売上1000万円超えそう!個人事業主が次にやるべき3つのステップ【税金・法人化】

個人事業主として売上1000万円超えが見えてきたら、消費税の納税義務発生や法人化検討など、重要な転換期です。

この記事では、税金面の変化、インボイス制度対応、法人化の判断基準から節税策まで、次に取るべき3つのステップを具体的に解説。

事業の不安を解消し、さらなる成長への道筋を明らかにします。

個人事業主として事業を順調に拡大させ、年間売上が1000万円に近づいてくると、大きな達成感とともに「これから何がどう変わるのだろう?」という期待と少しの不安が入り混じるのではないでしょうか。

売上1000万円という数字は、個人事業主にとって税金面や事業運営において非常に重要な転換点となるラインです。

しかし、ご安心ください。

事前に変更点を正確に理解し、適切な準備を行うことで、これらの変化にスムーズに対応し、さらなる事業成長へと繋げることが可能です。
この最初の章では、売上が1000万円を超えると具体的にどのような変化が訪れるのか、その全体像をしっかりと把握していきましょう。

個人事業主にとっての売上1000万円のライン

個人事業主の売上が1000万円を超えるということは、単に収入が増えるというだけでなく、法制度上、いくつかの無視できない重要な変化が生じることを意味します。
特に経営に大きな影響を与える主なポイントは以下の通りです。

まず最も大きな変化として挙げられるのが、消費税の納税義務が発生する可能性です。

具体的には、基準期間(通常は前々年)の課税売上高が1000万円を超えた場合、または特定期間(前年の1月1日から6月30日まで)の課税売上高と給与支払額のいずれもが1000万円を超えた場合に、原則として課税事業者となり、消費税の申告・納付が必要になります。
これは資金繰り計画や商品・サービスの価格設定にも直接関わってくるため、極めて重要な変更点と言えるでしょう。

次に、所得の増加に伴い、所得税や住民税、そして個人事業税の負担が増加することが一般的です。

日本の所得税は累進課税制度を採用しているため、所得が増えれば増えるほど税率も高くなります。

これまで以上に、経費の適切な計上や各種控除の活用など、計画的な節税対策が手元資金を確保する上で重要性を増してきます。

そして、事業規模の拡大を示すこの売上ラインは、法人化(法人成り)を具体的に検討し始める一つの目安ともなります。

売上が1000万円を超え、さらに利益も一定額以上になってくると、個人事業主のまま事業を継続するよりも、株式会社や合同会社といった法人形態にした方が、税負担の軽減や社会的信用の向上、資金調達の円滑化といった面で有利になるケースが出てきます。

どのタイミングで法人化するのが最適か、慎重な検討が必要になります。

これらの変化は、事業が成長している証であり、避けては通れない道です。

漠然とした不安を抱えたままにするのではなく、具体的に「何が」「どのように」変わるのかを正しく理解することが、次のステージへスムーズに進むための確かな第一歩となります。

この記事であなたが次にやるべきことがわかる

「売上が1000万円を超えそうだけど、具体的に何をいつまでに準備すればいいの?」「消費税の手続きって複雑そうで不安…」「法人化を考え始めたけれど、メリットとデメリットをしっかり比較したい」といった疑問や悩みを抱えている個人事業主の方も多いことでしょう。

この記事では、そのような皆さまが直面するであろう課題に対し、売上1000万円の節目を円滑に乗り越え、さらに事業を発展させていくために次に何をすべきかを、具体的な3つのステップに分けて詳細に解説していきます。

