とりあえず会社を作るのは危険?起業成功のための正しい手順と注意点

起業を考え「とりあえず会社を作る」べきか悩んでいませんか?
その決断は、思わぬ落とし穴があるため危険です。

本記事では、会社設立のメリット・デメリットから、株式会社と合同会社の違い、具体的な設立手順、資金計画までを徹底解説。

結論、安易な法人化は「維持コスト」「煩雑な手続き」「柔軟性の喪失」というリスクを伴います。

後悔しないために、まずはこの記事で起業成功のポイントを掴みましょう。

「起業するなら、まずは会社設立から」と考えていませんか?

確かに、法人化には多くのメリットがありますが、明確な事業計画や収益見込みがないまま「とりあえず会社を作る」という判断は、将来の大きな足かせになりかねません。

勢いだけで会社を設立してしまうと、後戻りできない事態に陥る可能性があります。

まずは、安易な法人化に潜む3つの大きな危険性を理解することから始めましょう。

理由1:維持コストが重くのしかかる

会社は設立して終わりではありません。事業が赤字であろうと、売上がゼロであろうと、法人である限り毎年必ず発生する「維持コスト」が存在します。

個人事業主であれば利益が出なければ税金の負担はほとんどありませんが、法人はそうはいきません。
特に「法人住民税の均等割」は、会社の利益に関わらず、最低でも年間約7万円の納税義務が発生します。

その他にも、下記のようなコストが継続的にかかり、資金繰りを圧迫する大きな要因となります。

コストの種類内容と目安
法人住民税(均等割)会社の所得に関わらず課される税金。資本金や従業員数に応じて変動しますが、最低でも年間約7万円が必要です。
税理士への顧問料・決算申告料法人の会計・税務申告は複雑なため、税理士への依頼が一般的です。顧問料で月額3万円〜、決算申告料で15万円〜が相場となります。
社会保険料役員1名の会社でも社会保険への加入は義務です。役員報酬の約30%を会社と個人で折半して負担するため、大きな固定費となります。
登記関連費用役員の任期が満了すれば更新登記(役員変更登記)が必要です。本店を移転したり、事業目的を変更したりする際にも、その都度登記費用(登録免許税や司法書士報酬)が発生します。

これらの維持コストは、事業が軌道に乗るまでの期間、想像以上に重くのしかかります。

十分な運転資金の計画なしに会社を設立すると、本来事業に投下すべき資金が維持コストに消えてしまう危険性があるのです。

理由2:設立も廃業も手続きが煩雑で時間がかかる

会社の設立には、定款の作成・認証、登記書類の準備、法務局への申請など、多くの専門的な手続きが必要です。

司法書士などの専門家に依頼すればスムーズですが、その分費用がかかります。
しかし、本当に大変なのは設立時よりも「廃業」する時です。

「うまくいかなかったら、すぐにやめればいい」という考えは通用しません。

会社の廃業(解散・清算)は、設立の何倍も手続きが煩雑で、時間も費用もかかります。

具体的には、以下のようなステップを踏む必要があり、完了までには最低でも2〜3ヶ月、場合によっては1年以上かかることもあります。

  • 株主総会での解散決議
  • 解散・清算人選任の登記
  • 官報での解散公告(債権者保護手続きのため、2ヶ月以上の公告期間が必要)
  • 解散時の確定申告
  • 債権の取立てと債務の弁済
  • 残余財産の分配
  • 株主総会での決算報告承認
  • 清算結了の登記
  • 清算結了後の確定申告

これらの手続きを自分で行うのは非常に困難であり、税理士や司法書士への依頼が必須となるケースがほとんどです。
その結果、数十万円単位の費用が発生します。

事業をたたむだけでも大きなコストがかかるという事実は、会社設立前に必ず知っておくべき重要なポイントです。

理由3:事業の柔軟性が失われる可能性がある

個人事業主であれば、事業の方向転換や資金の管理は比較的自由に行えます。
しかし、法人になると法律や定款による様々な制約が生まれ、事業の柔軟性が失われる可能性があります。

まず、会社は定款で定めた「事業目的」の範囲内でしか事業を行うことができません。
もし新しいビジネスを始めたいと思っても、それが事業目的に含まれていなければ、株主総会の決議を経て、法務局で目的変更の登記手続きを行う必要があります。
この手続きには手間と費用がかかり、スピーディーな事業転換(ピボット)の足かせになることがあります。

