタルオフィスは、デスクやチェア、インターネット環境などが整った個室スペースを借りる形態です。
プライバシーが確保され、静かな環境で業務に集中したい場合に適しています。
一方、コワーキングスペースは、オープンな空間を複数の利用者と共有する形態です。
利用者同士の交流から新たなビジネスチャンスが生まれる可能性もあり、コミュニティを重視する方に向いています。
これらのサービスのメリットは、賃貸オフィスを借りるよりも初期費用を大幅に抑えつつ、すぐに事業を開始できる点にあります。
敷金や礼金が不要な場合が多く、内装工事なども必要ありません。
契約期間も月単位など柔軟に設定できるため、事業の成長段階に合わせてオフィスの規模を柔軟に変更できるのも大きな利点です。
もちろん、バーチャルオフィスと比較すると月額費用は高くなりますが、物理的な執務スペースが確保できるため、社会的信用度は高まります。
法人口座の開設や融資の際にも不利になることはほとんどありません。
ご自身の事業スタイルや予算、将来の展望に合わせて、最適な選択肢を検討しましょう。
| 項目 | 自宅兼事務所(賃貸) | バーチャルオフィス | レンタルオフィス | コワーキングスペース |
|---|---|---|---|---|
| 法人登記 | 大家の許可次第 | 可能 | 可能 | 可能(プランによる) |
| 初期費用 | 高い(敷金・礼金等) | 非常に安い | 安い | 非常に安い |
| 月額費用 | 家賃のみ(経費計上可) | 非常に安い(数千円〜) | 高い(数万円〜) | 安い(2万円〜) |
| 社会的信用 | 住所による | やや低い | 高い | 一般的 |
| プライバシー | 低い(自宅住所公開) | 高い | 非常に高い(個室) | 低い(共有空間) |
| 許認可業種 | 対応可 | 一部不可 | 対応可 | 対応可 |
まとめ
賃貸物件での法人登記は法律上可能であり、コストを抑えて起業する有効な手段です。
しかし、最も重要な結論は「必ず事前に大家さんや管理会社の許可を得る」ことです。
無断での登記は契約違反となり、退去につながる重大なリスクを伴います。事前に真摯に相談し、必要に応じて使用承諾書を取得しましょう。
万が一許可が得られない場合でも、バーチャルオフィスといった代替案があります。
本記事で解説した流れと注意点を踏まえ、トラブルを避けてスムーズな法人設立を実現してください。