読み進めていただくことで、以下の点が明確になります。

  1. ステップ1:消費税の納税義務発生とインボイス制度への対応
    売上1000万円超で避けて通れない消費税について、いつから課税事業者になるのか、必要な手続きは何か、そして2023年10月から始まったインボイス制度(適格請求書等保存方式)に個人事業主としてどう対応すべきかを、基礎から分かりやすくご説明します。
  2. ステップ2:法人化を検討すべきタイミングと判断基準
    「売上1000万円超え=即法人化」というわけではありません。法人化することのメリット(税金、社会的信用、資金調達など)とデメリット(設立費用、事務負担増など)を多角的に比較検討し、ご自身の事業状況や将来展望に照らし合わせて、最適なタイミングと判断基準を見極めるお手伝いをします。
  3. ステップ3:事業継続と成長のための具体的なアクション
    売上が1000万円を超えた後も活用できる節税対策(小規模企業共済や経営セーフティ共済など)や、事業の安定とさらなる成長に不可欠な資金繰り改善策、日本政策金融公庫などを活用した資金調達の方法、そして不安を解消し適切なアドバイスを得るための税理士など専門家への相談のポイントについて、具体的な行動指針を提示します。

この記事を通じて、目前に迫る変化への具体的な対策と取るべき行動が明確になり、自信を持って事業運営に取り組めるようになることを目指しています。

さあ、一緒に次のステージへ進むための準備を始めましょう。

売上が1000万円を超えそうになると、個人事業主にとって最も大きな変化の一つが消費税の取り扱いです。

これまで免税事業者であった方も、課税事業者となり消費税を納める義務が生じる可能性があります。
また、2023年10月から始まったインボイス制度への対応も不可欠です。
このステップでは、消費税の基本からインボイス制度、そして他の税金への影響まで、具体的に何をすべきかを詳しく解説します。

売上1000万円を超えると消費税納税が必須に

個人事業主の売上が1000万円を超えると、原則としてその2年後から消費税の課税事業者となり、消費税の申告と納税が必要になります。

具体的にいつから課税事業者になるのか、どのような手続きが必要なのかを正確に把握しましょう。

課税事業者になるタイミングと手続き

消費税の納税義務が発生する主なタイミングは、基準期間または特定期間の課税売上高が1000万円を超えた場合です。

それぞれの期間と条件を理解しておくことが重要です。

判定期間内容条件課税事業者になるタイミング
基準期間前々年の1月1日から12月31日までの期間課税売上高が1000万円を超える翌々課税期間から(例:2023年の売上が1000万円超なら2025年から)
特定期間前年の1月1日から6月30日までの期間課税売上高と給与等支払額の合計が1000万円を超える翌課税期間から(例:2024年上半期の売上と給与支払額が1000万円超なら2025年から)

上記のいずれかに該当した場合、「消費税課税事業者届出書」を所轄の税務署に速やかに提出する必要があります。

基準期間による判定の場合は、課税期間の初日の前日までに提出します。

特定期間による判定の場合は、事由が生じた場合に速やかに提出します。
また、インボイス制度の開始に伴い、適格請求書発行事業者として登録申請を行うことで、売上1000万円以下でも任意で課税事業者になることも可能です。

免税事業者との違いを再確認

これまで消費税の納税義務がなかった免税事業者と、新たに納税義務が生じる課税事業者では、税金の取り扱いだけでなく、経理処理や取引先との関係にも違いが出てきます。
その違いを改めて確認しましょう。

項目免税事業者課税事業者
消費税の納税義務なしあり
消費税の申告不要必要
適格請求書(インボイス)の発行不可(登録すれば可能だが、その場合は課税事業者になる)可能(要登録)
仕入税額控除買手側は原則不可(経過措置あり)買手側は適格請求書の保存により可能
経理処理比較的簡易消費税の区分経理など複雑化

課税事業者になることで、消費税の納税負担や事務作業の増加というデメリットがある一方、適格請求書を発行できることで、課税事業者である取引先が仕入税額控除を受けられるため、取引の継続や新規開拓において有利に働く場合があります。
特に企業間取引(BtoB)がメインの場合は、適格請求書発行事業者であることが求められるケースが多くなります。

インボイス制度の基本と個人事業主の準備

2023年10月1日から開始されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)は、消費税の仕入税額控除の仕組みに関する大きな変更点です。

売上が1000万円を超えて課税事業者になる個人事業主は、このインボイス制度への対応が必須となります。

インボイス制度の基本は、「適格請求書(インボイス)」と呼ばれる定められた記載事項を満たした請求書等を売り手が発行し、買い手がそれを保存することで仕入税額控除が適用されるというものです。