また、お金の管理も厳格になります。

会社の資産と個人の資産は明確に区別しなければならず、社長であっても会社の資金を自由に引き出して生活費などに使うことはできません。

自分への給与は「役員報酬」として定款または株主総会で金額を決め、原則として事業年度の途中で自由に変更することはできません。

個人事業主時代のように、売上から直接経費を差し引いた残りを自由に使えるという感覚とは大きく異なるため、注意が必要です。

「とりあえず会社を作る」という考えは、時に大きな落とし穴にはまる原因となります。

会社設立は、個人事業主とは比較にならないほどのメリットをもたらす可能性がある一方で、相応のデメリットや義務も伴うからです。

ここでは、法人化を検討する上で必ず知っておくべきメリットとデメリットを、多角的な視点から徹底的に解説します。

ご自身の事業フェーズや将来の展望と照らし合わせながら、最適な選択をするための判断材料にしてください。

会社設立のメリット編

まずは、会社を設立することで得られる主なメリットを4つの側面から見ていきましょう。
これらのメリットを最大限に活かせると判断できる場合、法人化は事業の成長を加速させる強力なエンジンとなります。

社会的信用とブランドイメージの向上

会社設立の最大のメリットの一つが、社会的信用の向上です。
法人は、法務局に登記情報が公示されており、誰でもその存在を確認できます。
この公的な存在証明が、取引先や金融機関、そして顧客からの信頼につながります
特に、大企業を相手にするBtoBのビジネスでは、取引相手が法人であることが契約の前提条件となっているケースも少なくありません。
また、個人名での事業よりも「株式会社」や「合同会社」といった法人格を持つことで、事業の継続性や安定性に対する期待が高まり、優秀な人材の採用においても有利に働く傾向があります。

資金調達方法の多様化

事業を拡大していく上で、資金調達は避けて通れない課題です。
会社を設立すると、資金調達の選択肢が大幅に広がります。
個人事業主の場合、融資は主に日本政策金融公庫や制度融資に限られがちですが、法人であれば、これらの融資に加えて、株式を発行して投資家から出資を募る「エクイティ・ファイナンス」という手法が選択可能になります
ベンチャーキャピタル(VC)やエンジェル投資家からの出資は、事業の急成長を目指す上で大きな力となるでしょう。
また、金融機関からの融資(デット・ファイナンス)においても、事業と個人の資産が明確に分離されている法人の方が、事業計画の透明性が高いと評価され、より高額な融資を受けやすい傾向にあります。

節税効果と経費の範囲拡大

個人事業主の所得にかかる「所得税」は、所得が増えるほど税率が上がる累進課税です。
一方、法人の利益にかかる「法人税」は、原則として一定の税率が適用されます。
そのため、事業で得られる利益(所得)が一定額を超えた場合、個人事業主のままよりも法人を設立した方が、トータルの税負担を軽減できる可能性があります
一般的に、課税所得が800万円から900万円を超えるあたりが、法人化を検討する一つの目安とされています。
また、経費として認められる範囲が広がる点も大きなメリットです。
例えば、経営者自身に支払う給与は「役員報酬」として経費にでき、給与所得控除が適用されるため節税につながります。
その他にも、生命保険料の一部を経費にしたり、社宅制度を導入して家賃の一部を経費計上したりと、法人ならではの節税スキームを活用できます。

事業承継のしやすさ

将来的に事業を誰かに引き継ぐことを考えている場合、法人化は非常に有効です。個人事業の場合、事業主が亡くなると事業用の資産はすべて個人の相続財産となり、事業の継続が困難になることがあります。
しかし、法人の場合、会社の所有権は「株式」という形で存在します。
後継者に株式を譲渡または相続させることで、会社の資産や許認可、取引先との契約などをスムーズに引き継ぐことができます
これにより、経営者の交代による事業への影響を最小限に抑え、円滑な事業承継を実現できるのです。
M&A(企業の合併・買収)によって事業を売却する場合も、法人の方が手続きを進めやすいというメリットがあります。

会社設立のデメリット編

メリットの裏には、必ずデメリットが存在します。
特に「とりあえず」で会社を作ってしまうと、これらのデメリットが重くのしかかり、事業の足かせになりかねません。

事前にしっかりと把握し、対策を講じることが重要です。

設立費用と維持費用の発生

会社は作る時も、そして持ち続けるだけでもコストがかかります。
まず、設立時には定款の認証手数料や登録免許税といった法定費用が必要です。
これは、専門家(司法書士など)に依頼するかどうかに関わらず、必ず発生する費用です。

