【プロが解説】不動産の個人から法人へ売却における注意点と適正な取引額の算定方法

個人から法人へ不動産を売却する際、最も注意すべきは「税金リスク」です。

時価と乖離した価格で取引すると、個人側にみなし譲渡所得税、法人側に寄附金課税や受贈益課税が発生する恐れがあります。

本記事では、低額・高額譲渡の注意点や同族会社間での税務リスクをはじめ、路線価や不動産鑑定評価を用いた「適正な取引額の算定方法」、節税メリット、失敗しない売却手順まで徹底解説します。

結論として、税務トラブルを防ぎスムーズに売却するには、実勢価格に基づいた適正価格の設定が不可欠です。

ぜひ参考にしてください。

個人が所有する不動産を法人へ売却する場合、最も注意しなければならないのが税務署から「適正な取引ではない」とみなされる税金リスクです。

親族会社や自身が経営する法人へ売却する際は、第三者間の売買と異なり売買価格を当事者間で自由に決定しやすいため、税務調査で厳しくチェックされます。

不動産の売却価格が市場の「時価(適正価格)」から外れていると、個人と法人の双方に想定外の追徴課税が発生するおそれがあります。

税金リスクを回避するためには、どのような取引が税務上問題視されるのかを正確に理解しておくことが不可欠です。

1.1 時価より安く売却する低額譲渡の注意点と税金計算

不動産を時価よりも著しく低い価格で法人へ売却することを「低額譲渡」と呼びます。

節税目的で売買代金を安く抑えようとすると、個人・法人の双方に強力な課税関係が生じるため注意が必要です。

個人側では、時価の50%未満などの著しく低い価額で売却した場合、実際には受け取っていない「時価」で売却したものとみなされる「みなし譲渡所得課税」が適用されるリスクがあります。

これにより、売買代金以上の税金が課される事態に陥りかねません。

一方、法人側では、時価と実際の売買価格との差額分をタダで利益を得たとみなされ、差額相当額が「受贈益」として法人税の課税対象になります。

対象税務上の取り扱い発生する税金リスク
個人(売主)時価で譲渡したとみなされる(みなし譲渡)譲渡所得税・住民税の追徴課税
法人(買主)時価と購入額の差額を受贈益として計上法人税の課税(受贈益課税)

このように、低額譲渡は売り手にも買い手にも税負担が増すだけの結果となるため、時価から離れた安値での取引は避けるべきです。

1.2 時価より高く売却する高額譲渡の注意点と法人税リスク

低額譲渡とは反対に、法人に資金を移動させる目的などで不動産を時価よりも著しく高い価格で売却することを「高額譲渡」と呼びます。

高額譲渡も税務署から不正な利益調整と判定される典型的なケースです。

個人(売主)が法人の役員や株主である場合、時価を超える金額は「不動産の売却対価」ではなく、法人から支払われた「役員賞与(給与所得)」と判定されるリスクがあります。

給与所得とみなされると総合課税の対象となり、最高税率約55%(所得税・住民税)が適用されるため、分離課税である通常の譲渡所得税(約20%)よりも遥かに重い税負担が課されます。

また、法人側においても、時価を超えて支払った差額分は「役員給与」として扱われ、法人の税務上、損金(経費)として認められない(損金不認容)ため、法人税の軽減効果を得ることはできません。

対象税務上の取り扱い発生する税金リスク
法人(買主)時価超過分が役員賞与認定され損金不算入となる損金不認容による法人税の負担増

1.3 同族会社間で不動産を売却する際の税務上の注意点

個人とその親族が過半数の株式を所有する同族会社との間で不動産取引を行う場合、国税庁からの監視の目はさらに厳しくなります。

同族会社間の取引には、法人税法第132条などで規定されている「同族会社の行為計算の否認規定」が適用される可能性があるためです。

1.3.1 行為計算の否認規定による税額の再計算

行為計算の否認とは、形式的には法律に違反していなくても、税負担を不当に減少させる目的で行われたと税務署長が判断した場合、その取引内容を税務署側の計算で修正し、課税できる強力な権限です。
契約書や名義変更の手続きを正しく完了させていても、実態に合わせて否認される恐れがあります。

1.3.2 利益相反取引に関する会社法上の手続き

役員個人と会社との間で不動産を売買する場合、会社法上の「利益相反取引」に該当します。
承認手続きを怠ると取引自体が無効と主張されるリスクや、税務上の信頼性を著しく損なう原因となります。
同族会社間で売却する際は、以下の税務・法務上の要件を必ず満たさなければなりません。

売買を実施するにあたっては、取締役会(または株主総会)での事前承認と議事録の作成・保管が法的に必須となります。
さらに、不当な取引と疑われないために、適切な価格設定の根拠書類(不動産鑑定評価書など)を残し、実際に資金移動が行われた証拠(銀行振込の控え等)を揃えておくことが、税務リスクを防ぐ鍵となります。