適格請求書を発行するためには、税務署に申請して「適格請求書発行事業者」としての登録を受ける必要があります。

登録を受けると登録番号が通知され、この番号を請求書に記載します。

個人事業主がインボイス制度に対応するために準備すべきことは以下の通りです。

  • 適格請求書発行事業者の登録申請: 売上が1000万円を超えて課税事業者になる場合は、原則として登録が必要です。登録申請はe-Taxでも可能です。
  • 請求書等の様式変更: 適格請求書の記載要件(登録番号、適用税率、税率ごとの消費税額等)を満たすように、請求書や領収書のフォーマットを見直します。会計ソフトや請求書発行システムを利用している場合は、インボイス制度対応版へのアップデートや設定変更が必要です。
  • 会計処理の見直し: 消費税の経理処理(税抜経理または税込経理)や、受け取った適格請求書の保存方法などを確認します。
  • 取引先への周知: 自身が適格請求書発行事業者になったこと、登録番号などを取引先に通知する必要がある場合があります。

免税事業者のままでいる選択肢もありますが、取引先が課税事業者である場合、仕入税額控除ができないため取引が見直される可能性も考慮に入れる必要があります。

ご自身の事業内容や取引先の状況を踏まえて、慎重に判断しましょう。

所得税や住民税 個人事業税への影響も確認

売上1000万円を超えて消費税の課税事業者になると、消費税の申告・納税が必要になりますが、この消費税の取り扱いが所得税、住民税、個人事業税の計算に間接的な影響を与えることがあります。

まず、消費税の会計処理方法には「税抜経理方式」と「税込経理方式」の2種類があります。

  1. 税抜経理方式: 売上や仕入にかかる消費税額を仮受消費税、仮払消費税として区分して経理処理する方法です。所得計算上、消費税額は収益にも費用にも計上されません。
  2. 税込経理方式: 消費税額を売上金額や仕入金額に含めて経理処理する方法です。この場合、納付する消費税額は租税公課として必要経費に算入できます。

どちらの方式を選択するかによって、所得金額の計算が若干異なる場合がありますが、最終的に納付する消費税額は、所得税や住民税、個人事業税の計算上、必要経費として算入されます(税込経理方式の場合は租税公課として、税抜経理方式の場合は未払消費税等の精算時に事業主負担分が経費となるなど、処理方法により異なりますが、結果的に経費扱いとなります)。

したがって、消費税を納めること自体が、他の税金の負担を直接的に大きく増やすわけではありません。
しかし、経理処理が複雑になることや、資金繰りに影響が出る可能性は考慮しておく必要があります。

どの経理方式を選択するかは、ご自身の事業規模や経理能力、税理士との相談などを踏まえて決定しましょう。

一般的には、消費税の仕組みを正確に把握し、経営状況をより明確にするためには税抜経理方式が推奨されることが多いです。

個人事業税についても、所得税の事業所得(または不動産所得)を基に計算されるため、消費税の納税額が必要経費として考慮される点は同様です。

売上が1000万円を超えそうになると、多くの個人事業主の方が次に意識するのが「法人化(法人成り)」です。
しかし、法人化はメリットばかりではありません。どのタイミングで、何を基準に判断すればよいのでしょうか。

このステップでは、法人化を検討する上で知っておくべきメリット・デメリット、そして具体的な判断基準について詳しく解説します。

売上1000万円超えは法人化の一つの目安

売上1000万円というラインは、消費税の納税義務が発生するタイミングであるため、事業のステージが変わる一つの大きな節目です。
このタイミングで、事業のさらなる成長や節税効果を期待して法人化を検討するケースが多く見られます。
ただし、売上高だけでなく、利益額(所得額)や今後の事業展開、対外的な信用度など、多角的な視点から検討することが重要です。