費用項目株式会社合同会社
定款用収入印紙代40,000円(電子定款の場合は0円)40,000円(電子定款の場合は0円)
定款認証手数料30,000円~50,000円不要
登録免許税資本金の0.7%(最低150,000円)資本金の0.7%(最低60,000円)
合計約220,000円~約60,000円~

さらに、会社を設立すると、たとえ事業が赤字であっても毎年支払わなければならない維持費用が発生します。
その代表が「法人住民税の均等割」で、資本金の額や従業員数に応じて課税され、最低でも年間約7万円の負担となります
これに加えて、後述する社会保険料の負担や、複雑な経理・税務申告を税理士に依頼するための顧問料なども必要となり、年間数十万円単位の固定費がかかることを覚悟しなければなりません。

会計処理と税務申告の複雑化

法人は、個人事業主の確定申告とは比較にならないほど、会計処理と税務申告が複雑かつ厳格になります。
個人事業主であれば簡易的な帳簿でも認められる場合がありますが、法人の場合は複式簿記による正確な帳簿作成が法律で義務付けられています
決算期には、貸借対照表や損益計算書といった複雑な決算書を作成し、法人税、法人住民税、法人事業税などの申告書を税務署や都道府県、市町村へそれぞれ提出する必要があります。
これらの書類をすべて経営者自身が作成するのは非常に困難であり、多くの場合は税理士などの専門家の力を借りることになります。
その結果、専門家への報酬という新たなコストが発生します。

社会保険への加入義務と費用負担

これは法人化における最も大きな負担の一つです。法人を設立した場合、たとえ社長一人だけの会社であっても、健康保険と厚生年金保険(総称して社会保険)への加入が法律で義務付けられています
個人事業主であれば従業員が5人未満の場合は加入が任意であるのに対し、法人は強制加入となります。
社会保険料は、役員報酬や従業員の給与額に応じて決まり、その金額を会社と本人が半分ずつ負担(労使折半)します。
特に設立当初は、この会社負担分の保険料がキャッシュフローを大きく圧迫する要因となり得ます。
「とりあえず会社を作った」ものの、社会保険料の負担の重さに驚き、事業継続が困難になるケースも少なくありません。

「とりあえず会社を作る」と考えたとき、最初にぶつかるのが「株式会社」と「合同会社」のどちらを選ぶかという問題です。

名前の響きから「なんとなく株式会社」と選んでしまうと、後で「こんなはずではなかった」と後悔するかもしれません。

両者には設立費用から経営の自由度、社会的信用に至るまで、明確な違いがあります。

あなたの事業プランや将来のビジョンに最適な会社形態を選ぶために、それぞれの特徴を徹底的に比較検討していきましょう。

設立費用で比較する

会社設立において、まず気になるのが初期費用です。
特に「とりあえず」という段階では、できるだけコストを抑えたいと考えるのが自然でしょう。

設立費用という観点では、合同会社の方が株式会社よりも大幅に安く設立できます。

具体的な費用の内訳を下の表で比較してみましょう。
これは、資本金100万円で設立する場合の一般的な法定費用です。

項目株式会社合同会社備考
定款印紙代40,000円40,000円電子定款を利用すればどちらも0円になります。
定款認証手数料30,000円~50,000円0円株式会社は公証役場での認証が必須です。
登録免許税最低150,000円最低60,000円資本金の0.7%。最低額に満たない場合は最低額を納付します。
合計(電子定款の場合)約180,000円~約60,000円~合同会社の方が12万円以上安くなります。

表から明らかなように、合同会社は株式会社に必要な「定款認証手数料」がかからず、「登録免許税」も低く設定されています。

設立時のコストを最優先に考えるのであれば、合同会社が非常に魅力的な選択肢となります。

経営の自由度と意思決定方法で比較する

会社の運営方法や意思決定のスピードは、事業の成否を左右する重要な要素です。

経営の自由度においては、株式会社と合同会社で根本的な考え方が異なります。

株式会社は「所有と経営の分離」が原則です。

会社の所有者である「株主」と、経営を行う「取締役」が別々の存在として成り立っています。

重要な意思決定は、株主が集まる「株主総会」で決議され、会社の利益は出資額(株式の保有数)に応じて株主に配当されます。

一方、合同会社は「所有と経営の一致」が原則です。出資者である「社員」がそのまま経営者となり、会社の意思決定を行います。

最大の特長は、利益の配分を定款で自由に定められる点です。
例えば、出資額が少なくても、事業への貢献度が非常に高い社員に対して多くの利益を配分するといった柔軟な対応が可能です。