会社設立の代行費用実質0円、個人事業主とのメリットデメリット流れと手順

個人から法人(特に自身が設立した役員を務める同族会社など)へ不動産を売却する際、最も重要となるのが税務上で「時価」と認められる適正な取引価格の算定です。

親族間や同族会社間の取引では任意の売買価格を設定しがちですが、客観的な根拠に基づかない価格設定は税務署から「低額譲渡」または「高額譲渡」と判断され、予期せぬ追徴課税を受けるリスクが生じます。

ここでは、税務トラブルを未然に防ぐために不可欠な適正価格の具体的な算定手法を解説します。

2.1 路線価や固定資産税評価額を用いた算定方法

不動産の適正価格を算出する際、公的な指標として広く用いられるのが「路線価」や「固定資産税評価額」です。

これらは行政手続きや税金の課税標準となる数値ですが、公的評価額をそのまま売買価格として採用すると実勢価格(実際の市場取引価格)との差額が生じ、税務上のリスクを抱える可能性があります。

一般的に、路線価は公示地価の約8割、固定資産税評価額は公示地価の約7割を目安に設定されています。

そのため、土地の適正な時価を公的評価額から推計する場合は、実勢価格に近づけるための割り戻しや適切な補正計算が必要です。

指標の種類価格の目安(対公示価格)税務上の時価算定における活用法と注意点
路線価(相続税路線価)公示価格の約80%路線価を0.8で割り戻すことで公示価格相当を算出可能。ただし、実際の市場取引価格(実勢価格)と乖離するケースがある。
固定資産税評価額公示価格の約70%建物の評価基準として用いられることが多い。土地に関しては実勢価格より大幅に低い場合があり、そのままの金額での取引は危険。
公示地価・基準地価市場価格の100%相当国や都道府県が公表する標準地の価格。近隣に標準地がある場合の指標となるが、個別の土地形状や接道状況までは反映されない。

公的価格をベースに売買価格を決定する場合は、単に数値をそのまま当てはめるのではなく、周辺の類似取引事例や土地の形状などの個別の要因を考慮して実勢価格との乖離を埋める明確な算定根拠を残しておくことが重要になります。

2.2 実勢価格を反映させる不動産鑑定評価の活用

同族会社間や親族が関わる法人への売却において、最も確実に適正価格(時価)を立証する方法が、国家資格者である不動産鑑定士に不動産鑑定評価を依頼することです。

税務調査において税務署は、売買価格が「第三者間取引と同等の適正な時価であったか」を厳格に検証します。

一般的な不動産業者が発行する簡易な査定書だけでは、税務署に対して十分な客観的根拠と認められないケースも少なくありません。

不動産鑑定士が作成する「不動産鑑定評価書」は、収益還元法や取引事例比較法などの専門的な手法を用いて価格を算出するため、税務署に対しても極めて高い証明力を持ちます。

2.2.1 不動産鑑定評価を活用すべき主なケース

費用は発生するものの、以下のようなケースでは不動産鑑定評価を取得するメリットが非常に大きくなります。

  • 同族会社の役員個人と法人間の取引で、追徴課税のリスクを極力ゼロに近づけたい場合
  • 商業ビルや一棟収益マンションなど、取引額が高額で市場価格の把握が難しい物件の場合
  • 不整形地や再建築不可物件など、公的評価額と実勢価格の差が著しく大きい場合

不動産鑑定評価書を取得しておくことで、将来的に税務署から取引価格について指摘を受けた場合でも、合理的かつ公的な根拠をもって適正な時価であったことを証明可能となります。

2.3 建物価格と土地価格の合理的な適正価格設定

不動産売買においては、取引全体の総額だけでなく、「土地価格」と「建物価格」の内訳を合理的かつ適正に按分して設定することが極めて重要です。

なぜなら、消費税の取り扱いにおいて「土地は非課税」ですが「建物は課税対象」となるためです。

また、買主となる法人側では建物価格が減価償却費の計算基礎となり、将来の法人税の金額に直接影響を与えます。

意図的に建物価格を高く(または安く)設定すると、消費税の不正な回避や不当な損金算入とみなされるおそれがあります。

2.3.1 合理的とされる土地・建物の按分方法

土地と建物の内訳金額を決める際は、主に以下のいずれかの客観的な方法を選択します。

按分手法計算方法の概要特徴と税務上の安全度
固定資産税評価額の比率による按分土地と建物の固定資産税評価額の比率に合わせて売買総額を按分する。実務で最も広く使われている手法。客観的な公的データに基づいているため税務上のリスクが非常に低い。
不動産鑑定評価額の比率による按分不動産鑑定士が評価した土地・建物の評価額比率で按分する。最も高い証明力を持つ。高額物件や建物価値の判断が難しい物件において最適。
建物の未償却残高に基づく按分売主(個人)の確定申告における建物の未償却残高を建物価格とし、残額を土地価格とする。売主の帳簿価格を基準とするため計算は容易だが、建物の築年数や状態によっては実勢価値と乖離する場合がある。