単に「売上が1000万円を超えたから法人化」と短絡的に考えるのではなく、ご自身の事業の状況や将来のビジョンと照らし合わせて判断しましょう。

法人化のメリット 税金 社会的信用 資金調達

法人化には、個人事業主のままでは得られない様々なメリットがあります。

ここでは主なメリットを「税金」「社会的信用」「資金調達」の3つの観点から見ていきましょう。

法人税率と所得税率の比較

個人事業主の所得税は、所得が増えるほど税率が高くなる「累進課税制度」が採用されています。
一方、法人税はある一定の所得金額までは低い税率が適用され、それを超えると一定の税率となります。
そのため、事業で得られる所得(利益)が一定額を超えると、個人事業主として所得税を納めるよりも、法人化して法人税を納める方が税負担を軽減できる可能性があります。

具体的には、課税所得が900万円を超えてくると、法人化した方が税率上有利になるケースが多いと言われています。
また、経営者自身への給与は「役員報酬」として経費計上でき、役員報酬には給与所得控除が適用されるため、所得を分散させることによる節税効果も期待できます。

所得金額(目安)個人事業主の税率(所得税+住民税+事業税の概算)法人の実効税率(法人税+地方法人税+法人住民税+事業税の概算)
~330万円約15%~約22%~25%(中小企業の場合、所得800万円以下の部分)
330万円~695万円約20%~30%
695万円~900万円約33%~43%約30%~34%(中小企業の場合、所得800万円超の部分)
900万円~1800万円約43%~50%

※上記はあくまで目安であり、各種控除や事業内容、自治体によって税率は変動します。
正確なシミュレーションは税理士にご相談ください。

社会保険加入のメリットとデメリット

法人化すると、社長一人であっても原則として社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が義務付けられます。
これは個人事業主時代の国民健康保険・国民年金とは異なる制度です。

社会保険加入の大きなメリットは、保障内容の手厚さです。
例えば、厚生年金に加入することで将来受け取れる年金額が国民年金のみの場合よりも手厚くなります。
また、健康保険には、病気やケガで働けなくなった場合に支給される「傷病手当金」や、出産時に支給される「出産手当金」といった制度があります。

一方で、デメリットとしては、保険料の負担が増加する点が挙げられます。
社会保険料は会社と個人が折半して負担しますが、個人事業主時代の国民健康保険料・国民年金保険料の全額自己負担額と比較して、総支払額が高くなるケースが一般的です。

項目個人事業主(国民健康保険・国民年金)法人(健康保険・厚生年金)
保険料負担全額自己負担会社と役員(従業員)で折半
扶養の考え方扶養家族の人数によって保険料が増加する場合がある(国民健康保険)被扶養者の保険料は追加負担なし(健康保険)
年金制度国民年金(基礎年金)国民年金(基礎年金)+厚生年金(報酬比例)
傷病手当金原則なし(一部自治体や組合国保で独自の制度がある場合も)あり(連続4日以上の休業で支給)
出産手当金なしあり(産前産後休業中に支給)

金融機関からの融資や取引先の拡大

法人格を持つことは、社会的な信用度を高める効果があります。
個人事業主と比較して、法人は会計処理の透明性が高いと見なされやすく、事業の継続性も期待されるため、金融機関からの融資審査において有利に働くことがあります。
特に、日本政策金融公庫などの公的融資や銀行からのプロパー融資を検討する際には、法人格がプラスに評価される傾向があります。

また、取引先の観点からもメリットがあります。大企業の中には、コンプライアンスや与信管理の観点から、取引相手を法人のみに限定している場合があります。
法人化することで、これまで取引が難しかった企業との新たなビジネスチャンスが生まれる可能性があります。
求人活動においても、法人である方が応募者からの信頼を得やすく、優秀な人材を確保しやすくなるという側面もあります。

法人化のデメリット 設立費用 事務負担増

メリットの多い法人化ですが、当然ながらデメリットも存在します。

特に設立時のコストや、設立後の事務負担の増加は無視できません。

会社設立手続きの流れと費用

法人を設立するには、定款の作成・認証(株式会社の場合)、登記申請といった法的な手続きが必要です。
これらの手続きは煩雑で、専門知識も求められるため、司法書士などの専門家に依頼するのが一般的です。