比較項目株式会社合同会社
所有と経営原則として分離(所有者=株主、経営者=取締役)原則として一致(所有者=経営者=社員)
最高意思決定機関株主総会社員総会(原則として社員全員の同意)
役員の任期原則2年(最長10年まで伸長可能)。任期ごとに登記が必要。任期の定めなし。登記の更新も不要。
利益の配分出資額(株式数)に応じて配当定款で自由に決定可能(貢献度など)

個人事業主の延長線上で事業を始めたい方や、気心の知れた仲間と数人でスピーディーに事業を進めたい方、あるいは個々の貢献度を利益に反映させたいと考えている方には、経営の自由度が高い合同会社が適していると言えるでしょう。

社会的信用度と資金調達で比較する

事業を拡大していく上で、取引先や金融機関からの信用、そして資金調達のしやすさは避けて通れない問題です。

一般的に、社会的信用度という点では株式会社に軍配が上がります。株式会社は歴史が古く、その仕組みが広く認知されているため、特に大企業や金融機関との取引において有利に働くことがあります。

決算公告の義務があることも、透明性の高さから信用につながる一因です。

ただし、近年では合同会社の認知度も向上しており、Apple Japan合同会社やグーグル合同会社のように、世界的な大企業が日本法人として合同会社の形態を選択するケースも増えています。
そのため、BtoCビジネスや、取引先が会社の形態を重視しない業界であれば、合同会社でも信用面で大きなハンデになることは少なくなっています。

資金調達の方法においては、両者に決定的な違いがあります。

  • 株式会社: 株式を発行して、投資家など外部から広く出資を募ることが可能です。将来的に株式上場(IPO)を目指せるのは株式会社だけです。
  • 合同会社: 株式という概念がないため、外部から出資を受けるには、出資者に「社員」として経営に参画してもらう必要があります。そのため、資金調達は金融機関からの融資(借入)が中心となります。

将来的にベンチャーキャピタルからの出資や株式上場を視野に入れているのであれば、選択肢は株式会社一択となります。
一方で、自己資金や融資を中心に、身の丈にあった経営を考えている場合は、合同会社でも全く問題ありません。

フローチャートで簡単診断 おすすめの会社形態

ここまで様々な角度から比較してきましたが、まだ迷っている方もいるかもしれません。
そこで、あなたの考えにどちらの会社形態が合っているか、簡単なフローチャートで診断してみましょう。

「YES」か「NO」で進んでみてください。

【スタート】

  • 質問1:将来、株式上場(IPO)や、投資家からの大規模な出資を考えているか?

    • YES → あなたは「株式会社」が最適です。
      外部からの資金調達や上場を目指すなら、株式会社以外の選択肢はありません。
    • NO → 質問2へ
  • 質問2:設立時の費用は1円でも安く抑えたいか?

    • YES → 質問3へ
    • NO → 質問4へ
  • 質問3:利益の配分を、出資額ではなく事業への貢献度などで柔軟に決めたいか?

    • YES → あなたは「合同会社」が最適です。
      低コストで設立でき、経営の自由度が高い合同会社は、あなたのスタイルに合っている可能性が高いでしょう。
    • NO → 質問4へ
  • 質問4:取引先や顧客に対して、会社の「知名度」や「形式的な信用度」を重視するか?

    • YES → あなたは「株式会社」がおすすめです。
      初期費用はかかりますが、対外的な信用を重視するなら株式会社を選ぶメリットは大きいでしょう。
    • NO → あなたは「合同会社」がおすすめです。
      対外的な信用よりも、コストや経営の柔軟性を重視するあなたには合同会社がフィットします。

この診断はあくまで一つの目安です。

あなたの事業内容や将来の展望をじっくりと考え、最適なパートナーとなる会社形態を選びましょう。

「とりあえず会社を作る」という考えから一歩進み、具体的な設立準備を始めるなら、正しい手順を理解することが不可欠です。

会社設立は、思い立ってすぐに完了するものではなく、いくつかの法的なステップを順番に踏んでいく必要があります。

この章では、会社の構想から設立後の手続きまで、全体像を5つのステップに分け、時系列で分かりやすく解説します。
この手順通りに進めれば、誰でもスムーズに会社を設立できますので、ぜひ参考にしてください。