当事者間の合意のみで土地・建物の比率を恣意的に決めるのではなく、固定資産税評価額比率などの明確で客観的な基準に基づいて売買契約書を作成することが税務トラブルを防ぐための必須条件となります。

会社設立の代行費用実質0円、個人事業主とのメリットデメリット流れと手順

個人の所有する不動産を自社や自法人へ売却する取引は、単なる所有名義の変更にとどまらず、将来にわたる税負担や資産管理構造を大きく変化させます。

検討にあたっては、売却によって得られる税金面や相続対策上のメリットだけでなく、移転時のコストや維持費といったデメリットも含めて総合的に判断することが重要です。

3.1 譲渡所得税の軽減や相続税対策などのメリット

個人から法人へ不動産を移転させることで、税率の差を利用した税負担の軽減や、将来の資産承継に向けた高度な節税対策が可能になります。

具体的なメリットは以下の通りです。

3.1.1 個人と法人の最高税率差による税負担の軽減

個人の所得税および住民税の最高税率は合計で55%に達するのに対し、法人の実効税率は約30%から34%程度にとどまります。
不動産から生じる家賃収入や将来の売却益を個人から法人へ移すことで、適用される税率の差を利用して世帯全体の税負担を大幅に軽減できるようになります。

3.1.2 相続税対策と将来の資産承継の円滑化

個人のまま不動産を保有し続けると、不動産評価額がそのまま相続税の課税対象となります。
しかし、資産管理法人へ不動産を売却して法人保有とすることで、不動産そのものではなく自社株の形で資産をコントロールできるようになります。
家族を法人の役員にして役員報酬を支給することで、生前に資産を分散し相続税の課税価格を圧縮する効果が期待できます。
また、不動産の共有名義化を防ぎ、将来の遺産分割協議をスムーズに進行できる点も大きな利点です。

3.1.3 経費計上の範囲拡大と損益通算・繰越欠損金の活用

個人事業主の不動産所得と比較して、法人では認められる経費の範囲が広がります。
役員報酬の設定、生命保険料の活用、出張旅費規程に基づく日当の支給など、多様な節税手法が選択可能です。
また、法人の場合は不動産事業以外の事業での赤字と相殺できるほか、発生した欠損金を最長10年間にわたって繰り越して将来の黒字と相殺できるため、中長期的な税金コントロールが容易になります。

3.2 名義変更にかかる諸費用と資金調達のデメリット

個人から法人への売却には魅力的なメリットがある一方で、移転に際して発生するイニシャルコストや維持管理コスト、法人側の資金調達といったハードルも存在します。

3.2.1 所有権移転に伴う多額の諸費用負担

不動産の所有権を個人から法人へ移転する際には、法的な名義変更手続きが必要になります。
これには登録免許税や不動産取得税、印紙税、さらには手続きを依頼する司法書士への報酬などが発生します。
これらの諸費用は不動産の評価額によっては数百万円規模の資金手当てが必要になるため、事前に正確な見積もりを立てておく必要があります。

3.2.2 買い手となる法人の資金調達と融資審査の壁

法人が個人から不動産を買い取るためには、売買代金を決済するための十分な手元資金または金融機関からの融資が必要です。
設立直後の法人や決算内容が不十分な法人の場合、金融機関からの融資審査が厳しくなる傾向があります。
資金調達が難航すると売買取引自体が成立しなくなるリスクがあるため、金融機関との事前交渉と綿密な資金計画の策定が不可欠です。

3.2.3 法人維持コストの発生と事務負担の増加

法人を保有・維持するためには、たとえ赤字であっても毎年発生する法人住民税の均等割額の支払いや、複式記帳・決算申告に伴う税理士等への報酬といった固定コストがかかります。
不動産から得られる収益が少額である場合、節税効果よりも法人の維持管理費が上回り逆効果となるリスクがあるため、収支バランスを見極めることが重要です。

比較項目メリットデメリット
税率・節税面個人最高税率(55%)から法人実効税率(約30〜34%)への軽減、経費枠の拡大所得規模が小さい場合は節税メリットが出にくい
資産承継・相続対策役員報酬による生前贈与効果、自社株評価を通じた相続税対策、遺産分割の簡略化株式の所有割合や役員構成などの管理・設計が必要
移転・維持コスト法人側での減価償却費の再計上による将来の節税効果登録免許税、不動産取得税などの初期費用、法人住民税均等割などの固定費が発生
資金・手続面法人の実績構築や信用力の向上につながる場合がある法人の購入資金調達(融資審査)が必要、複式記帳や決算申告の負担増
会社設立の代行費用実質0円、個人事業主とのメリットデメリット流れと手順