会社設立には、法定費用として登録免許税や定款認証手数料などがかかります。

設立する会社形態(株式会社か合同会社かなど)によって費用は異なります。

  • 株式会社の設立費用目安: 約20万円~25万円(電子定款を利用しない場合は収入印紙代4万円が追加)
    • 定款認証手数料:約3万円~5万円
    • 登録免許税:最低15万円(資本金の額×0.7%、15万円に満たない場合は15万円)
  • 合同会社の設立費用目安: 約6万円~10万円(電子定款を利用しない場合は収入印紙代4万円が追加)
    • 定款認証手数料:不要
    • 登録免許税:最低6万円(資本金の額×0.7%、6万円に満たない場合は6万円)

これに加えて、司法書士への依頼報酬が発生します。
また、会社の実印作成費用なども必要です。

会計処理や税務申告の複雑化

法人になると、会計処理や税務申告のルールが個人事業主の時よりも格段に複雑化します。
個人事業主の青色申告(65万円控除)でも複式簿記による記帳が必要でしたが、法人の会計はより厳格なルールに基づいて行わなければなりません。
勘定科目も増え、株主資本等変動計算書やキャッシュフロー計算書(上場企業等)といった書類の作成も求められる場合があります。

税務申告についても、法人税申告書は所得税の確定申告書よりも複雑で、専門知識なしに作成するのは困難です。
そのため、ほとんどの法人が税理士と顧問契約を結び、会計帳簿のチェックや決算・申告業務を依頼しています。
これにより、税理士への顧問料という新たなコストが発生します。

さらに、社会保険の手続き、役員変更や本店移転時の登記手続き、株主総会の開催(株式会社の場合)など、個人事業主の時にはなかった事務作業も増えることになります。

個人事業主のままか法人成りか 徹底比較

ここまで法人化のメリット・デメリットを解説してきましたが、最終的にどちらを選択すべきかは、個々の事業状況や将来の目標によって異なります。

以下の比較表を参考に、ご自身の状況を客観的に評価し、慎重に判断しましょう。

比較項目個人事業主法人
税金(所得が多い場合)累進課税のため、所得が増えると税率が非常に高くなる可能性所得税より税率上昇が緩やかで、一定所得を超えると有利になる可能性。役員報酬で所得分散も可能。
社会的信用法人に比べると相対的に低いと見なされる場合がある高い。金融機関や取引先からの信用を得やすい。
資金調達融資の選択肢や金額が限定的になる場合がある融資を受けやすく、多様な資金調達手段を検討しやすい。
経費の範囲家事按分など、事業と私用の区別が曖昧になりやすい部分も。生命保険料控除は所得控除。役員報酬、退職金、社宅などが経費として認められやすい。役員向けの生命保険料を損金算入できる場合がある。
赤字の繰越青色申告で3年間青色申告法人で10年間
社会保険国民健康保険・国民年金に加入(一部業種は組合国保も)健康保険・厚生年金に加入義務あり(保障は手厚いが保険料負担増の場合も)
設立・維持コスト開業届提出のみで費用はほぼかからない。維持コストも比較的低い。設立費用(数万円~数十万円)。法人住民税の均等割(赤字でも最低約7万円/年)など維持コストもかかる。税理士費用も考慮。
事務負担比較的少ない。確定申告も自身で行う人が多い。会計処理、税務申告、社会保険手続き、登記など事務作業が大幅に増加。専門家への依頼が一般的。
事業承継個人の資産として相続。事業用資産の承継が複雑になる場合も。株式の譲渡や相続により比較的スムーズに事業承継が可能。
廃業の手続き比較的容易。廃業届などを提出。解散・清算手続きが必要で、時間と費用がかかる。

法人化を検討する際には、短期的な節税効果だけでなく、事業の将来性、資金調達の必要性、事務負担の許容度などを総合的に考慮する必要があります。
特に、所得がまだそれほど多くない場合や、事務作業に手間をかけたくない場合は、個人事業主のまま事業を継続する方がメリットが大きいこともあります。