ステップ1:会社の基本事項の決定

会社設立の第一歩は、会社の骨格となる基本事項を決めることです。
これらは後の「定款」に記載する非常に重要な項目であり、事業の方向性を決定づけます。
ここで時間をかけて慎重に検討することが、後のスムーズな経営に繋がります。

商号 本店所在地 事業目的 資本金などを決める

会社の基本事項として、最低限以下の項目を決定する必要があります。

決定事項決定する内容と注意点
商号(会社名)会社の顔となる名前です。使える文字(ひらがな、カタカナ、漢字、ローマ字、アラビア数字など)にはルールがあります。また、同一の本店所在地に同一の商号は登記できません。法務局のオンラインサービスで類似商号がないか事前に調査しましょう。
本店所在地会社の住所です。自宅、賃貸オフィス、レンタルオフィス、バーチャルオフィスなどから選択します。賃貸物件の場合は、規約で法人登記が可能か必ず確認してください。
事業目的その会社がどのような事業を行うのかを具体的に記載します。適法性・営利性・明確性が求められ、将来的に行う可能性のある事業も記載しておくと、後々の定款変更の手間が省けます。許認可が必要な事業は、目的の記載方法に指定がある場合があるので注意が必要です。
資本金事業の元手となる資金です。法律上は1円から設立可能ですが、資本金の額は会社の信用度や体力に直結します。初期費用や当面の運転資金(最低3ヶ月〜半年分)を基準に設定する’strong>のが一般的です。
発起人・役員会社を設立する人(発起人)と、設立後の会社の経営を行う人(役員)を決めます。1人でも株式会社・合同会社ともに設立可能です。
事業年度会社の会計期間(決算期)を決めます。決算月の2ヶ月後が法人税の申告・納付期限となるため、繁忙期を避けて設定するのがおすすめです。日本の多くの企業は3月決算ですが、自由に決めることができます。

ステップ2:定款の作成と認証

会社の基本事項が決まったら、次はその内容を「定款(ていかん)」という書類にまとめます。

定款は「会社の憲法」とも呼ばれる最も重要な規則であり、会社の運営ルールを定めたものです。

株式会社の場合は公証役場での認証が必須

定款には、必ず記載しなければならない「絶対的記載事項」、記載しないと効力が生じない「相対的記載事項」、任意で定められる「任意的記載事項」があります。
作成した定款は、株式会社の場合、本店所在地を管轄する公証役場で「認証」を受ける必要があります。
これは、定款が正当な手続きによって作成されたことを公的に証明してもらう手続きです。

認証には以下のものが必要です。

  • 作成した定款:3通
  • 収入印紙:4万円(ただし、電子定款で作成すれば収入印紙は不要になります)
  • 認証手数料:約5万円
  • 発起人全員の印鑑証明書

なお、合同会社の場合は定款の作成は必要ですが、公証役場での認証は不要です。
そのため、設立費用を抑えることができます。

ステップ3:資本金の払込み

定款の作成(株式会社の場合は認証)が終わったら、次に資本金を払い込みます。
この時点ではまだ会社の銀行口座(法人口座)は開設できないため、手続きには少し注意が必要です。

発起人個人の銀行口座に払い込む

資本金の払込みは、発起人の代表者個人の銀行口座に対して行います。
各発起人が、自身が引き受ける出資額をその口座に振り込みます。
発起人が1人の場合は、自分の個人口座に資本金を入金すれば問題ありません。
この時、通帳に誰がいくら振り込んだかが明確に記録されるようにすることが重要です。
入金後、その通帳のコピーと「払込証明書」という書類を作成し、後の登記申請で提出します。

【払込証明書作成に必要なもの】

  • 払込証明書(作成する書類)
  • 振込が記帳された通帳のコピー(表紙、1ページ目(支店名や口座番号が記載されたページ)、該当の振込履歴が記載されたページ)

ステップ4:登記書類の作成と法務局への申請

いよいよ会社設立の最終段階、法務局への登記申請です。
この登記申請手続きが完了して初めて、法的に会社が成立します。

申請には多くの書類が必要となるため、漏れなく準備しましょう。

申請日が会社の設立日になる

登記申請は、本店所在地を管轄する法務局で行います。
申請方法は、窓口持参、郵送、オンライン申請(G-BizIDを利用)のいずれかを選択できます。
法務局が登記申請書を受理した日、つまり「申請日」が会社の設立日となります。
記念日などに設立日を合わせたい場合は、その日に申請できるように逆算して準備を進める必要があります。