個人から自身が経営する法人や同族会社へ不動産を売却する際は、第三者間の売買とは異なり、税務署から取引の妥当性を厳しくチェックされます。

トラブルを避け、税務上のリスクを最小限に抑えるためには、順序立てて正確に手続きを進めることが不可欠です。

ここでは、具体的な売却手順と各フェーズにおける重要ポイントを解説します。

不動産の売却手続き全体の大まかな流れと主要なポイントは以下の通りです。

手順フェーズ主な実施内容必要書類・対応者
Step 1事前準備・価格算定税理士や不動産鑑定士へ相談し、適正な売買価格(時価)を算出する不動産鑑定評価書、固定資産税評価証明書など
Step 2売買条件の決定・契約取締役会の承認などを経て、適正価格に基づき不動産売買契約を締結する不動産売買契約書、取締役会議事録(株主総会議事録)
Step 3決済・所有権移転売買代金の決済を行い、司法書士の立ち会いのもと名義変更手続きを行う登記識別情報(権利証)、印鑑証明書、登記申請書
Step 4確定申告・決算処理個人側は譲渡所得の確定申告、法人側は取得資産としての会計処理を行う確定申告書、譲渡所得の内訳書、法人決算書

4.1 適正価格の調査と売買条件の確定

売買手続きの最初の段階において最も重要なのは、税務署から適正価格と認められる客観的な根拠を用意することです。

個人と法人の間の取引では、当事者間の合意で任意に価格を設定しやすいため、取引価格が不当に操作されたと疑われやすくなります。

4.1.1 客観的な時価の算出と根拠書類の準備

税務上の時価から大きく外れた価格で取引を行うと、個人側にはみなし譲渡課税、法人側には受贈益課税などが課されるリスクが生じます。
そのため、近隣の取引事例や路線価、固定資産税評価額を基に評価を行うとともに、必要に応じて不動産鑑定士による不動産鑑定評価書を取得することが推奨されます。

4.1.2 取締役会の承認と売買契約書の作成

役員個人と法人との間の不動産売買は、利益相反取引に該当します。
そのため、法人側では取締役会(取締役会非設置会社の場合は株主総会)を開催し、取引の承認を得た旨を記載した議事録を作成・保管することが法律上義務付けられています。

また、第三者間取引と同様に不動産売買契約書を作成し、売買代金、支払期日、所有権移転の時期、固定資産税の精算方法などの売買条件を明確にしておきます。
契約書には所定の印紙税法に基づく収入印紙を貼付します。

4.2 譲渡所得の確定申告と法人側の決算処理

不動産の引渡・代金決済および所有権移転登記が完了した後も、個人と法人の双方で税務上の事後処理が必要です。

手続きを怠ると加算税などのペナルティを受ける可能性があるため注意しましょう。

4.2.1 個人側の手続き:譲渡所得の確定申告

不動産を売却した個人は、売却した翌年の2月16日から3月15日までの間に、所轄の税務署へ譲渡所得の確定申告を行う必要があります
売却によって譲渡益(売却益)が発生した場合はもちろん、特例を適用する場合にも正確な申告手続きが必要です。

確定申告の際には、不動産売買契約書や仲介手数料・登記費用の領収書、取得時の売買契約書など、譲渡所得の計算根拠となる書類を添付・提出します。

4.2.2 法人側の手続き:資産計上と決算処理

不動産を購入した法人側では、取得した不動産(土地・建物)を固定資産として会計帳簿に計上します。
土地は非減価償却資産ですが、建物や附属設備については耐用年数に応じた減価償却費を毎期の損金として計上していきます。

売買代金の資金調達方法(役員借入金や金融機関からの融資など)に応じた適正な会計処理を行い、法人の事業年度末における決算申告へ適切に反映させることが求められます。

個人から法人へ不動産を売却する際は、時価と乖離した価格で取引を行うと低額譲渡や高額譲渡とみなされ、予期せぬ課税リスクが生じる点に最大の注意が必要です。

特に同族会社間での取引は税務調査の対象となりやすいため、不動産鑑定評価などを活用して土地・建物の合理的な適正取引額を算出することが、税務トラブルを回避するための鍵となります。

譲渡所得税の軽減といったメリットを確実に享受するためにも、正しい売買手順を把握し、税理士をはじめとする専門家へ相談のうえで確定申告まで厳格に行いましょう。

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