最終的な判断に迷う場合は、税理士などの専門家に相談し、ご自身の事業に最適な選択肢は何か、具体的なシミュレーションを交えながらアドバイスを受けることを強くおすすめします。

売上が1000万円を超え、消費税の納税義務が発生したり、法人化を検討したりする段階は、事業が新たなステージに進んだ証です。
しかし、それに伴い税務処理の複雑化や資金繰りの課題も生じやすくなります。

ここでは、事業を安定的に継続させ、さらなる成長を目指すために個人事業主が取り組むべき具体的なアクションを3つのポイントに分けて解説します。

売上1000万円超えでもできる節税対策

売上が増加すると所得税や住民税、個人事業税の負担も増えますが、個人事業主が活用できる節税対策は依然として重要です。

賢く制度を利用し、手元に残る資金を最大化しましょう。

小規模企業共済や経営セーフティ共済の活用

個人事業主にとって代表的な節税策として、小規模企業共済と経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)の活用が挙げられます。
これらは将来への備えと節税を両立できる有効な手段です。

小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の役員が事業をやめたり退職したりした場合に、生活の安定や事業の再建を図るための資金をあらかじめ準備しておく共済制度です。
掛金が全額所得控除の対象となるため、高い節税効果が期待できます
月々の掛金は1,000円から70,000円までの範囲(500円単位)で自由に設定でき、納付した掛金の合計額に応じて共済金が受け取れます。

経営セーフティ共済は、取引先事業者が倒産した場合に、中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度です。
加入後6ヶ月以上経過して取引先が倒産した場合、無担保・無保証人で掛金の最高10倍(上限8,000万円)まで借入れが可能です。
掛金は月額5,000円から20万円までの範囲で自由に選べ、総額800万円まで積み立てることができ、支払った掛金は事業に必要な経費として算入できます

これらの制度の特徴を比較してみましょう。

制度名目的掛金の税務上の取り扱い主なメリット運営主体
小規模企業共済事業主の退職金・年金準備全額所得控除高い節税効果、将来の生活資金確保、掛金範囲内での貸付制度あり独立行政法人 中小企業基盤整備機構(中小機構)
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)取引先の倒産に備える連鎖倒産防止必要経費に算入(法人税法上の損金または所得税法上の必要経費)不測の事態への備え、無担保・無保証人での借入、節税効果独立行政法人 中小企業基盤整備機構(中小機構)

どちらの制度も節税効果がありますが、目的や条件が異なります。
ご自身の事業状況や将来設計に合わせて、両制度の活用またはどちらか一方の活用を検討しましょう。
加入資格や詳細な条件については、中小機構のウェブサイト等で確認するか、専門家にご相談ください。

経費の見直しと適切な計上

節税の基本は、事業活動にかかった費用を漏れなく経費として計上することです。
売上が1000万円を超えてくると、取引量も増え、経費の種類や金額も多様化する傾向にあります。
改めて経費管理の体制を見直し、計上漏れがないか、また不必要な支出がないかを確認しましょう。

特に見直すべきポイントは以下の通りです。

  • 家事按分できる経費の確認:自宅兼事務所の場合、家賃、水道光熱費、通信費、車両関連費など、事業で使用している割合に応じて経費計上が可能です。客観的に説明できる合理的な基準で按分することが重要です。
  • 消耗品費と減価償却資産の区別:取得価額が10万円未満のものは消耗品費として一括で経費計上できます。10万円以上20万円未満の減価償却資産については、一定の要件のもとで3年間で均等償却できる一括償却資産の特例があります。また、青色申告者であれば、30万円未満の減価償却資産を年間合計300万円まで一括で経費計上できる少額減価償却資産の特例も活用できます。
  • 接待交際費の管理:事業に関連する飲食代や贈答品などは接待交際費として計上できますが、誰と、何のために支出したのかを記録しておくことが大切です。私的な支出と混同されないよう注意しましょう。
  • 青色申告特別控除の最大活用:青色申告を行っている場合、正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)で記帳し、期限内に確定申告書とともに貸借対照表と損益計算書を提出し、さらにe-Taxによる申告または電子帳簿保存を行うことで、最大65万円の所得控除が受けられます。これらの要件を満たさない場合でも55万円または10万円の控除が適用される場合がありますので、ご自身の状況に合わせて最大限活用しましょう。