登記申請には、主に以下の書類が必要です。

必要書類(株式会社の例)概要
登記申請書会社の基本情報を記載するメインの申請書類。
登録免許税納付用台紙登録免許税(株式会社は最低15万円、合同会社は最低6万円)分の収入印紙を貼付する台紙。
定款公証役場で認証済みのもの。
発起人の決定書本店所在地などを発起人の同意で決定したことを証明する書類。
役員の就任承諾書取締役に就任することを承諾した旨を記載した書類。
印鑑証明書取締役全員の印鑑証明書が必要。
払込証明書ステップ3で作成した資本金の払込みを証明する書類。
印鑑届書会社の実印(代表者印)を法務局に登録するための書類。

書類に不備がなければ、申請から約1週間〜10日ほどで登記が完了します。

ステップ5:会社設立後の各種届出

法務局での登記が完了しても、まだ終わりではありません。

事業を開始するためには、税務署や年金事務所など、さまざまな行政機関への届出が必要です。
これらの手続きを怠ると、ペナルティが課されたり、税制上の優遇措置が受けられなくなったりする可能性があるため、迅速に行いましょう。

税務署や年金事務所への届出を忘れずに

会社設立後は、主に以下の届出が必要となります。
提出先や期限がそれぞれ異なるため、リストアップして計画的に進めることが重要です。

提出先主な届出書類提出期限の目安
税務署・法人設立届出書
・青色申告の承認申請書
・給与支払事務所等の開設届出書
・源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
設立後2ヶ月以内(青色申告は3ヶ月以内または事業年度終了日のいずれか早い日)
都道府県税事務所・市町村役場・法人設立届出書設立後1ヶ月〜2ヶ月以内(自治体により異なる)
年金事務所・健康保険・厚生年金保険新規適用届
・被保険者資格取得届
設立から5日以内
ハローワーク(公共職業安定所)・雇用保険適用事業所設置届
・雇用保険被保険者資格取得届
従業員を雇用した日の翌日から10日以内
労働基準監督署・労働保険関係成立届従業員を雇用した日の翌日から10日以内

特に節税効果の高い「青色申告の承認申請書」は提出期限が厳格なため、法人設立届出書と同時に提出するのが確実です。
これらの設立後手続きをすべて完了させて、ようやく本格的に事業をスタートできる状態になります。

「とりあえず会社を作る」という考えは、思わぬ落とし穴にはまる危険性をはらんでいます。

勢いだけで会社を設立してしまうと、資金繰りの悪化や煩雑な手続きに追われ、本来注力すべき事業そのものが立ち行かなくなる可能性があります。

この章では、起業の成功確率を格段に高めるために、会社設立前に必ず押さえておくべき「計画」の重要ポイントを3つの側面から徹底解説します。

融資や補助金の獲得に繋がる事業計画書の書き方

事業計画書は、あなたのビジネスの設計図であり、金融機関や投資家に対して「この事業は将来性があり、投資・融資する価値がある」と説得するための最重要書類です。

自己満足の夢物語ではなく、客観的なデータに基づいた実現可能な計画を示すことが、資金調達成功の鍵を握ります。

事業計画書に盛り込むべき必須項目

事業計画書には、決まったフォーマットはありませんが、融資審査などで必ず問われる項目は共通しています。
特に、日本政策金融公庫が提供する「創業計画書」のフォーマットは網羅性が高く、これをベースに作成するのがおすすめです。

項目記載内容のポイント
1. 創業の動機なぜこの事業を始めたいのか、事業にかける情熱やビジョンを具体的に記述します。
2. 経営者の略歴等これまでの職務経歴や実績、保有資格など、事業に関連する自身の強みをアピールします。
3. 取扱商品・サービス商品の特徴、優位性(独自性)、販売戦略、ターゲット顧客などを明確にします。誰に、何を、どのように提供するのかを具体的に示します。
4. 取引先・取引関係等販売先や仕入先、外注先などを具体的に記載します。すでに見込み客や取引先がいる場合は、その旨を記載すると信用度が高まります。
5. 必要な資金と調達方法設備資金(店舗改装費、機械購入費など)と運転資金(人件費、家賃、仕入費など)に分け、それぞれいくら必要で、それを自己資金と借入でどう賄うのかを明記します。
6. 事業の見通し(収支計画)創業当初から事業が軌道に乗った後の売上高、売上原価、経費、利益の見通しを月単位で作成します。売上予測の「根拠」を明確に示すことが最も重要です。(例:客単価 × 座席数 × 回転数 × 営業日数)

金融機関や審査員を納得させるポイント

事業計画書で最も見られるのは「情熱」と「客観性」のバランスです。熱意はもちろん重要ですが、それを裏付ける具体的な数値やデータがなければ、ただの夢物語と判断されてしまいます。
以下の点を意識して、説得力のある計画書を作成しましょう。

  • 客観的なデータを用いる: 市場規模や競合の状況は、公的な統計データや調査レポートを引用し、情報の信頼性を高めましょう。
  • 具体的な数値で示す: 「頑張ります」「多くの顧客を見込んでいます」といった曖昧な表現は避け、「月間100人の集客を目指す」「客単価は5,000円を想定」など、すべてを数値に落とし込みましょう。
  • 実現可能な収支計画: 希望的観測ではなく、現実的な売上予測と、それに基づいた経費計算を行いましょう。特に創業初期は保守的な計画を立てることが信用に繋がります。
  • 返済計画の明確化: 融資を受ける場合、利益の中からどのように返済していくのかを具体的に示す必要があります。無理のない返済計画は、事業の継続性を示す上で不可欠です。

代表的な融資制度と補助金

創業期に活用できる資金調達方法は多岐にわたります。
返済義務のある「融資」と、原則返済不要の「補助金・助成金」の違いを理解し、自社の状況に合わせて活用を検討しましょう。

種類代表例特徴
融資日本政策金融公庫「新創業融資制度」
地方自治体の制度融資
返済義務あり。創業前や創業直後でも比較的利用しやすい。事業計画書の提出が必須。金利は民間の金融機関より低い傾向にある。
補助金小規模事業者持続化補助金
ものづくり補助金
IT導入補助金
原則、返済不要。特定の経費(販路開拓、設備投資、ITツール導入など)に対して後払いで支給される。公募期間が定められており、申請書類の作成と審査が必要。
助成金キャリアアップ助成金
人材開発支援助成金
原則、返済不要。主に雇用の安定や人材育成を目的とする。要件を満たせば比較的受給しやすいが、社会保険への加入が前提となる。

自己資金はいくら必要?創業時の資金計画

「自己資金ゼロでも起業できる」という言葉を聞くことがあるかもしれませんが、これは非常にリスクの高い選択です。

自己資金は、事業に対する本気度を示す指標であると同時に、創業初期の事業を支える命綱となります。

融資審査を有利に進め、事業を安定的に軌道に乗せるためには、十分な自己資金の準備が不可欠です。

自己資金が重要な理由

  • 融資審査での信用力: 自己資金をコツコツ貯めてきた事実は、計画性の高さを証明し、金融機関からの信用を得やすくなります。多くの創業融資制度では、自己資金の額が融資上限額に影響します。
  • 創業初期の運転資金: 会社設立後、すぐに売上が立つとは限りません。売上がなくても家賃や人件費などの支払いは発生します。この期間を乗り切るための運転資金として自己資金は極めて重要です。
  • 不測の事態への備え: 想定外のトラブルや追加の出費が発生した際に、自己資金があれば迅速に対応でき、倒産のリスクを低減できます。

創業時に必要な資金の内訳

創業時に必要となる資金は、大きく「設備資金」と「運転資金」の2つに分けられます。
これらを正確に洗い出し、総額でいくら必要になるのかを把握することが資金計画の第一歩です。

  • 設備資金: 事業を始めるために最初に必要となる投資的な資金です。
    (例:店舗・オフィスの敷金礼金、内装工事費、PC・事務機器、車両、Webサイト制作費など)
  • 運転資金: 事業を継続的に運営していくために必要となる資金です。
    (例:商品の仕入費用、従業員の給与、地代家賃、広告宣伝費、水道光熱費など)

特に重要なのが運転資金です。

売上が安定するまでの期間を想定し、最低でも3ヶ月分、できれば6ヶ月分の運転資金を自己資金で用意しておくことが、安心して事業に集中するための目安となります。

自己資金の目安と見せ金のリスク

創業融資を受ける場合、一般的に「融資希望額の3分の1から10分の1程度」の自己資金が目安とされることが多いです。
もちろん、多ければ多いほど審査では有利に働きます。
ここで絶対にやってはいけないのが「見せ金」です。
見せ金とは、第三者から一時的に資金を借り、自分の口座に入金して自己資金に見せかける行為です。
金融機関は審査の際に個人の通帳を過去半年〜1年分確認するため、不自然な大口入金はすぐに見抜かれます
見せ金が発覚した場合、人間性を疑われ、融資が受けられなくなるだけでなく、信用情報に傷がつき、将来的な資金調達が非常に困難になるため、絶対にやめましょう。