経費の適切な計上は、税務調査の際にも重要なポイントとなります。

日頃から領収書や請求書などの証拠書類を整理・保存し、正確な帳簿付けを心がけることが、結果として節税に繋がります。

資金繰り改善と資金調達の準備

事業が成長し売上が増加すると、仕入れ資金や運転資金も増加する傾向にあります。

安定した事業運営のためには、日々の資金繰り管理と、必要に応じた資金調達手段の確保が不可欠です。

売上1000万円超えは、資金調達の選択肢が広がるタイミングでもあります。

日本政策金融公庫などの融資制度

個人事業主や小規模事業者が利用しやすい代表的な融資制度として、日本政策金融公庫(JFC)の融資があります。
日本政策金融公庫は、民間金融機関の取り組みを補完し、中小企業・小規模事業者への事業資金融資を積極的に行っている政府系金融機関です。

日本政策金融公庫の主な融資制度には、以下のようなものがあります。

  • 一般貸付:事業に必要な運転資金や設備資金に対応する基本的な融資制度です。
  • マル経融資(小規模事業者経営改善資金融資):商工会議所や商工会などの経営指導を受けている小規模事業者に対し、経営改善に必要な資金を無担保・無保証人で融資する制度です。
  • 新規開業資金:新たに事業を始める方や事業開始後おおむね7年以内の方を対象とした融資制度です。
  • 挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン):財務体質強化を図りたいベンチャー企業や新事業展開に取り組む企業向けの、返済の負担が軽減された資本性の高いローンです。

これらの融資制度は、比較的低金利で、返済期間も長期に設定できる場合が多いというメリットがあります。
また、民間金融機関では融資が難しいケースでも、事業計画の将来性や事業主の熱意などを総合的に判断して融資が実行されることもあります。

融資を検討する際は、事業計画書をしっかりと作成し、窓口で相談してみましょう。

その他、地方自治体が設けている制度融資や、信用保証協会の保証付き融資なども選択肢となります。

制度融資は、自治体が利子の一部を補助したり、保証料を補助したりすることで、事業者が有利な条件で融資を受けられるようにするものです。

お住まいの都道府県や市区町村の情報を確認してみましょう。

補助金 助成金の最新情報をチェック

事業の成長を後押しする資金調達手段として、国や地方自治体が提供する補助金や助成金の活用も有効です。
これらは原則として返済不要の資金であり、うまく活用できれば事業の大きな助けとなります。

補助金と助成金は混同されやすいですが、一般的に以下のような違いがあります。

  • 補助金:国や自治体の政策目標(例:地域振興、IT化推進、販路開拓支援など)に合わせて、事業者の取り組みを支援するために経費の一部を補助するものです。公募期間が定められており、申請後に審査を経て採択される必要があります。競争率が高いものも少なくありません。
  • 助成金:主に厚生労働省が管轄し、雇用維持や労働環境改善、人材育成など、一定の要件を満たせば受給できる可能性が高いものです。

代表的な補助金・助成金には以下のようなものがあります。(制度内容は変更されることがあるため、常に最新情報を確認してください。)

  • 小規模事業者持続化補助金:小規模事業者が行う販路開拓や生産性向上の取り組みを支援する補助金です。チラシ作成、ウェブサイト改修、店舗改装などに活用できます。
  • IT導入補助金:中小企業・小規模事業者がITツール(会計ソフト、受発注システム、決済システムなど)を導入する際の経費の一部を補助するものです。
  • ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(ものづくり補助金):革新的な製品・サービス開発や生産プロセスの改善に必要な設備投資などを支援する補助金です。
  • キャリアアップ助成金:有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者といった非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化、処遇改善の取組を実施した事業主に対して助成されます。

これらの情報は、以下のウェブサイトなどで収集できます。

  • 中小企業庁「ミラサポplus」:補助金・助成金情報や経営に役立つ情報を提供。
  • J-Net21(中小機構):支援情報ヘッドラインで全国の補助金・助成金情報を検索可能。
  • 各省庁のウェブサイト(経済産業省、厚生労働省など)
  • 都道府県や市区町村のウェブサイト
  • 商工会議所・商工会

補助金や助成金の申請には、事業計画書の作成や複雑な手続きが必要となる場合が多いため、公募要領をよく読み込み、不明な点は問い合わせ窓口や専門家に相談しながら進めることをお勧めします。

税理士など専門家への相談で不安解消

売上が1000万円を超えると、消費税の申告義務が発生し、会計処理や税務申告が複雑になります。
また、法人化を検討する際には、税務・法務・労務など多岐にわたる知識が必要となります。

このような複雑な課題に一人で対応するのは時間的にも精神的にも大きな負担となるため、税理士をはじめとする専門家のサポートを受けることを積極的に検討しましょう。

税理士に相談する主なメリットは以下の通りです。

  • 正確な税務申告と節税アドバイス:消費税の申告はもちろん、所得税や法人税(法人化した場合)の適切な申告をサポートしてくれます。また、個々の事業状況に合わせた最適な節税策を提案してくれます。
  • 記帳代行や経理業務の効率化:日々の記帳業務を委託することで、事業主は本業に専念できます。クラウド会計ソフトの導入支援など、経理業務全体の効率化に関するアドバイスも期待できます。
  • 経営分析や資金繰りに関するアドバイス:試算表や決算書をもとに、経営状況の分析や課題の抽出、改善策の提案をしてくれることがあります。資金繰り表の作成支援や融資相談に乗ってくれる税理士もいます。
  • 税務調査への対応:万が一、税務調査が入った場合でも、専門家として立ち会い、適切に対応してくれます。
  • 法人化シミュレーション:個人事業主のまま事業を継続する場合と法人化した場合の税負担や社会保険料負担などを具体的に比較し、最適なタイミングや形態についてアドバイスを受けられます。

税理士を選ぶ際には、以下の点を考慮すると良いでしょう。

  • 個人事業主や小規模事業者のサポート実績が豊富か
  • 自分の業種に対する理解があるか
  • コミュニケーションが取りやすく、相談しやすいか(相性)
  • 料金体系が明確で、事前に説明があるか
  • ITツール(クラウド会計など)の活用に積極的か

税理士以外にも、事業の状況に応じて以下のような専門家への相談も有効です。

  • 社会保険労務士:法人化に伴う社会保険の手続き、従業員の労務管理、就業規則の作成、助成金(特に雇用関連)の申請代行など。
  • 中小企業診断士:経営戦略の策定、事業計画書の作成支援、マーケティング、組織運営など、経営全般に関するコンサルティング。
  • 行政書士:法人設立手続き(定款作成、登記申請書類作成など)、許認可申請など。

売上1000万円という節目は、専門家の力を借りて事業基盤を強化し、さらなる飛躍を目指す良い機会です。

まずは無料相談などを利用して、気軽に話を聞いてみることから始めてみてはいかがでしょうか。

売上1000万円が見えてくると、個人事業主には消費税の納税義務発生やインボイス制度への対応という大きな変化が訪れます。
これは事業のステージが変わる重要なサインです。本記事で解説した通り、まずは消費税の仕組みを理解し、次に法人化のメリット・デメリットを比較検討することが肝心です。
そして、節税対策や資金繰り改善といった事業継続と成長のための具体的な行動計画を立て、必要に応じて税理士など専門家の力も借りながら、次のステップへ着実に進みましょう。

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経営サポートプラスアルファホールディングスは税理士法人や行政書士法人などを含むグループ会社経営によって、従来の会計業界の常識にとらわれることなく、クライアントの成長フェーズに合わせた幅広い事業展開を行っております。
時代の変化に伴いお客様のニーズを拾い上げ付加価値を追求してきた結果として今の体制、サービスがあります。
そしてこれからも起業家のサポーターとして「経営サポートプラスアルファ」という社名の通り、付加価値となるプラスアルファを追求していきます。