失敗しない専門家(税理士 司法書士)の選び方

会社設立の手続きや設立後の経理・税務申告は非常に専門的で複雑です。
これらの業務をすべて自分一人で行おうとすると、膨大な時間と労力がかかり、本業に支障をきたす恐れがあります。

早い段階から信頼できる専門家をパートナーにすることで、手続きをスムーズに進め、経営に集中できる環境を整えることができます。

各専門家の役割と相談すべきタイミング

会社設立や運営に関わる専門家は複数存在し、それぞれに得意分野があります。
誰に何を相談すべきかを理解し、適切なタイミングでコンタクトを取りましょう。

専門家主な役割相談すべきタイミング
司法書士会社設立登記の専門家。定款作成・認証、登記申請書類の作成・提出を代行。会社の商号や本店所在地、事業目的などの基本事項が固まった段階。
税理士税務・会計の専門家。設立後の税務届出、記帳代行、決算申告、節税対策、資金調達支援(事業計画書の作成サポート)など。会社設立を考え始めた最初の段階。資本金の額や役員報酬の設定など、設立前から相談することで最適な節税対策が可能になる。
行政書士許認可申請の専門家。建設業、飲食業、古物商など、事業を行うために行政の許可や認可が必要な場合に書類作成・申請を代行。許認可が必要な事業内容を計画している段階。
社会保険労務士労務・社会保険の専門家。従業員を雇用する際の社会保険・労働保険の手続き、就業規則の作成、助成金の申請代行など。初めて従業員を雇用することを検討し始めた段階。

良い専門家を見極める5つのチェックポイント

専門家選びは、今後の事業の成否を左右する重要な要素です。料金の安さだけで選ぶのではなく、以下のポイントを総合的に判断して、長期的に付き合えるパートナーを見つけましょう。

  1. 創業支援や会社設立の実績が豊富か: 自身の業種や創業期の課題に精通している専門家は、的確なアドバイスが期待できます。ウェブサイトで実績を確認しましょう。
  2. コミュニケーションが取りやすく、質問に丁寧に答えてくれるか: 専門用語を多用せず、こちらのレベルに合わせて分かりやすく説明してくれるか、レスポンスは早いかなど、相性の良さも重要です。
  3. 料金体系が明確で、事前に見積もりを提示してくれるか: どこまでのサービスが料金に含まれているのか、追加料金が発生するケースはあるのかなどを事前にしっかり確認しましょう。
  4. 融資や補助金のサポートにも強いか: 特に税理士の場合、金融機関とのネットワークや事業計画書作成のノウハウが豊富だと、資金調達の際に心強い味方になります。
  5. ITツール(クラウド会計ソフトなど)に精通しているか: クラウド会計ソフトの導入をサポートしてくれるなど、新しいツールに柔軟に対応できる専門家を選ぶと、業務の効率化に繋がります。

専門家探しの具体的な方法

信頼できる専門家を見つけるには、いくつかの方法があります。

  • 商工会議所やよろず支援拠点などの公的機関で相談する: 無料で専門家派遣を行っている場合もあり、気軽に相談できます。
  • 日本政策金融公庫など融資元の金融機関から紹介してもらう: 金融機関が信頼する専門家であるため、安心して依頼できます。
  • オンラインの専門家マッチングサイトを利用する: 複数の専門家を比較検討でき、口コミなども参考にできます。
  • 信頼できる経営者仲間から紹介してもらう: 実際に付き合いのある人からの紹介は、ミスマッチが起こりにくい最も確実な方法の一つです。

「とりあえず会社を作る」という安易な判断は、維持コストの発生、煩雑な手続き、事業の柔軟性の喪失といった大きなリスクを伴います。

会社設立には社会的信用の向上といったメリットがある一方、デメリットも少なくありません。

本記事で解説した会社設立の手順や事業計画のポイントを踏まえ、まずはご自身の事業内容や将来の展望を明確にすることが重要です。

税理士や司法書士といった専門家の力も借りながら、計画的に準備を進めることが起業成功への確実な一歩となるでしょう。